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コレステロールから動脈硬化へ#3 「動脈硬化の進行・悪化」

Fantasy13assystem前回解説した動脈硬化の成り立ちをフローチャートで示します。
動脈硬化の原因の一つである低分子低比重コレステロール(LDL)の治療薬であるスタチン系薬剤で治療しても、コレステロール値は下がるかもしれませんが、動脈硬化の進行は抑えることができません。今までの模式図の解説中にたびたび出てきた内皮細胞の「傷害」が、動脈硬化進行・進展の主な原因と考えられます。そこで内皮細胞の「傷害」の原因を考えてみましょう。

Fantasy14naihitop内皮細胞の「傷害」原因には次の4つが考えられます。
①乱流
②脈波
③キャビテーション
④AGEs
です。

Fantasy15naihiranryu①乱流
ひとたび動脈硬化ができると、血管内腔は均一ではなくなります。内腔の狭い場所は血流速度が速くなります。血流が早くなると血管壁付近の圧力が極端に低下して、渦・乱流が生じます。ホームを走行する電車の傍を立っていると、電車に引きこまれそうになる、あの感覚です。血流は24時間絶え間なく流れていますから血管壁にかかる負荷は尋常ではありません。当然、血管内皮は物理的負荷を受け傷害されます。

Fantasy16naihiranryu2内皮細胞が傷害されれば、接着分子が放出され、動脈硬化の成り立ちシステムが刺激され、さらに動脈硬化は成長します。

Fantasy17naihimyakuha②脈波
手首や頸動脈を触れた時に感じる血管の「ドキッドキッ」を脈波といいます。この脈波は血管を伝わっていく波で血流とは同期していません。この波のために血管壁は絶え間なく変形します。当然、内皮・内皮細胞に物理的力、つまり剪断力・ずれ応力が働きます。内皮細胞は絶え間なく傷害を受けるのです。

Fantasy27kensamyakuha指先の血管を測定することにより、加速度脈波を測定することができます。
加速度脈波の波形によって血管年齢を推定できます。もしも50歳の人で血管年齢が70歳であれば、加齢以上の動脈硬化が進んでいると考えます。

Fantasy28kensamyakuhakas右はあるホームページを参考に作成したスライドです。
加速度脈波の生データを記録すると、1つの脈波でこのような「ギザギザ」の加速度が記録されます。「ギザギザ」を数えると約70個の加速度の集合体です。

Fantasy18naihimyakuha2脈波1個につき約70個の加速度が存在していると考えると、脈波1個につき70個の加速度で内皮細胞は物理的負担を受けていることになります。
人間は普通1日10万回の脈拍がありますから、1日700万回の加速度を血管壁が受けていることになります。10年で255億5千万回、40年で1022億回です。40歳で血管壁がある程度の動脈硬化になったとしても自然な加齢現象として不思議ではない数字です。

Fantasy29kensamyakuhaden脈波に関連して、脈波伝播速度という検査指標があります。血管(動脈)を伝わる脈波の「速度」を数字化したものです。一般的には、脈波伝播速度は秒速5m~秒速15m(時速換算で18km~54km)になりますが、動脈硬化が進むと秒速18m~22m(時速換算65km~79km)にもなります。

Fantasy19naihimyakuhaden脈波1個の加速度の数が70個で一定だとすれば、脈波伝播速度が速いということは、短時間に70個の加速度が血管壁にかかり、血管壁に強いエネルギー負荷がかかったことになります。ですから、脈波伝播速度が速ければ速いほど、血管壁の内皮細胞に負荷がかかるのです。

Fantasy31screw③キャビテーション
水中のスクリューが回り始める時に、スクリューの周りから泡が出現する現象をご存知ですか?007などのスパイ活劇映画などで、そのようなシーンをご覧になった経験があると思います。あの泡は何だとお思いですか?あの泡こそ「キャビテーション」なる現象です。流体物理学の理論(ベルヌーイの定理)により、流体の速度が速くなると周囲の圧力が低下します。流体である水は、圧力が低下すると沸点(水が沸騰する温度)も下がります。たとえ氷水のような冷たい温度でも、圧力が極端に低下すると、水は沸騰するのです。スクリューの周りに一瞬にしてできるたくさんの泡は、沸騰した水蒸気そのものなのです。スクリューの設計上、このキャビテーションが問題になります。水蒸気の泡は、生じる時と消滅する時の2回、衝撃波を作ります。このキャビテーションによる衝撃波が、スクリューそのものを破壊してしまい、それがスクリューの寿命になるのです。ですからスクリューの設計者は、このキャビテーション現象が抑えるように設計しなければなりません。

Fantasy20naihicavitation動脈硬化で血管が狭くなる部分は、ベルヌーイの定理により血流が速くなり圧力が低下し、その結果、スクリューのキャビテーション現象による同様の衝撃波で血管内皮細胞は傷害を受けます。

Fantasy21naihicavitation2キャビテーション現象は、血流の上流から下流に向かって生じますから、衝撃波は狭い部分の入り口より出口に向かって発生します。結果、動脈硬化は中枢(上流)から末梢(下流)へ向かって成長するのです。

Fantasy22naihiages④AGEs
糖尿病で高血糖が続くと最終糖化生成物AGEsが増えて内皮細胞が傷害を受けます。今までの内皮細胞の傷害は物理的なエネルギーによる傷害でしたが、今回は生化学的な傷害になります。

Fantasy23naihifmd最近、内皮細胞の機能を診るための新しい検査法が開発されました。
上腕動脈の血流を5分間圧迫遮断し、圧迫解除後の上腕動脈の直径と安静時のそれとを比較して、内皮細胞の機能を観察する検査器械です。血流を遮断された血管の内皮細胞は、解放された直後に大量のNO一酸化窒素を放出して血管平滑筋を緩めて血管を積極的に拡張させます。安静時より6%以上直径が大きく広がっていれば、内皮細胞機能は正常と判断する器械です。

Fantasy24naihifmdmiste心筋梗塞・狭心症のステント留置後、%FMDが7%以上と7%未満の患者さんとでは、冠動脈の再狭窄に有為の差を認めます。
上腕動脈のサンプリングで心臓冠動脈の動向が推測できるのです。つまり動脈硬化は一部の所見が全体像を示していることになります。

Fantasy25naihiassysytem動脈硬化の進展・悪化の最も重要な原因は、以上のことから、生理的・病的理由による内皮細胞の傷害・障害であることが分かります。

コレステロールから動脈硬化へ#1 「更年期とコレステロール」
コレステロールから動脈硬化へ#2 「コレステロールと動脈硬化」
コレステロールから動脈硬化へ#3 「動脈硬化の進行・悪化」
コレステロールから動脈硬化へ#4 「治療のエビデンス」
コレステロールから動脈硬化へ#5 「動脈血管生理の本質と誤解」
コレステロールから動脈硬化へ#6 「接着分子の存在価値」

【参考文献】
新しい血圧測定と脈波解析 MEDICALVIEW
PWVを知るPWVで診る 中山書店
新・心臓病診療プラクティス11 高血圧を識る・個別診療に活かす 文光堂
新・心臓病診療プラクティス15 血管疾患を診る・治す 文光堂
新・心臓病診療プラクティス16 動脈硬化の内科治療に迫る
神戸女学院大学誌 2005年
久山町研究 2005年
日本循環器科学会誌 1997年
血管内皮細胞をめぐる疾患 真興交易㈱
血管内皮細胞研究フロンティア メディカルレビュー
NOと医学 共立出版
NOでアンチエイジング 日経BP
組織細胞生物学 南江堂
ハーパー・生化学 丸善
アンダーウッド病理学 西村書店
解明病理学 医歯薬出版
標準生理学 医学書院
図解生理学 医学書院
カラーアトラス機能組織学 南江堂

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