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第20噺 (145噺中) 「糖尿病」

国民病とも言われている「糖尿病」は予備軍も含め日本人の5人に1人と言われています。
私たちの先祖の動物は、何千万年も常に飢餓で苦しんでいました。食べ物が口に入るのが1週間に1度でもあれば、画期的な事でした。糖分は身体を動かすためのエネルギーです。ですから血液中の糖分濃度を上げるのは生体内で至上命令です。そのため血糖を上昇させる働きのあるホルモンは実にたくさんあります。男性ホルモン・女性ホルモン・副腎皮質ホルモン・昇圧ホルモンなど数えたらきりがありません。何千万年もの間、満腹になることはありませんでしたから、血糖を下げる事はほとんどなかったので、血糖の細かい調節のためだけで十分だったのです。唯一ただ一つの血糖を下げるホルモン、それが膵臓から分泌されるインスリンだったのです。

下等な動物から高等動物に進化した人間は、厳しい自然環境の中でコンスタントに食料を手に入れることが出来るようになりました。1週間に1回の食事が、毎日1回に、毎日2回に、毎日3回にと増え、毎回毎回満腹状態になるような生活環境に変貌したのです。

食生活が豊富になったからと言って、体内環境がおいそれと直ぐに進化する訳ではありません。相も変わらず血糖を下げるのは、膵臓のインスリン一人に任せきりです。恐らく、生体の膵臓は、このような状態を想定していなかったのでしょう。『想定外だ!』と思ったか?簡単に膵臓が疲れ切って疲弊しインスリン分泌が悪くなり、その結果、「糖尿病」と呼ばれる病気になったのです。

糖尿病が全て解明している訳ではありません。まだ分からないこともたくさんあります。
1型糖尿病は、膵臓が何らかの炎症を起こしインスリンが作れなくなってしまった状態です。若い人で発症することが多く、インスリン注射治療が必須です。
2型糖尿病は、十分に分泌しているにも関わらず、血糖を下げるというインスリンの効果が低下し、膵臓に長期間にわたって負荷が掛かり、遂にはインスリンが作れなくなるまで膵臓が疲弊した状態です。治療は膵臓の負担を減らすために、インスリン効果を高める薬剤や糖分の吸収を遅らせる薬剤や合成インスリンで補充・補助するなどの対策をとります。

【内服治療】
●インスリン分泌を促進する薬剤(オイグルコン)
昔から使用されていた薬剤です。膵臓を刺激してインスリンの分泌を促す薬剤です。しかし、疲弊して疲れ切った膵臓の尻を叩くことにもなるので、究極、膵臓をダメにすることがあります。

●糖分吸収を引き延ばす薬剤(ベイスン・グルコバイ)
糖尿病の病態生理で悪いのは、糖分が直ぐに吸収されて起こる食後の急激な過血糖です。この現象を緩和させるために、小腸での糖分吸収を遅らせます。欠点として、糖分が大腸まで残るので、大腸菌による発酵反応のガス産生が盛んになり、お腹がパンパンになります。

●肝臓の糖新生糖分を抑制させる薬剤(メトグリコ・グリコラン)
肝臓ではグリコーゲンからブドウ糖に糖新生が行われる。この糖新生を抑制することで血糖を上げないようにする薬剤です。体内で作られた老廃物である乳酸が、この薬剤の影響で分解されなくなり、乳酸アシドーシスという血液が酸性に傾く副作用が出ることがあります。欧米の医師は多用するが、日本では、この薬剤を処方する医師は少ないようです。

●インスリンの効果を高める薬剤(アマリール・アクトス)
糖分が脂肪になるように促す作用を持ち、結果としてインスリンの効果を高めます。しかし、血小板減少などの副作用が懸念されています。
アクトスは副作用として膀胱癌が懸念されていて、アメリカでは訴訟を起こされています。

Dokutokage●食事に応じてインスリン分泌を調節する薬剤(DPP-4阻害薬、ジャヌピア・グラクティア)
GLP-1の分解酵素であるDPP-4の作用を抑制する薬剤である。砂漠の毒トカゲがドカ食いしても血糖が上がらない理由を突き止めたら、口の中にGLP-1というホルモンを分泌する器官があることが判明した。GLP-1は、インスリンの分泌を促す作用があり、人間では小腸に存在します。しかし、人間ではDPP-4という酵素によって直ぐに分解されるので、糖尿病の人では膵臓にインスリン分泌を促せなくなります。そこで、DPP-4阻害薬を作り、これでGLP-1が分解されないように一定時間存続させようとするのが、この薬剤です。とても生理的に膵臓を刺激するので、現在多くの医師が処方しています。他の種類の薬剤との併用もOKです。【画像:ウィキペディアから】

●糖分を尿から排泄させる薬剤
一番新しい薬剤です。腎臓から糖分の排泄を促進させて血糖を下げるという薬剤です。頻尿・多尿・尿路感染症・脱水の副作用があるとされていますが、使用されて間もないのでハッキリしたことは言えません。

【インスリン注射】
膵臓が完全に廃絶してインスリンが全く分泌されていない場合や、インスリンは分泌しているが膵臓の負担を軽減するために注射によってインスリン補充する治療法です。

●超速効型インスリン
一番新しいインスリン製剤です。注射して10分で効果が発現します。最大効果作用時間が2時間前後です。食事直前でも食直後でもOKとされています。1日3回食前に注射します。
●速効型インスリン
注射して効果発現まで30分間以上かかります。最大効果作用時間が2時間前後です。超速効型インスリンが出現する前までの薬剤です。
●中間型インスリン
注射して効果発現まで1時間ほどかかり、最大効果作用時間が6時間前後の薬剤です。
●混合型インスリン
速効型と中間型の長所を引き出すために混合した薬剤です。二相制の作用時間を利用しています。通常朝晩の1日2回注射します。
●持続効果型インスリン
ピークがなく効果が24時間継続する薬剤です。基礎インスリンとして使用されます。1日1回の注射でOKの薬剤です。

【治療計画】
上記に挙げた薬剤やインスリン注射を駆使して患者さんを治療します。
軽症であれば、食事療法+運動療法で十分でしょう。
軽症~中等症であれば、上記にDPP-4阻害薬を使用すれば、生理的な血糖動態になると考えられます。
中等症以上であれば、持続効果型インスリン+DPP-4阻害剤の併用が良いかも知れません。
重症であれば、強化インスリン療法の適応で、超速効型インスリン1日3回+持続型インスリン1回の併用療法が良いでしょう。強化インスリン療法で膵臓が安定したら、インスリンの量を減らす方向に変えていきます。

Ages【病態生理】
では、血糖が高いと何故体に良くないのでしょう。
消費されないで血液中にさまよっている糖分は、AGEs(最終糖化生成物)に変化して、身体の隅々に付着します。イラストはAGEsが身体に影響する状況を示しています。つまり動脈の細部に至るまで動脈硬化を起こすのです。その結果、高血圧・脳梗塞・心筋梗塞・動脈閉塞症・糸球体腎炎・脳軟化症など、およそ血管に関係するあらゆる病気を併発するのです。

Monocyteendothe動脈は、血管の振動、脈波によって絶えずストレスが掛かっています。1回のドッキンという脈波で血管壁の内皮細胞には70回の過速度のストレスが掛かります。1日に10万回の心拍数がありますから、毎日700万回のストレスが血管の内皮細胞に掛かることになります。当然、ダメになる内皮細胞が出てきます。骨髄は、その内皮細胞を補充するために、単球などの細胞を供給します。傷害を受けた場所には接着分子なるものが単球を補足して、内皮細胞に仕立てたり、マクロファージに仕立てて動脈硬化の成分にします。
糖尿病によって生じたこのAGEs(最終糖化生成物)は、内皮細胞になるための接着分子をブロックして、動脈硬化の成分であるマクロファージの接着分子だけになるので、動脈硬化がドンドン進むのでしょう。

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