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掻痒症・舌痛症・幻臭症は同じ穴のムジナ

泌尿器科のクリニックには、いろいろな症状の患者さんが多く来院します。


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❶掻痒症
泌尿器科に来院する掻痒症で多いのが、男性で陰嚢掻痒症、女性で外陰部掻痒症です。
陰嚢掻痒症は陰嚢湿疹と診断され、ステロイド軟膏を処方されますが、治りません。外陰部掻痒症はカンジダ性膣炎と診断され抗真菌剤の膣剤を処方されますが、やはり治りません。その患者さんたちが、病院を転々とドクターショッピングし、最後に当クリニックに来院されます。
❷舌痛症
原因不明の病気とされています。耳鼻咽喉科や歯科や精神科に通院しますが、ストレスが原因とも言われて治りません。その患者さんが私のブログを読んで来院されます。

Img_0431❸幻臭症
やはり、原因不明の病気とされています。泌尿器科、耳鼻咽喉科や脳神経外科や精神科に通院しても治らないので、同じくストレスが原因と言われています。その臭いが尿臭として感じることが多いので、泌尿器科にかかるのです。尿臭でない場合には耳鼻咽喉科などに受診します。その患者さんが、やはり私のブログを読んで来院されます。

これらの患者さんには、患者さんの自覚しない【排尿障害】が必ず見つかります。つまり、これら3つの病気は、全て一つの原因、排尿障害が原因です。排尿障害の治療薬であるαブロッカー、抗コリン剤、β刺激剤を中心に服用して頂くと、嘘みたいに症状は軽減します。

イラストは、舌痛症と幻臭症の病態生理を表現したものです。排尿障害によって、過敏になった膀胱や前立腺の知覚神経が、その情報を脊髄回路に向かって大量に出力します。脊髄レベルで処理が可能であれば、陰部痛や陰嚢掻痒症や坐骨神経痛などの下半身の関連痛になります。
しかし、脊髄神経の下位回路で処理できない場合には、情報が上位回路に到達し、線維筋痛症になります。さらに上位回路である脳中枢に大量に到達することもあります。結果、 脳中枢を直撃しないように迂回させ、機能的な関所を作ります。その迂回先が、味覚神経であれば舌痛症に、嗅神経であれば幻臭症に錯覚するのです。情報内容が尿意情報で本来の味覚・嗅覚の情報信号ではないので、味覚神経の場合はピリピリとした痛みとして、嗅神経の場合は嫌な臭いとして感じるのです。

これは風邪の症状と同じです。咽頭痛、鼻炎、中耳炎、気管支炎、頭痛、関節痛、胃痛などの多彩な症状があっても、風邪と容易に診断できるでしょう。にもかかわらず搔痒症、舌痛症、幻臭症の場合は、関連する組織や神経にのみ注目し過ぎて原因究明ができないでいるのです。

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レディ・ガガさんの病気

Gaga
昨日、今日のニュースや新聞に、アメリカの歌手レディ・ガガさんが、「線維筋痛症」のため、しばらく活動中止するという情報が発信されました。

インターネットでは、下記のような情報が掲載されています。
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活動休止を宣言していた日本でも人気の米歌手、レディー・ガガさん(31)が自身のツイッターで病名を告白。全身に激しい痛みを起こす病気「線維筋痛症」を患っているという。日本リウマチ財団のホームページによると、米国では人口の約2%に線維筋痛症がみられるとされており、日本でも患者数は約200万人と推計されている。いったい、どんな病気なのか。

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 線維筋痛症は全身に激しい痛みが起こる原因不明の病気だ。30代後半~40代前半の女性が発症することが多く、気圧、気温、光、音などあらゆる外的刺激を痛みとして感じるため、進行すると外出が苦痛になるなど、社会生活が困難になる。

 多くの病気は痛みを感じる部位に、炎症など痛みを招く原因が存在する。しかし線維筋痛症の場合、血液や画像の検査をしても、とくに異常は見つからない。

「人間のからだを守る反応である“痛み”を過剰に感じてしまうのが線維筋痛症という病気で、2段階のステップがあって発症すると考えています」と、東京医科大学医学総合研究所所長の西岡久寿樹医師は話す。たとえば、子どものころに親と死別する、転居を繰り返す、入院するなどで受けた精神的・肉体的ストレスがまず患者の中に存在する。それから一定の時間が経過して、さらに外傷、手術、身内の不幸や離婚など、新たなストレスが加わると痛みという形で症状が現れるという。免疫異常や感染症の潜伏期に似ていると、西岡医師は解説する。

 線維筋痛症は全身の痛みのほか、ドライマウス(口が渇く)、ドライアイ、うつ状態、不眠、過敏性腸症候群など、さまざまな症状をともなう。そのためこれまでは関節リウマチ、シェーグレン症候群、膠原病など、他の病気と診断されることも多かった。

 治療は、痛みやその他の症状を取り除く対症療法が中心になる。

 西岡医師によれば、鎮痛剤リリカ(一般名プレガバリン)や、抗うつ剤などが使われることもある。
「たとえば人が腕をつねられたときに痛みを感じるのは、痛みの信号が脳に伝えられるからです。この痛みを伝える信号を弱めて、痛みを和らげるのがリリカの作用です。一方、痛みを抑制する信号を強めるのが抗うつ剤。患者さんにどちらのタイプの鎮痛剤が効くかは、使ってみないとわかりません」(同)

 リリカが2012年に認可されるまで、保険治療で使える線維筋痛症の治療薬はなかった。

「リリカの認可によって、ようやく線維筋痛症という病気も保険診療上認められ、その治療も大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう」(同)

 ただしリリカにはめまい、眠気、コレステロール値を上げるなどの副作用があるため、医師の管理のもとで使用する必要がある。また線維筋痛症はさまざまな症状を持つ病気なので、リリカ単剤でコントロールできることはまれだ。

「たとえば睡眠障害やうつ症状は精神科の医師、末梢神経疾患のような症状は神経内科、関節痛はリウマチ科と、各診療科の医師が連携して治療を進める、チーム医療が必要でしょう」(同)

※週刊朝日MOOK『新「名医」の最新治療2014』から抜粋。

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Senikintusyo
これを読まれて『あれ?』と思われた人はいませんか?
前回、テーマにした「カウザルギー」に似ていると思いませんか?ただし、キッカケになった外傷がないだけです。
そうなんです、線維筋痛症もカウザルギー関連痛として捉えることができます。その証拠に、線維筋痛症の10%の患者さんに間質性膀胱炎が併発しているのです。間質性膀胱炎は、かねてから私が力説しているように、排尿障害が原因です。おそらく、レディ・ガガさんにも排尿障害があるのでしょう。
表は、線維筋痛症のステージ分類です。ステージⅤに膀胱・直腸障害の記述があります。一般的には、線維筋痛症が悪化して膀胱・直腸障害が出現すると考えられています。隠れていた膀胱・直腸障害が、それまで関連痛症状として線維筋痛症が出現していたのですが、長い期間かかって、ついに本性としての膀胱・直腸障害が出現したとも考えられます。
線維筋痛症患者さんの体表の皮膚・筋肉痛以外の症状として、頻尿15%、残尿感15%、排尿痛10%がかなりの頻度で出現します。これらの症状一つしかない患者さんもいれば、複数重なる患者さんもいます。それを考慮すると、線維筋痛症の患者さんの少なくても10%〜多くて40%も膀胱の症状が存在するはずです。間をとって25%前後もの患者さんにあるのです。これは、原因不明の線維筋痛症を見極めるための注目に値する症状です。

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カウザルギー

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カウザルギーで苦しんでいた患者さんが、慢性前立腺炎の治療(αブロッカー)したことで、症状が軽快しました。2011年に掲載した症例報告の患者さんから、久しぶりにコメントがありました。患者さんもビックリ、私もビックリでした。カウザルギーと思われた疼痛症状は、実は慢性前立腺炎の関連痛症状だったのです。

ここで、カウザルギーについて解説します。
カウザルギーは、外傷の後遺症として起きる、ハッキリとした根拠のない原因不明の慢性疼痛です。
インターネットで交通事故の後遺症について解説しているHP(http://koutsujiko-center.com/type/crps.html)を見つけました。ここでご紹介します。

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【概念】
❶反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)は、骨折、捻挫、打撲等の外傷などを発端として慢性的な痛み・腫れ自律神経症状が持続することで運動制限や関節の拘縮が起こる症状をいいます。痛みは 外傷を受けた部分だけでなく、拡大するようなケースもあります。
体内では、外傷を受けると交感神経反射が起こり四肢の血管が収縮します。外傷の治癒によって交感神経の異常が無いと、交感神経反射が消失、血管は元の状態に拡張しますが、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の場合は、外傷の治癒後も、交感神経反射が消失せず、交感神経亢進状態が続くことで血管の収縮が維持されることとなります。
❷カウザルギーは、1本の神経や主要な分枝の部分損傷後に起こる手や足などの灼熱痛、アロディニア、痛覚過敏などの症状をいいます。
★RSDとカウザルギーの違いは、比較的太い末梢神経の損傷を伴っているか、否かに収斂されます。比較的太い末梢神経の損傷があるものがカウザルギー、そこまでの損傷がないといえる場合をRSDとして区分しています。RSDとカウザルギーを併せて、CRPS(複合性局所疼痛症候群)と総称されています。
【症状】
❶反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の症状
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の症状は、疼痛、関節拘縮、腫張、皮膚色の変化が挙げられます。二次的な症状としては発汗の変化、皮膚温の変化 栄養障害、血管運動調節の不安定性などの症状があります。

❷カウザルギーの症状
カウザルギーの症状としては、激しい灼熱痛、手や足の機能低下、原因から予想される通常の痛みを超えた激しい痛み、着衣・微風の触感が痛みとなる、浮腫、皮膚色の変化などが挙げられます。
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カウザルギーは、交通事故や外傷の後遺症として生じる慢性疼痛ですが、全ての原因を外傷と決めつけています。実は、前回の患者さんの報告のように、本当の痛みの原因は慢性前立腺炎(排尿障害)で、その関連痛としてカウザルギーが発症したと思われます。外傷は関連痛を発症させたキッカケだったのです。
また、関連痛は、痛みの神経ばかりでなく、血管神経にも影響が出るため、末梢血間の循環が悪くなって、浮腫や皮膚の色が変化するのです。関連痛として見れば、上記のRSDとカウザルギーは、同じ関連痛と考えることが出来ます。

カウザルギーで悩んでいる方は、一度、排尿障害について精査をしてみる価値があるかも知れません。

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