「いびき」と体質
「いびき」やその究極形である睡眠時無呼吸症候群SASに共通した体質や性格があると言われています。
①日中我慢できないほど眠くなる。
例えば、昼食後に眠くなるのも、その範疇でしょう。また、電車の中で多く見かける居眠りをしている乗客も、単純に疲れているからだけではなく、もしかするとSASかも知れません。
②朝起きた時に頭が痛い。
酸素不足の影響で脳圧が上昇するためらしいとのことです。二日酔いのせいだと思っていると大変なことになりますね?
③夜間頻尿。
前立腺肥大症の症状で夜中に何回もトイレに起きるという症状があります。私のような泌尿器科医であれば、まず前立腺肥大症を疑って治療を始めますが、「いびき」や睡眠時無呼吸症候群SASが原因で夜間頻尿になるとは・・・。専門書には次のような理由が掲げられています。無呼吸による努力呼吸が胸腔内を過度に陰圧にします。すると、心臓に戻ってくる静脈環流が増加し、その刺激で心臓の心房から心房性ナトリウム利尿ペプチドという物質が分泌され尿量が増えるのです。もう一つの理由として、血液中の低酸素が交感神経を異常興奮させ、その結果、心拍出量の増加と腎血流量の増加を促し尿量が増えるというものです。私はもう一つの理由も考えたいと思います。脳血流内の酸素低下により、脳下垂体後葉から抗利尿ホルモンの分泌が低下して、その結果利尿作用が起きるというものです。
④眠っても疲れが取れない、だるい。
私の応援しているお相撲さんは、寝ても寝ても疲れが取れずに、また食べても食べても太れないために成績が振るわず負け越してしまいました。同じ医師会の医師のすすめでCPAP療法を始めたら、短時間の睡眠でも疲れが取れ、目が覚めたらトップギアで稽古が出来るようになりました。そして食べて休めば必ず太るようになり、体重も何と10キログラムも増え、十両から幕内に上がり、さらに幕内でも勝越せたのです。このエピソードを間近に見て、睡眠時無呼吸症候群SASとその治療に泌尿器科医である私が興味を持ったのです。
⑤睡眠中に目が覚める。
眠りが浅いということになります。いびきによる低呼吸・無呼吸で低酸素状態になり、交感神経は休むことができません。そのため常に臨戦態勢の状態です。夜中に屋敷に忍者が忍び込むと、寝ていた剣の達人が察知して目を覚ますのと似ています。先ほどの夜間頻尿にも通じる現象です。眠りが浅いからオシッコで眼が覚めるとという具合です。
⑥なかなか寝付けない。
いびきや無呼吸症候群で傾眠状態であるのに、眠れないというのは矛盾した現象ですね。しかし実際にそのような現象があるようです。見方を変えれば、これから興奮をするような睡眠を取りたくないというこころの叫び声かも知れませんね。
⑦集中力が続かない、注意力が低下する。
仕事でミスを犯す、聞いた事を直ぐ忘れてし合うなどがその範疇でしょう。また、事故体質の人も可能性が高くなります。低酸素状態で脳細胞が十分に休息を取れないので、集中に必要な脳神経が覚醒時に休んでいるとも考えられます。
⑧イライラしやすい、怒りっぽくなった。
自分では自覚していないのですが、周囲の人から指摘されてしまう事もあります。脳細胞は興奮する細胞と、それを抑制する細胞のバランスで精神を維持しています。細胞の興奮は容易ですが、抑制にはかなりのエネルギーが必要になります。十分に休息の取れていない脳細胞に抑制が働かないのはうなずけます。
⑨寝相が悪い。
まるで子供のようにドタンバタンするように寝相が悪いのです。低酸素で交感神経が興奮していますから、それに連れられて骨格筋が不随意に動くのもうなずける現象です。
⑩性欲の低下、ED
低酸素状態のため、視床下部や脳下垂体からのホルモン分泌が低下します。その結果、性腺刺激ホルモンの分泌が低下、男性なら男性ホルモンが、女性なら女性ホルモンが低下して、性欲減退、インポテンスEDになります。
⑪胸やけがする。
低酸素で努力呼吸をするために、胸郭は過度に陰圧になり肺を膨らませようとします。すると、食道が膨らみ噴門部から胃の内容物を吸い上げようとします。若者であればそのような現象は起きませんが、高齢者になると食道胃噴門部は半開き状態になっていますから、食道の吸い上げを許してしまうのです。つまり逆流性食道炎になって胸やけがするのです。
⑫寝汗をかく。
視床下部が低酸素のために自律神経のコントロールが不良になります。その結果、自律神経支配下にある汗腺から汗が出ることになります。低酸素による交感神経の興奮も発汗を促します。運動しているのと同じ状態だと体が錯覚するのです。
⑬悪夢を見る。
実際に無呼吸状態ですから、首を絞められている夢だったり、危機一髪の夢をみます。交感神経が興奮していますから、戦闘モードになっているのと同じ状態です。その結果、闘っている夢やケンカしている夢を見ることになります。途中で覚醒すると、胸がドキドキしていることにもなります。
【参考文献】
「危険ないびきが生活習慣病を招く」 鈴木俊介著 小学館文庫
「睡眠障害 知る診る治す」 MEDICAL VIEW
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