「尖圭コンジローマ」と他の医療機関で診断された患者さん多くが、いろいろ悩んだ末にお越しになり、私が再検査すると9割の患者さんが「膣前庭乳頭症」でした。
この誤診のために、身に覚えない浮気を疑われ、離婚間近のご夫婦が来院されます。尖圭コンジローマではなかったと診断しても、一度入った夫婦間の心の亀裂は修正できずに、離婚されたご夫婦もおられました。
「尖圭コンジローマ」は、ヒトパピローマウィルスHPVの感染による性行為感染症の「イボ」です。いわゆる性病です。
「膣前庭乳頭症」は、膣の細胞が何らかの原因で、外陰部の皮膚から芽が出て来た状態です。中年以降のご婦人がたまに性行為をすると、外陰部に微細な傷ができて、そこに膣細胞膜が自家移植されたのが原因と思われます。
ほとんどの患者さんが、病理組織検査の結果、ヒトパピローマウィルスHPVの感染細胞であるコイロサイトーシス(空胞細胞症)の発見を根拠に、尖圭コンジローマと診断されています。
患者さんの多くが、婦人科の医師に「肉眼的には違うと思うけれど、念のために組織を調べましょう。」と言われ病理検査に出すと、結果が出て、「残念ながら、コイロサイトーシスが発見されたので尖圭コンジローマでした。」と診断されています。
ここに病理学の専門医の誤診があるのです。その原因がワンパターン認識です。
この顕微鏡写真は尖圭コンジローマのコイロサイトーシス空胞細胞です。空胞に見える部分にHPVウィルスがパンパンに詰まっています。その他の特徴としては、細胞内の核が歪(いびつ)に変形しています。
空胞細胞には、写真のように4タイプに分類できます。見た目は違いますが、全て同じ細胞で成熟度が違うだけです。
この顕微鏡写真は膣前庭乳頭症の空砲細胞です。空胞に見える部分に膣内の乳酸菌を育てるためのグリコーゲンがパンパンに詰まっています。その他の特徴としては、細胞内の核が小さく丸くなっています。
どちらの空胞細胞も、一見して同じように見えるので、病理学の専門医が、膣前庭乳頭症の空胞細胞を尖圭コンジローマのコイロサイトーシスと誤診してしまうのです。
それぞれの空胞細胞の発生過程・工程をイラストにして示しました。
上の列が、膣前庭乳頭症、下の列が尖圭コンジローマです。
【膣前庭乳頭症の病理組織像の観察法】
①外陰部の扁平上皮に自家移植された膣組織は、次第に成長し大きくなります。
②膣組織の基底細胞は、膣の常在菌である乳酸菌(デーデラン桿菌群)を飼育するために、グリコーゲンを作る細胞です。膣細胞内の核が活発になり、細胞内にグリコーゲンを作ります。
③作られたグリコーゲンは細胞内で空胞として観察できます。その姿が、尖圭コンジローマのコイロサイトーシス空胞細胞症と誤診されるのです。違う点は、グリコーゲンを作り終えた核が変形せずに、相似的に小さく(廃用性萎縮)なるだけです。
④グリコーゲンは細胞内でタップリ蓄えられ完全な空胞細胞になります。核は、細胞端で扁平になるか消失します。
⑤顕微鏡の同一視野の中に、これらの時間的流れのほぼほぼ2タイプが確認できたら、膣前庭乳頭症です。
【尖圭コンジローマの病理組織像の観察法】
❶HPVウィルスが、皮膚の扁平上皮の基底細胞に感染します。
❷ウィルスは、細胞の核に侵入して、ウィルスを合成します。
❸合成されたウィルスは、核の外に放出されます。それが、空胞に見えます。これをコイロサイトーシス空胞細胞症と呼び、HPVウィルス感染の特徴的な細胞です。
❹細胞内でウィルスの詰まった空胞部分が次第に大きくなります。自然な現象ではないので、本来の細胞構造の影響を受けます。核は、細胞膜といくつかの支持線維で宙に浮いた状態です。その複数の支持線維え区画されたスペースにウィルスが補充されるので、様々な方向から圧迫された核はイビツに変形し小さくなり、細胞の奥の片隅に追いやられて、空胞細胞の完成型が出来上がります。
❺顕微鏡の同一視野の中に、これらの時間的流れの4タイプの空胞細胞が確認できたら、尖圭コンジローマです。
それぞれの空胞細胞の発生過程を勉強すれば、空胞細胞の微妙な違いが明確に分かりますよね?パターン認識の空胞細胞=コイロサイトーシスという思い込みが誤診を招き、患者さんを悩ませるのです。
誤診の経緯には、婦人科の医師にも問題があります。
「尖圭コンジローマとは思えませんが……」と言っておきながら、病理組織検査の依頼書に「尖圭コンジローマの疑い」と記載します。
病理の専門医は、依頼書を見ながら、顕微鏡所見を検討します。『婦人科の医師が、肉眼的に尖圭コンジローマを疑っている……』と思いながら、「尖圭コンジローマ」と診断するのです。
婦人科の医師は、「病理の専門医が『尖圭コンジローマ』と診断したから、間違いありません。」と言うのです。……無責任ですよね?された理由