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ハードとソフト

私は地元中学校の学校医です。春の健診やケガなどの緊急時には生徒を診察します。
毎年10月には学校保健委員会を開き、学校医(内科医・眼科医・耳鼻科医・歯科医・薬剤師)、校長。教頭、保健の先生、父兄代表(PTA会長・副会長)が参加し、生徒たちの健康管理について意見交換します。
私は内科医としていつも「四苦八苦」しながら意見を述べています。

今回話題になったのが簡易栄養補助食品です。例えば、カロリーメイト・ソイジョイ・栄養ゼリーなどです。
テレビのCMの影響で、この簡易栄養補助食品さえ取っていれば栄養は確保できると誤解している生徒、あるいは親御さんが多く存在するというのです。
人間という物質の塊りを24時間維持するために必要なカロリー・ミネラル・ビタミン量などは、生理学・栄養学・スポーツ医学を駆使すれば決めることは容易です。それら栄養素を補給すれば、人間が機械と考えればその通りでしょう。ところが私たちは単純な機械ではありません。命を託された複雑な物質の塊りなのです。

Hardsoftその保健委員会の席で、私の空想・妄想が動き出しました。
イラストの如く、人間は地球上に存在するあらゆる物質で成り立っている塊りでしかありません。この物質の塊りだけを見れば、死んだ直後の人間も、今生きている人間も物質的には区別できません。
では何が違うのでしょうか?物質の塊りをハードウェアとすれば、ソフトウェアである生命機能があるかないかの違いです。
パソコンを例に上げれば、ハードウェアはCPU・メモリ・ハードディスク・モニター・USB・無線LANなどです。ソフトウェアはOS(XP・ヴィスタ)やオフィス・一太郎などです。いわゆるプログラム制御全てを意味します。パソコンのプログラムは決められたプログラム言語を使って気の遠くなるような作業の結果作成・作製されています。
では人間のソフトウェア=生命機能のプログラムはどのように作られるのか考えてみましょう。
Nrnまずプログラム言語は何だと思いますか?答えは「神経単位:ニューロン」です。一つのニューロンは成長・増減しながら他のニューロンとシナプス(接合)を作り神経回路を形成します。この神経回路がプログラムになるのです。人間を含めて生命のプログラムはパソコンのような完全なソフトウェアではありません。ニューロンというハードで作り上げられた神経回路というソフト、つまりハイブリッドソフトになるのです。
【イラスト:解剖学アトラス文光堂より いろいろな神経細胞】

Image61【実際のプログラム例】
さて、ハードだソフトだと訳の分からないことをダラダラと述べてきましたが、ここで本題に入りましょう。
物質の塊りである人体を動かしているのが、ニューロンで作られたハイブリッドソフト(神経回路)です。ニューロンがプログラム言語である以上、ニューロンには意思がなく、当然善悪の区別はできません。外界からの情報や刺激に応じて神経回路をひたすら作製するだけです。私たちが心地よい健全だと思われる環境からの刺激があれば、それに対応した神経回路が作られます。私たちが不愉快だ不健康だと思われる環境からの刺激があれば、それに対応した神経回路が次々に作られます。これら神経回路は脊髄に留まらず、大脳や小脳・延髄にも形成されます。つまり環境は人間形成に必要な心・感情や個性にも強く影響するのです。

栄養学では、単純にカロリー・ミネラル・ビタミン・タンパクなどの量に終始します。いわゆる科学ですから、そこには心や魂(ハイブリッドソフト)は無視されます。完全にコントロールされた栄養補助食品を完璧に摂取しただけで健全な人間が形成されると思われますか?
多少まずくても栄養学的に問題があっても、家族全員が食卓に集い、母親が一生懸命に作った食事をとることの喜び食卓での楽しい会話は、その喜びに応じた神経回路が形成され食事をする人間の人格を形成するのです。

要は生活環境・生活習慣も、栄養学で重要視されるカロリー・ミネラル・ビタミン・タンパク以上の栄養になるということです。私も含めて今の人間は、目の前にある物にしか関心を示しません。周囲の環境を無視しがちです。しかし心や魂を含めたソフトの栄養素は、生活県境や生活習慣から得られるソフトだということを肝に銘じるべきなのでしょう。

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