第38噺 (145噺中) 「子宮内膜症」
子宮内膜の組織が本来存在するべきではない場所の臓器や器官に存在して、生理周期(月経周期)に呼応して増殖・脱落・出血を繰り返し、その出血により症状が発現する病気です。
子宮筋層内に存在する子宮内膜症を「子宮腺筋症」と呼び、子宮外に存在する子宮内膜症を「外性子宮内膜症」と呼び、さらに骨盤内子宮内膜症と骨盤外子宮内膜症に分類されます。婦人科的に重要なのは骨盤内子宮内膜症で、これを一般に「子宮内膜症」と呼びます。
子宮内膜症の発生機序については、いろいろな説があります。
①生理中に生理血が卵管から腹腔内に逆流して、子宮内膜細胞が子宮外へ移植してしまったという説。
②婦人科生殖器(子宮・卵管・膣)以外の腹膜や臓器粘膜もホルモンの影響を受け、子宮内膜細胞に変身する可能性があるという説。
③発生の途中で、子宮内膜になるべく使命を帯びた子宮内膜細胞が、子宮内へ移動中に誤って取り残され、他の臓器に囲まれ置き去りにされてしまったという説。
④癌抑制遺伝子なるものが正常に働かなくなったからという訳のわからない説。
原因は兎も角として、子宮内膜の細胞が本来ない場所に存在していて、増殖と出血を繰り返しているのが、この病気の臨床症状を作っています。
その症状は表に示すように多岐にわたっています。
では、出血を伴うと何故症状が出現するのでしょうか?実は、血液は血管内に流れている分には問題ありませんが、一たび血管外に出ると「痛み物質」や「刺激物質」に変身するのです。
私が経験した患者さんは、1年前から毎月膀胱炎になると言って来院した患者さんです。毎月地元の婦人科で急性膀胱炎の診断を受け、その都度、抗生剤の処方を受けていましたが、さすがに1年も続くと『おかしい?』と思うようになり、当院に来院したのです。経過を聞いただけで「膀胱内の子宮内膜症!」と疑いました。超音波エコー検査と内視鏡検査で子宮内膜組織と思われる直径2cm大の腫瘍を確認し、大学の婦人科を紹介しました。
写真の赤い部分は最近の生理、青いのは前回の生理、黒いのは前々回の生理で生じた出血の跡だろうと推察できます。この膀胱内の子宮内膜症は、仮説③の発生の途中で取り残された子宮内膜細胞だろうと考えられます。
余談ですが、この患者さんの内視鏡検査の時に、私は今の仕事が天職だと悟ったのです。
【参考資料】
標準産婦人科学 医学書院
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