AED講習会
今日、平成16年10月13日(水)、東京都医師会が主催する救命処置の医師指導者育成講習会に参加しました。私は地元医師会の災害救急担当理事という役職柄、講習会を受けなければなりません。
今日は水曜日の平日ですが、私のクリニックの午後の診療を止め、午後2時から6時までみっちり講義と実技を受けてきました。
講習会会場の東京都医師会館は御茶ノ水駅近くの駿台予備校の裏にあります。私が浪人生の頃(33年前)、この予備校に通っていましたので、なぜかこの場所に懐かしさを感じました。当時の校舎はなく、新しく立て替え工事の最中でした。
さて、なぜ今頃になって救急医の経験のある私が、救命処置の講習を受けなければならないか?それは、今年の7月に厚生労働省が、救命緊急時のAED(自動体外式除細動器)を一般人へ開放したことにあります。AED・自動体外式除細動器とは、致死性の不整脈・心停止の84%以上の原因である心室細動の治療に非常に有効な治療器です。
【写真】 AED自動体外式除細動器
致死性の重篤な不整脈である心室細動は、できるだけ速くAED自動体外式除細動器のよって治療しなければなりません。
除細動の治療が1分遅れるごとに、救命率が7%~8%下がるというデータが出ています。ところが、AED自動体外式除細動器が搭載されている救急車の到着に平均で6分かかるといいます。これでは心停止の患者さんのうち50%以上の人が救命できない勘定になります。(1分以内に除細動処置を行っても100%の人が助かる訳ではないので。)
そこで、厚生労働省は、人の集まる場所、例えば、駅・空港・航空機・体育館・集会場・役所・ショッピングセンター・病院の待合室などに設置を促す方針を打ち出しました。それに伴い、救命緊急時に、近くに医師がいなければ、一般人のAED自動体外式除細動器の使用を許可・開放したのです。
ところが、もし倒れた人のそばに、AED自動体外式除細動器のトレーニングを受けた一般人がいて、さらにAEDを扱えない医師がそばにいたらどうなるでしょう。即座に除細動を行わなければいけないのに、AEDを扱えない医師がいるために、倒れた人の周りでオロオロする医師を AEDを扱える一般人が指をくわえて見ていなければなりません。
このようなことにならないように、救急医以外の医師にもAED自動体外式除細動器に精通してもらおうと企画したのが、今回のAED指導医講習会なのです。
私は救急医の経験が3年以上あり、今さら救命処置のトレーニング?ですが、日本医師会の作成した救命処置指導マニュアルに沿って、今後私が地元医師会の先生方に指導しなければならないので、マニュアルを覚えなければなりません。
さて、前置きはここまでにして、具体的な救命処置のお話をしましょう。
【写真】 ポケットマスク
意識消失し呼吸停止の人を見かけたら、即時に人口呼吸と心臓マッサージを行わなければならないのは周知のことです。
しかし、マウスツゥマウス(口から口へ)の直接の人工呼吸では、見知らぬ人の感染症(AIDS・肝炎など)問題から人工呼吸を躊躇してしまうのも事実です。
そこで携帯用の人工呼吸マスクが市販されています。このマスクは接続部に逆流防止弁とフィルターが装着してあります。人工呼吸中に倒れた方が咳き込んだり吐血しても、人工呼吸を実施している人が安全に行えるように配慮されています。
講習会の内容を実演でご覧にいれましょう。
主演:医師「天命を知る」
指導:帝京大学病院・東京医大病院・日大病院・順天堂大病院・慶応大病院の各救命救急医師7名、東京救急協会救急救命士7名
その他の医師:東京都23区医師会救急担当理事27名です。
患者さん役:救命ダミー人形14体
講習会の訓練では、日常の現場を設定します。今回は病院の待合室で患者さんが突然意識不明で倒れたという設定です。
★病院のスタッフが医師を呼びます。
「先生!患者さんが待合室で倒れています。」
医師「天命を知る」が駆けつけ、
「どうしました!○○さん!」
と倒れている人の両肩をたたきながら連呼し刺激します。
医師が連呼し刺激するも反応がありません。
医師がスタッフに向かって、
「救急カートを持ってきて下さい!」
「AEDを持ってきて下さい!」
と指示します。
【参考】 もしも、路上で倒れている人を見つけ、同上の場合、周りを歩行している人に次のように指示します。
「119番に電話して、救急車を呼んで下さい!」
「近くにあるAED自動体外式除細動器を持ってきて下さい!」
★倒れている人の状態をさらに詳しく確認します。
呼吸状態を確認します。
倒れた人の下顎を軽く挙上して気道を真っ直ぐにして呼吸しやすくします。
医師の耳を倒れている人の口元・鼻孔に近づけ、次のように点呼します。
「見て・聞いて・感じて・4・5・6・7・8・9・10」
見て:胸郭の動きを確認します。
聞いて:呼吸音を確認します。
感じて:呼吸による空気の流れを耳で感じます。
10秒経過しても呼吸がないのであれば、直ぐに人工呼吸に移ります。
★初めに2回人工呼吸を行います。
医師のベルトに装着している人工呼吸のポケットマスクを取り出し、気道を真直ぐにして人工呼吸を行います。
吸入量は倒れた人の胸郭の上下動を観察しながら適宜調節します。
★人工呼吸直後に患者さんの反応を見ます。
医師は耳を患者さんの口元・鼻孔に近づけ、頚動脈を触診しながら次のように点呼します。
「呼吸なし、咳き込みなし、体動なし、脈なし」
自発呼吸の有無
人工呼吸の刺激による咳の誘発現象の有無
苦しさによる体動の有無
以上の情報が確認できなければ、心停止と判断し次のように点呼します。
「心臓マッサージを行います!」
★心停止と判断したらすぐさま心臓マッサージを行います。
手を置く位置に注意しなければなりません。
肋骨弓を指で追って胸骨剣状突起を確認します。剣状突起を心臓マッサージで折るとその軟骨が胃に刺さり、胃破裂の損傷を作ることがあります。
剣状突起を避けるように、手根部を胸骨中央に置きます。位置が分かりにくい場合は、乳首の結んだ線の中央の少し下の位置と覚えておくと便利です。
★心臓マッサージの速度は、1分間に100回です。心臓マッサージ15回に人工呼吸2回がワンセットで行いますから、1秒間に2回の速度でマッサージを行えばよいことになります。
心臓マッサージの上下運動の振幅は、3cm~5cmです。
両手が上下重なるように組みます。下になっている手の指は伸展します。指が曲がっていると、指先で肋骨を折ることがあるからです。
15回-2回ワンセットを4回行います。4回行ったら、再度、自発呼吸・循環の確認を行います。再生しなければ、AED自動体外式除細動器あるいは救急車が到着するまで、この蘇生術を繰り返し繰り返し行います。
★AED自動体外式除細動器が到着しました。
この一連の救命処置で一番重要なのは、人工呼吸・心臓マッサージよりも除細動が最優先されることです。
昔は、人工呼吸・心臓マッサージを散々行ってから、最後に電気ショック(除細動)という流れでした。しかし、時代は変わり、心停止原因の83%が心室細動というエビデンスから、AED自動体外式除細動器が最優先になったのです。
ですから心臓マッサージの途中でも、AED自動体外式除細動器が到着したら、心臓マッサージは中止して除細動に移らなければなりません。
AED自動体外式除細動器の電極シートをピッタリと貼ったら、器械が患者さんの心電図を確認します。その間、患者さんに触れてはいけません。他人が触れると微弱な電流がAED器械の心電図に読まれて正常心電図と誤診してしまうからです。
【写真】 救命処置マニュアルを指導していただいた東京救急協会の救急救命士の方です。
★AED器械が電気ショックの必要性をアナウンスします。
強力な電気が流れますから、周囲の人に次のように点呼します。
「離れて下さい!私大丈夫、あなた大丈夫、みんな大丈夫、離れて下さい!電気を流します!」
通電スイッチをおします。
★これで正常な心電図に回復するまで、最大続けて3回通電(電気ショック)を行います。
もし、これでも心電図が正常にならなければ、今までの人工呼吸と心臓マッサージを繰り返します。そして再びAED自動体外式除細動器を使用します。
【注意】 心電図が回復しても、電気信号だけが正常になったように見えて、心臓が動いていないことがあります。頚動脈の拍動が触れなければ、心電図の波形と心臓の動きが同調するまで心臓マッサージ・人工呼吸を続けます。この状態を無脈性電気活動 pulseless electric activity PEAといいます。
(日本医師会雑誌 ACLSトレーニングマニュアルより転写)
【参考】 この一連のAED救命処置講習は、一般人向けに今後いたる所で行われる予定です。例えば、役所・町内会・消防署・学校・地元医師会などです。国・行政としては、このAED救命処置修了者を増やし、一時救急の救命率を向上させようと努力しています。
これを機会に興味を持たれた方は、講習会をお受けになって下さい。
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