第三噺 (145噺中) 「動脈硬化」
年を重ねるに従い血管が硬くなります。これを「動脈硬化」といいます。
動脈硬化が原因で起きる病気に、高血圧・脳梗塞・心筋梗塞・下肢動脈閉塞症などがあります。動脈硬化と聞けば、直ぐに思いつくのがコレステロールでしょう。血液中のコレステロールを下げてあげれば、動脈硬化の進行は防ぐことが出来ると短絡的に考えがちです。それは専門の医師でも一般の素人でもそのように考え、治療したり治療されたりします。
ところが、例えば、脳梗塞は一度発症すると10年間に同じ患者さんが50%の確率で再発するという事実があります。コント55号の坂上二郎さんは、3度目の脳梗塞が原因で亡くなられました。では、そのような患者さんたちが治療を全くしていなかったか?というと、皆まじめ治療に励んでいました。血圧を下げ、コレステロールを下げ、水分をたくさん摂取し血液をサラサラにしていたのです。然るに脳梗塞の再発を免れることは出来なかったのです。
「動脈硬化」は一度発症すると、ドンドン進行します。これを私は「一途な動脈硬化」と呼んでいます。
動脈硬化の始めのきっかけは、コレステロールではなく、血管の内皮細胞の障害が原因であることが分かっています。私たちが感じることのできる脈拍、手首のドッキンという感覚を血管の脈波と言います。1回、あるいは1個の脈波は図で示すように70個もの過速度の集合した波です。
私たちは1日10万回の脈拍がありますから、10万回×70個=700万回の過速度を血管の内皮細胞が受けることになります。1年で25億5500万回、10年で255億5000万回と膨大な量の過速度を血管内皮細胞が受けます。
内皮細胞が受ける過速度を極微の世界で表現すると図で示すようになります。
1回の過速度で、内皮細胞に図のように剪断力がかかります。これを繰り返し何回も何回も受ければ、当然内皮細胞に傷害が来します。
内皮細胞が傷害を受ければ、血液中の単球(モノサイト)を吸着し血管内に取り込みます。単球はマクロファージに変身し、血管内のコレステロールを貪食し、泡沫細胞に変身します。これが動脈硬化の初期の状態です。内皮細胞が傷害を受け続ければ、この現象は発展し動脈硬化が進むのです。動脈硬化が進むと血管は更に硬くなります。硬くなった血管を通過する脈波はさらに速くなり、過速度の強さは同じでも短時間で負荷がかかることになるので、内皮細胞にかかる過速度の剪断力は強くなって、内皮細胞が傷害されるスピードは更に増し、動脈硬化はドンドン進むのです。
これでは打つ手がないように思われますよね?
それがあるのです。初めの脳梗塞と心筋梗塞の再発率のグラフをご覧下さい。同じ動脈硬化が原因なのに再発率が2倍以上も違うのに私は疑問を感じました。何が違うんだろうと?
違いがあるのです。心筋梗塞の患者さんの多くに亜硝酸系・ニトログリセリン系の薬剤が処方されるのです。ニトロは体内で一酸化窒素に変換します。一酸化窒素NOは血管平滑筋の緊張を緩め脈波の速度をゆっくりにしてくれます。そして内皮細胞の再生力にも手を貸してくれるのです。
今では、排尿障害の治療薬であるザルティア(PDE5阻害剤)が、平滑筋内の一酸化窒素NOの持続時間を延長してくれるので、動脈硬化の治療に期待されています。ある意味、アンチエイジングの秘薬になるかも知れません。
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