覆水盆に返らず。糖尿病が原因
ホテルオークラのレストランで彼女から別れを告げられました。
理由を聞くと、両親に反対されたからと。双方の父が糖尿病をわずらっており、二人の間の子供もいずれは糖尿病になり、彼女の家(内科開業医)を継いでもらうには障害になるという理由でした。話を聞いているうちに突然、悪寒が起き私は震えだしました。吐き気までもよおしました。当然、目の間に出された美味しそうな料理には手が付けられません。ボーイさんから「料理に何か問題がありましたか?」と質問までされる始末です。突然の体調の不調(インフルエンザ?精神的ショック?)と、彼女の決断の強さから、しぶしぶ承諾してしまいました。
翌日、どう考えても自分としては納得がいかず、彼女に直接電話をしました。携帯電話のない時代でしたから、大学構内の公衆電話でです。ご両親を説得させて欲しいと頼むと、彼女の口から「覆水盆に返らず」と冷たく言われ電話を切られてしまいました。 「...」白衣姿の医師や看護婦さんの行き交う大学構内で、切られた公衆電話の受話器を持ってたたずんでいる私は、今思うと情けないストーカーのようです。
1年後、彼女から再度お付き合いしたいとアプローチがありました。「あれ?ご両親の反対は?」と尋ねると、「あれは嘘!」とのこと(目が・)。
彼女曰く、研修医になって上の先輩と接すると、知識・技術がとても豊富で頼もしく見えた、それに比べて同級生の私は非常に頼りなく、一生の伴侶としては不適格と判断したとのこと。ところが彼女が頼もしく思えたのは、先輩との数年間の知識・技術の差だったのです。研修を終え彼女の知識が豊富になると、あれほど頼もしく見えた先輩が頼りなげに思え、病院の廊下で時々すれ違う私が逆に頼もしく見えたのでした。 私の心はすでに「覆水盆に返らず」で、彼女には丁重に交際をお断りしました。でも彼女の予想通り、私の糖尿病は発症したのでした。
ちなみに「覆水盆に返らず」とは遊び人で釣り好きで有名な太公望が後に出世し、愛想をつかされて別れた妻から復縁を迫られた時に例えた逸話です。何のことはない男から女性への諺だったのです。
【イラスト】封神演義 太公望より
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