「いびき」と病気
これまで「いびき」にまつわる解説をいろいろとしましたが、一歩踏み込んで病気との関連を説明しましょう。
①高血圧
睡眠中は体全体が休息を取ります。その状態は副交感神経が優位の状態です。この状態では血管の緊張も緩み、血圧は下がります。ところが、「いびき」や無呼吸症候群に陥ると、低酸素状態になるので交感神経が興奮し、副交感神経よりも優位になります。その状態は血管を収縮させますから血圧が上がります。つまり、寝ている間に高血圧が作られるのです。最近では早朝血圧が重要視され、医師は早朝高血圧を治すことを目標にしています。早朝高血圧の治療の為に、就寝前に降圧薬を服用するのが一般的ですが、降圧薬で治療してもなかなか血圧が下がらない患者さんの場合、無呼吸症候群を疑います。
②動脈硬化(心筋梗塞・脳梗塞・狭心症・解離性動脈瘤・脳動脈瘤・くも膜下出血)
高血圧を維持するためには、交感神経が興奮し血管が収縮し続けなければなりません。エネルギーが必要な現象です。生体は、定常状態を維持するためにはエネルギーの必要のない手段を選択します。つまり、血管を硬くすれば、交感神経が興奮して血管を収縮させる無駄な手順が省ける訳です。これが動脈硬化です。
動脈硬化の原因としてLDLコレステロールが有名ですが、この分子量の小さいコレステロールは血管壁に取り込まれます。取り込まれたLDLコレステロールは、血管壁に侵入した血液中のモノサイト単球というリンパ球によって貪食されます。モノサイトの貪食作用のある姿をマクロファージと言い、そのマクロファージがお腹いっぱいになると泡沫細胞になります。これが動脈硬化の本質です。さらに動脈硬化が進むと血管壁の平滑筋が興奮移動し、マクロファージに変身してLDLコレステロールを貪食します。そして平滑筋も泡沫細胞になります。
興奮した平滑筋は不安定なコラーゲン線維5型を形成し、ここで動脈硬化で有名なプラークの完成です。
不安定なコラーゲン線維で形成されたプラークは破綻しやすいので、血管内に剥がれると血栓が作られ心筋梗塞や脳梗塞になります。プラークが剥がれても血栓が形成しなければ、血行は戻りますから、臨床的に狭心症や一過性脳虚血発作TIAと診断されます。
プラークが血管壁に裂けて進行すれば、血管壁に空間ができ、それが解離性動脈瘤になります。
血管壁に伸展性がなくなり、外壁が裂けると、そこから血管内膜中膜が血管の外に露出し膨らみます。それが脳動脈瘤になり、破裂するとくも膜下出血になります。
③糖尿病
低酸素状態は、言いかえれば血液が高CO2(二酸化炭素)になっているとも言えます。二酸化炭素は糖代謝に関与するインスリンの分泌を抑制する作用があります。また、低酸素状態は交感神経を興奮させます。交感神経はノルアドレナリンという神経作動物質を分泌します。その物質は筋肉のエネルギー供給の為に血糖を上げる働き、インスリンの逆の作用をします。二重の手段で糖尿病になりやすい身体になっていきます。
④うつ病
うつ病の患者さんに高率(90%)で睡眠障害があることが分かっています。その内、90%が不眠症で、残りの10%が過眠症です。うつ病が発症する前の前駆症状として不眠症があり、その不眠症が改善しなかった場合、うつ病の発症リスクが何と40倍にハネ上がるそうです。うつ病の不眠症が全て睡眠時無呼吸症候群かどうかは不明ですが、原因となりうる可能性があるのなら治療すべきでしょう。
⑤肥満症
糖尿病の発症メカニズムと関連して、睡眠障害によってホルモンバランスが乱れます。食欲を低下させるレプチンの分泌低下や食欲を増進させるグレリンの分泌亢進により、食欲はドンドン増加し、それに連れ体重もドンドン増えるのです。さらに肥満によって舌根はもっと沈下し、気道は狭められ「いびき」や無呼吸状態が悪化します。悪循環ですね。
⑥こむら返り
夜中にふくらはぎが突然吊ったり、足の親指が勝手に曲がったりして痛い思いをすることがあります。ほとんどが高齢者で、老化現象で筋肉が中枢神経の抑制を無視して暴走収縮するのが原因とされています。しかし、「いびき」の低酸素状態で交感神経が絶えず興奮しているために足の筋肉が暴走したとしても不思議ではないでしょう。
【参考文献】
「危険ないびきが生活習慣病を招く」 鈴木俊介著 小学館文庫
「睡眠障害 知る診る治す」 MEDICAL VIEW
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