第四噺 (145噺中) 「虫垂炎」
一般的に「盲腸」と呼ばれるのが「虫垂炎」です。
虫垂はその名の通り、虫のような形で回盲部に垂れ下がっている組織です。長さが4cm~10cmくらいで、中に免疫組織が入っているとのこと。何故このような言い方をするかと言えば、虫垂炎の手術の時に、パンパンに腫れた虫垂しか見たことがなからです。解剖学的に回盲部の大腸(上行結腸)の「結腸ひも」という筋状の組織の末端に虫垂が存在しますから、手術の際には結腸ひもを目標に2本のピンセットを駆使して虫垂を探します。
虫垂炎の症状は腹痛ですが、虫垂の存在する右下腹部が痛くなるのは、虫垂炎が進んだ時です。虫垂炎の初期症状は、上腹部痛・胃痛症状なので、診察の時に注意を要します。「胃が痛い」と言って来院された患者さんを急性胃炎・胃潰瘍などと早合点すると、虫垂炎の初期を見逃すことがあります。胃痛の患者さんが来たら、まず虫垂炎を疑いましょう。
このような現象は他の病気でも認められます。回盲部近くであっても小腸から食道までの痛みは全て上腹部痛・胃痛として錯覚します。上腹部にある大腸(横行結腸)の痛みは下腹部の痛みとして錯覚します。胃潰瘍や膵臓ガンは背中の痛みとして錯覚します。心筋梗塞の痛みは左の小指や五十肩や歯痛として錯覚するのは有名な症状です。解剖学的に存在する患部と痛みの場所が異なる現象を「関連痛」といいます。
虫垂炎は比較的若い年齢の方が発症します。高齢者に虫垂炎の患者さんは少ないのですが、稀に高齢者でも虫垂炎になる方がいますので注意が必要です。
天気の良い日、例えば快晴の日には虫垂炎になる患者さんが多くなります。それも腹膜炎を併発するようなひどい虫垂炎の患者さんが外科病院に押し掛けるのが経験的に知られた事実です。
快晴の日、すなわち大陸性の高気圧が張り出している気象環境では、体内の白血球が活発になります。虫垂炎の「炎症」を作る主役は白血球ですから、白血球が活発に動けば動くほど炎症はひどくなります。
逆に、天気が悪い日、例えば低気圧が勢力を伸ばしている気象環境では、体内の免疫抗体が活発になりますから、リウマチや膠原病の患者さんの痛み症状が強くなります。
虫垂炎の所見は、右下腹部の圧痛(押すと痛い)です。炎症が進むと局所的な腹膜炎をおこします。患部を押さえた手を離した瞬間に痛みが出る(反動圧痛・反跳圧痛)現象が起きます。急性腹症(お腹が痛がる病気全体)で、この反跳圧痛が認められれば、原因は兎も角、腹膜炎であることが診断できます。
天気の良い快晴の日、若者が胃が痛いや右下腹部が痛いと言って来院したら、まず何を疑いますか?
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コメント
先生、こちらの連載、読みごたえがあり楽しいです❗
引き続き、よろしくお願いいたします❗楽しみにしてます❗
投稿: | 2014/09/20 08:56