第十噺 (145噺中) 「冷えと膀胱炎」
ご婦人で冷えた場所に長い間いたりすると、急性膀胱炎になることがあります。
あなたも経験したことがあるでしょう?
ご婦人の急性膀胱炎は細菌感染ですから、その原因として90%がセックスです。しかし、患者さんにお聞きすると、頑として「セックスはしていない!」とされる方や高齢者で絶対にセックスはしていないと医師が思える方もお大勢います。仕方がなく、原因はともかく、たまたま(私はこの言葉が嫌いです)だろうと私は思うようにしていました。
【ひまわりからの冬の衛星写真】
人のからだの仕組みを深く知るうちに、・・・セックスが原因でない理由がわかってきました。
人間のからだのコンディションは、寒さや暑さ、湿度、気圧にとても左右されます。すなわち自然環境からもろに影響を受けるのです。しかし人間はそれほど自覚はしていません。
ところが、体内のシステムはかなり敏感に自覚するのです。以前に、白血球の働きについて解説したことがあります。(虫垂炎のテーマで) 白血球は身体を防衛する防人(さきもり:さだまさしの歌で防人の歌を思い出します?)です。
防人である白血球は高気圧のときに活動を特に活発にします。冬のこの時期、シベリア寒気団という寒い高気圧が、日本上空をおおいます。いわゆる西高東低の冬型気圧配置です。【冬の西高東低型の天気図】
高気圧の下では、人間の白血球は活動が盛ん、というよりも過剰に活動します。それに加えて寒いのですから、白血球は異常に過剰反応を起こそうとします。人の体には悪さをしない常在菌が常に存在します。白血球がその常在菌に強く過剰に反応してしまうのです。すると、その常在菌が存在する部分が炎症を起こします。【白血球の主人公:好中球】
例えば、「昨日、寒かったから喉が痛い。風邪かな?」という状況にあなたも出くわしたことがあるでしょう?これは高気圧と寒さで白血球が活発になり、喉の常在菌に強く反応を起こして炎症が生じたと考えるのです。
また、お天気の良い高気圧に日に、手術をしなければならない腹膜炎型の急性虫垂炎の患者さんが多いのは、一部の外科医では有名な常識です。
それと同じ現象が膀胱に起こると考えれば、寒い時に急性膀胱炎になる病態に合点がいくでしょう。
寒いから急性膀胱炎になる訳ではありません。【寒い=急性膀胱炎】と誤解しないで下さい。【寒い+高気圧=急性膀胱炎】が正しいのです。寒くても低気圧の場合は白血球の働きは、それほど活発ではないので急性膀胱炎にはならないのです。
では、なぜ急性膀胱炎は女性だけがなるのでしょう?これは、解剖学的に女性は尿道が短く(男性の5分の1の長さ)、外陰部に存在する常在菌が浸入しやすいからです。常に膀胱内に雑菌が棲んでいるのです。その常在菌に白血球が反応するという訳です。そして白血球の攻撃刺激で、雑菌・細菌は大量に増殖し、またその刺激で白血球が増えるという悪循環が生じ、炎症は止めどもなく続くのです。何のことはない、白血球の一人相撲で膀胱が炎症をおこしたと考えられるのです。尿検査での白血球の多さが細菌性尿路感染症に酷似しているので、細菌性急性膀胱炎と診断されるのでしょう。(結局、検査所見も症状もまったく同じですから、臨床医としては細菌が多いことが原因なのか、白血球の一人相撲が原因なのか見分けがつかない!唯一、高気圧で寒い日の翌日は、白血球の一人相撲が原因である確率が高い?)
少し古いお話しですが、平成20年2月3日(日)の関東の大雪の日はとても寒かったでした。
ところが、膀胱炎になる人は少なかった筈です。その日の天気図をご覧下さい。2月3日の朝6時の天気図です。【2月3日天気図】
この雪は、関東南側の湿った空気を含んだ低気圧をシベリア寒気団の冷たい高気圧が刺激して雪を降らせたのです。雪の下は寒いですが、低気圧ですから白血球はおとなしく膀胱炎にはなりにくいのです。
いかがでしたか?ただ単に「寒さ」あるいは「冷え」だけでは膀胱炎にはならないのです。物事は単純ではないことが分かっていただけたでしょうか?
ある日の新聞朝刊のお天気欄を見ながら、その日の膀胱炎をあれこれと占うというのはいかがでしょう。病気を予想できる!素晴らしいことです。
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