深夜の運転
手術中に患者さんと会話をよくします。
仕事のことを尋ねたり、趣味を聞いたりしながら、手術を進めていきます。自分の人生とは全く違う人の経験や体験は、書物で得られる情報よりもリアルで記憶に残ります。
今日手術した患者さんは鉄道マンでした。昔は貨物列車の運転手でしたが、訳あって駅員になったそうです。
その訳を聞きたくなりますよね?・・・鉄ちゃん(鉄道マニア)からすれば、鉄道の運転手は憧れの存在の筈です。
貨物列車の多くは深夜や明け方に運航するそうです。時間が不規則で、体力的にも無理していたそうです。しかし、肉体的な負担は何とかなっていましたが、精神的な負担が耐えられなかったそうです。
ある深夜、順調に貨物列車を運転していた時のことです。ある駅を通過していた際に、誰もいない筈の駅のホームからご婦人が列車の直前に飛び込んだのです。急ブレーキで停車することはかなわずに人身事故は避けられませんでした。その時、飛び込んだご婦人の目と目が会ってあってしまったのです。その虚ろな目を今も鮮明に覚えているそうです。
それ以来、深夜の駅のホームを通過する際には『飛びこまれるかも知れない』という恐怖でおちおちしていられなくなりました。
とどめに、やはり深夜の運行中に線路を酔払いが千鳥足で歩いていました。酔払いの背中が確認できた時には急ブレーキは間に合いません・・・。
貨物列車は運転手一人の乗務です。人身事故の直後、センターに通報し、自己状況を確認し詳細を連絡しなければなりません。そしてゴム手袋を常に常備し、現場の処理を深夜一人でしなければならないのです。
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