コレステロールから動脈硬化へ#6 「接着分子の存在価値」
実は、ここに「血管内皮前駆細胞」という細胞の存在がカギを握っているのです。
骨髄で作られる血管内皮前駆細胞は、血管の内皮細胞が何かの原因で破壊された時に、その修復のために使用され活躍する細胞です。この細胞が十分に機能しないと、強皮症の原因になると考えられています。
つまり、接着分子は、傷ついた内皮細胞修復のために血管内皮前駆細胞を捕獲するために存在価値があるのです。
移植された新しい内皮細胞はNO一酸化窒素を放出して平滑筋を弛緩させます。また、同じく接着分子で捕獲された単球は、内膜に侵入してマクロファージに変身し、適度な硬さの動脈硬化を作ります。血管内皮前駆細胞と単球の共同作業で、内皮細胞が傷ついた血管を適度に頑丈にするのです。
ところが、何かの原因で血管内皮前駆細胞が作られないと、内皮細胞の修復はされなくなります。
そして、単球だけが損傷部分に接着するので、動脈硬化だけがドンドン作られることになります。この血管内皮前駆細胞が作られなくなる原因として、高脂血症(コレステロール高値)や糖尿病があるのです。
血管内皮前駆細胞と単球が同じように接着分子のターゲットになる現象は不思議だと思いませんか?
細胞培養技術の応用で、採血された末梢血液の単球から、血管内皮前駆細胞が作られるのです。実は単球も血管内皮前駆細胞も基本的には同じ細胞であることが想像できます。単球表面の識別コードも血管内皮前駆細胞表面の識別コードもほとんど同じなので、接着分子は区別がつかないのだと想像できます。
しかし、もしも血管内皮前駆細胞が激減しているために動脈硬化が起こるとすれば、動脈硬化の心筋梗塞や脳梗塞の患者さんには、癌が発生しても癌栄養のための新生血管が作られないことになります。
心筋梗塞や脳梗塞の患者さんにも癌は発生しますし、転移もします。つまり新生血管が作られていることになりますから、血管内皮前駆細胞が十分に供給されていることになります。
仮説として私はこのように考えます。
骨髄から骨髄芽細胞が血液中に放出されます。骨髄芽細胞は、傷害された内皮細胞に接着分子で付着します。その際に、接着分子に内皮細胞に成熟させる分子と単球に成熟させる分子の両方が存在し、それら分子の働きにより、ニュートラルな骨髄芽細胞が内皮前駆細胞にも単球にも変化するのだと考えると、癌患者さんの場合にも整合性が取れます。何らかの原因で、内皮細胞に成熟させる分子がブロックされると、単球しか成熟しません。そのため動脈硬化は進みます。癌細胞は内皮細胞を成熟させる分子をたくさん作ることができるから新生血管を自由に作ることができるのかも知れません。
コレステロールから動脈硬化へ#1 「更年期とコレステロール」
コレステロールから動脈硬化へ#2 「コレステロールと動脈硬化」
コレステロールから動脈硬化へ#3 「動脈硬化の進行・悪化」
コレステロールから動脈硬化へ#4 「治療のエビデンス」
コレステロールから動脈硬化へ#5 「動脈血管生理の本質と誤解」
コレステロールから動脈硬化へ#6 「接着分子の存在価値」
【参考文献】
新しい血圧測定と脈波解析 MEDICALVIEW
PWVを知るPWVで診る 中山書店
新・心臓病診療プラクティス11 高血圧を識る・個別診療に活かす 文光堂
新・心臓病診療プラクティス15 血管疾患を診る・治す 文光堂
新・心臓病診療プラクティス16 動脈硬化の内科治療に迫る
神戸女学院大学誌 2005年
久山町研究 2005年
日本循環器科学会誌 1997年
血管内皮細胞をめぐる疾患 真興交易㈱
血管内皮細胞研究フロンティア メディカルレビュー
NOと医学 共立出版
NOでアンチエイジング 日経BP
組織細胞生物学 南江堂
ハーパー・生化学 丸善
アンダーウッド病理学 西村書店
解明病理学 医歯薬出版
標準生理学 医学書院
図解生理学 医学書院
カラーアトラス機能組織学 南江堂
| 固定リンク
コメント