健康診断の真実
人間ドッグで全ての検査が正常と診断される人間はどのくらい存在するのでしょう。
恐らく、30%も存在しないでしょう。
血液検査の正常値はどのようにして決定されるかご存知ですか?
健康人の集団全員に一つの検査を行います。
出てきた検査結果を並べると、きれいなシンメトレルの正規分布になります。
この正規分布の両端の最低値2.5%と最高値2.5%を除いた95%に入る人を正常値にしているのです。
ですから、どんなに健康人でも5%の人は、一つの検査で異常と判定されるのです。
健康の95%の人が収まる値ですから納得がいきますね?でも、ここにトリックが隠されているのです。
【グラフ】 正規分布曲線
人間ドッグは検査一つだけではありません。一般的には次のような検査があります。
●身長・体重:肥満度
●血圧測定:
●血液検査:
白血球・赤血球・ヘマトクリット・ヘモグロビン・総タンパク・尿素窒素・クレアチニン・尿酸・総コレステロール・中性脂肪・HDL(善玉コレステロール)・GOT・GPT・γGTP・LDH・ALP・総ビリルビン・膠質反応・血糖・ヘモグロビンA1cなど
●胸部レントゲン写真:肺がん・肺結核検診
●胃カメラ・胃レントゲン:胃がん検診
●腫瘍マーカー:PSA・CEA・CA19-9・AFP・CA125
●尿検査:潜血・タンパク・糖・細胞診・円柱
●便検査:大腸がん検診
●眼底検査:動脈硬化・糖尿病
●心電図:狭心症・心筋梗塞・不整脈
●超音波エコー検査:腹部・心臓
●脳MRI検査:脳腫瘍・脳梗塞・動脈瘤検診
●脈波測定:動脈硬化度
40歳以上の方で、これら全ての検査を正常で乗り切れる方がいるでしょうか?ほとんどの方が否定するでしょう。
例えば、血液検査だけでも20項目の検査を行ったとします。健康な人が1項目当り正常値である確率を0.95として計算すると、20項目の検査で全て正常値である確率は、0.95×0.95×・・・の20乗で約34%です。
同じようにして30項目の場合は、0.95の30乗で約20%になります。
胸部レントゲン写真などの画像診断の場合は、もっと正常になる確率が少なくなりますから、健康人が正常と診断される確率はもっと少なくなります。
これら全てを乗り切ることが出来たら、恐らくNASAの宇宙飛行士の身体検査をもパスするでしょう。
お分かりのように、人間ドッグや健康診断はあくまでも参考程度の判断材料です。
ほとんどの方が異常にしか診断されないようになっているからです。
検査値の正常範囲は、病院や検査会社でまちまちです。なぜなら、それぞれの施設で正常値を得るために自分たち施設で行った母集団を基にするからです。
もし、病院の経営者が悪意に満ちて、正常範囲を母集団の95%から93%に縮小すれば、異常としてチェックされる健康人は増える訳です。
健康診断で異常が出れば、健康診断を行った病院で再検査・精密検査を薦められるので、病院側としては収入が増えることになります。
人間ドッグの検査データを患者さんがお持ちになり拝見させていただくことが多い昨今です。
総コレステロールの正常値は220以下の筈ですが、中には119以下としているデータもあります。
220も119も一見たいしたことはありませんが、患者さんを増やそうとする意図が見て取れるのは私だけでしょうか?
30%くらいの人が正常で残り70%の人が異常と診断される診断法を健康診断というのは言葉の使い方を間違えているとしか思えません。
考えようによっては、人間ドッグや健康診断は病気製造ソフトといっても言い過ぎではないでしょう。
検査結果に一喜一憂して振り回されないようにしましょう。
★★★★★★★★★★★★★★★★
高橋知宏先生
はじめまして、健診・予防医学を専攻している医師です。失礼ながら、「医学こぼれ話 健康診断の真実」において誤った記載がありますので指摘させていただきます。
例えば、血液検査だけでも20項目の検査を行ったとします。健康な人が1項目当り正常値である確率を0.95として計算すると、20項目の検査で全て正常値である確率は、0.95×0.95×・・・の20乗で約34%です。
上記は20項目それぞれが、なんの相関関係もなしに全く独立した項目として存在しない限りは誤りです。
すなわち、サイコロを何度も振って6が出る可能性について述べるような場合には正しいのですが、健康診断のような個々の項目の間に何らかの相関関係がある場合に用いるのは不適切だと思われます。
先生も十分にご存じのこととは思いますが、血糖が高値の人と正常値の人を比べた場合、前者の方が尿糖で陽性を示す可能性が高いことは言うまでもありません。
同様に、γ-GTPが高値を示す人と、そうでない人とを比べた場合、中性脂肪が高値を示す可能性は前者の方が高く、またどちらも高値の人がそうでない人に比べ、HDLが低値を示しやすいといった相関関係があると考えられます。
つまり、健康診断の場合は、サイコロを振って3回目で6が出た人は、1~5が出た人よりも、5回目でも6が出る可能性が高い、といった現象が起こるわけです。
おっしゃるとおり、健康診断の正常値の範囲は健常人の95%が正常となるように設定されていますが、これは母集団全体での話で、「運動習慣の有無」や「飲酒の頻度」「年齢」「性差」という条件で母集団を分けた場合、異常値の出る確率は明らかに異なってきます。
例えば、総コレステロール値は、40代までは男性の方が、50代以降は女性の方が異常値を示しやすいことは先生もご存じだと思います。
患者さんなど、一般の方に誤った情報を伝えることは先生の本意ではないと考え、僭越ながら指摘させていただきました。
最後に、匿名でのメールとなりますことをご容赦願います。
★★★★★★★★★★★★お答え★★★★★★★★★★★★
「例えば、血液検査だけでも20項目の検査を・・・の20乗で約34%です。
上記は20項目それぞれが、なんの相関関係もなしに全く独立した項目として存在しない限りは誤りです。」
【回答】
このブログは、行き過ぎた健康診断信仰に疑問を投げかけることが主題であって、細かいことの真偽を問う場所ではありません。重箱の隅をつつけば矛盾点も出てくるでしょう。だからと言って私の命題を完全否定するほどの根拠にはならないと思いますがいかかがですか?
また検査データは、各々の検査会社や病院が、それぞれ健康と思われる母集団を決め、各検査をそれぞれ独立した検査として正常値を作成して入る訳です。初めのデータ収集に相関関係を無視して独立系として正常値を作成しているので、今回の健康診断の問題定義に何の支障もないものと考えます。
もしも、先生のおっしゃる通り検査項目を他の検査項目との相関関係を考えるのであれば、正常値を作成する時に、それらの項目をまとめたグループとして正常値を作らなければ、先生のおっしゃる正当性は成り立ちません。
しかし実際にはそれぞれの検査の正常値を作るに当たって、検査項目間の相関関係を無視した独立系として正常値を作成しています。なぜなら、相関関係まで考えて正常値を作ると、煩雑でデータとして応用が利かないからです。
出てきた多くの検査データから相関関係を考えるのは医師の仕事です。しかるに、最近の人間ドックや健康診断の成績評価・結果は、定型文を羅列するだけのお粗末なもので、判断は健診を受けた人任せです。外来で患者さんが持参する健康診断結果を見ると、ありったけの考えられる多くの病気を羅列しただけで、相関関係などを説明するコメントを見たことがありません。こんな成績評価は医師でなくても検査屋さんでもできる仕事です。何が何でも病気を作り上げ精密検査のため病院に来させる意志が見え見えです。患者さんの恐怖心をただ煽っているだけにしか思えません。
健康診断を受けるのは、医学知識を表面的にしか理解していない一般人です。その方々を健康診断の名の下に病気を見つけるという手段に疑問を感じているのです。健康診断は、その母集団がほとんど健康で、その多くの人々の中から埋没してしまうであろう「わずかな人」の病気・未病を見つけるのが目的です。ところが、検査の正常値が上記のように定められているので、かなりの確率で健常人が不健康になります。そうなると、健康診断ではなく「病気製造診断」と呼ばれてもいいくらいの営利手段になります。
先生もご存知でしょうが、一般の健康診断で見つかる悪性疾患は非常に少ないのです。行政の負担によって行なわれる肺癌検診・胃癌検診・子宮癌検診は、その費用対効果が非常に少ないということで中止になろうとさえしています。医師会は必死になって行政と交渉していますが、恐らくは時間の問題で中止になるでしょう。
個々の病気の専門検診でさえ、エビデンスが少ないことで疑問を持たれているのに、駄々ら行なっている一般健診に疑問を持っても不思議ではないでしょう。
健康診断の欠点は、たくさん検査を行えば、思わぬ病気が発見されるだろうという誤解から来ています。目標が定まっていない最大公約数的な発想の健康診断検査では、隠れている病気を見つけることは出来ません。一つの病気を見つけ出そうと、その病気に目標を定めた検査しか病気を見つけることが出来ないのが事実です。然るに医師も一般の方も健康診断で何でもかんでも病気が発見できると思い込んでいるところに誤解があります。
以前は成人病と呼ばれた生活習慣病は、レントゲン検査・血液検査・尿検査・心電図などを行うまでもなく、職業・風貌・日常生活・家族歴をお聞きするだけで50%以上の診断率で判断できます。実際の健康診断は、職業・風貌・日常生活・家族歴を聞きもせずにデータだけで判断するので、必要な人は見逃し、健常人には異常と診断するといった可笑しな現象が起きるのです。
「先生も十分にご存じのこととは思いますが、・・・HDLが低値を示しやすいといった相関関係があると考えられます。」
【回答】
それは、異常を見つけた際に医師が判断し、検査を受けた方に告げることです。ところが現実はコンピュータで印刷された「お決まりの定型文」だけが渡されるだけです。
また、相関関係は病的な事象ばかりではありません。データ間の相関関係は、人体の複雑な生理現象の結果でしかありません。病的現象のデータ間の相関関係は、あくまでも生理的現象の延長線上に存在する現象であって、健常人にもその相関関係は当てはまります。
データ間の相関関係が密接にあればあるほど、私が問題にしている「全ての検査項目が正常になる健常人」はもっと低率になります。
「おっしゃるとおり、健康診断の正常値の範囲は健常人の95%が正常となるように設定されていますが・・・総コレステロール値は、40代までは男性の方が、50代以降は女性の方が異常値を示しやすいことは先生もご存じだと思います。」
【回答】
先生の行なっている健康診断では、そのように細かく母集団を分けて基礎データである正常値を定義しているのでしょうが、一般論として巷で行なわれている実際の健診の正常値の母集団は、そこまで細かく分類した母集団ではありません。ですから、異常値の出る可能性は上がります。そして健康診断評価も容易に異常と判断します。
| 固定リンク
コメント