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第16噺 (145噺中) 「健康診断」

人間ドッグで全ての検査が正常と診断される人間はどのくらい割合で存在するのでしょう。
恐らく、30%も存在しないでしょう。

最近、健康診断や人間ドックの正常値・基準値について話題になりました。人間ドック学会が唱えたコレステロールの正常値が、従来の正常値に比較して甘いというものでした。

血液検査の正常値はどのようにして決定されるかご存知ですか?
健康人の集団全員に一つの検査を行います。
出てきた検査結果を並べると、きれいな左右対称のシンメトレルの正規分布になります。
この正規分布の両端の最低値2.5%と最高値2.5%を除いた95%に入る人を正常値にしているのです。
ですから、どんなに健康人でも5%の人は、一つの検査で異常と判定されるのです。
健康の95%の人が収まる値ですから納得がいきますね?でも、ここにトリックが隠されているのです。

【グラフ】 正規分布曲線 seikibunpu.gif

人間ドッグは検査一つだけではありません。一般的には次のような検査があります。
●身長・体重:肥満度
●血圧測定:
●血液検査:
白血球・赤血球・ヘマトクリット・ヘモグロビン・総タンパク・尿素窒素・クレアチニン・尿酸・総コレステロール・中性脂肪・HDL(善玉コレステロール)・GOT・GPT・γGTP・LDH・ALP・総ビリルビン・膠質反応・血糖・ヘモグロビンA1cなど
●胸部レントゲン写真:肺がん・肺結核検診
●胃カメラ・胃レントゲン:胃がん検診
●腫瘍マーカー:PSA・CEA・CA19-9・AFP・CA125
●尿検査:潜血・タンパク・糖・細胞診・円柱
●便検査:大腸がん検診
●眼底検査:動脈硬化・糖尿病
●心電図:狭心症・心筋梗塞・不整脈
●超音波エコー検査:腹部・心臓
●脳MRI検査:脳腫瘍・脳梗塞・動脈瘤検診
●脈波測定:動脈硬化度

40歳以上の方で、これら全ての検査を正常で乗り切れる方がいるでしょうか?ほとんどの方が否定するでしょう。
例えば、血液検査だけでも20項目の検査を行ったとします。健康な人が1項目当り正常値である確率を0.95として計算すると、20項目の検査で全て正常値である確率は、0.95×0.95×・・・の20乗で約34%です。
同じようにして30項目の場合は、0.95の30乗で約20%になります。
胸部レントゲン写真などの画像診断の場合は、もっと正常になる確率が少なくなりますから、健康人が正常と診断される確率はもっと少なくなります。
これら全てを乗り切ることが出来たら、恐らくNASAの宇宙飛行士の身体検査をもパスするでしょう。
お分かりのように、人間ドッグや健康診断はあくまでも参考程度の判断材料です。
ほとんどの方が異常にしか診断されないようになっているからです。

検査値の正常範囲は、病院や検査会社でまちまちです。なぜなら、それぞれの施設で正常値を得るために自分たち施設で行った母集団を基にするからです。
もし、病院の経営者が悪意に満ちて、正常範囲を母集団の95%から93%に縮小すれば、異常としてチェックされる健康人は増える訳です。
健康診断で異常が出れば、健康診断を行った病院で再検査・精密検査を薦められるので、病院側としては収入が増えることになります。
人間ドッグの検査データを患者さんがお持ちになり拝見させていただくことが多い昨今です。
総コレステロールの正常値は220以下の筈ですが、中には119以下としているデータもあります。
220も119も一見たいしたことはありませんが、患者さんを増やそうとする意図が見て取れるのは私だけでしょうか?

30%くらいの人が正常で残り70%の人が異常と診断される診断法を健康診断というのは言葉の使い方を間違えているとしか思えません。
考えようによっては、人間ドッグや健康診断は病気製造ソフトといっても言い過ぎではないでしょう。

検査結果に一喜一憂して振り回されないようにしましょう。

健康診断を受けるのは、医学知識を表面的にしか理解していない一般人です。その方々を健康診断の名の下に病気を見つけるという手段に疑問を感じているのです。健康診断は、その母集団がほとんど健康で、その多くの人々の中から埋没してしまうであろう「わずかな人」の病気・未病を見つけるのが目的です。ところが、検査の正常値が上記のように定められているので、かなりの確率で健常人が不健康になります。そうなると、健康診断ではなく「病気製造診断」と呼ばれてもいいくらいの営利手段になります。

ご存知の方も大勢いるでしょうが、一般の健康診断で見つかる悪性疾患は非常に少ないのです。行政の負担によって行なわれる肺癌検診・胃癌検診・子宮癌検診は、その費用対効果が非常に少ないということで中止になろうとさえしています。医師会は必死になって行政と交渉していますが、恐らくは時間の問題で中止になるでしょう。
個々の病気の専門検診でさえ、エビデンスが少ないことで疑問を持たれているのに、駄々ら行なっている一般健診に疑問を持っても不思議ではないでしょう。

健康診断の欠点は、たくさん検査を行えば、思わぬ病気が発見されるだろうという誤解から来ています。目標が定まっていない最大公約数的な発想の健康診断検査では、隠れている病気を見つけることは出来ません。
一つの病気を見つけ出そうと、その病気に目標を定めた検査しか病気を見つけることが出来ないのが事実です。然るに医師も一般の方も健康診断で何でもかんでも病気が発見できると思い込んでいるところに誤解があります。
以前は成人病と呼ばれた生活習慣病は、レントゲン検査・血液検査・尿検査・心電図などを行うまでもなく、職業・風貌・日常生活・家族歴をお聞きするだけで50%以上の診断率で判断できます。実際の健康診断は、職業・風貌・日常生活・家族歴を聞きもせずにデータだけで判断するので、必要な人は見逃し、健常人には異常と診断するといった可笑しな現象が起きるのです。

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コメント

近藤誠先生が健康診断は意味がない 健康診断が病を作るなどと不要としています どう思われますか?
【回答】
ここに書いてあるのが私の意見です。

投稿: 患者 | 2014/10/10 20:52

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