コレステロールから動脈硬化へ#2 「コレステロールと動脈硬化」
ここで基本に立ち返って、動脈硬化の成り立ちについて解説しましょう。
【動脈硬化の初期段階】
血管内膜の内皮細胞が「傷害」されると、内皮細胞から接着分子という接着剤が放出されます。接着分子によって白血球である単球が内皮細胞に捕獲され、内膜に吸収されます。内膜に吸収された単球は、マクロファージに姿を変えて、内膜にすでに吸収された低分子低比重コレステロール(LDL)を貪食します。その結果が泡沫細胞という動脈硬化の組織に見られる特徴的な成分です。
【動脈硬化の次の段階】
内皮細胞の「傷害」が続くと、上記の現象はさらに進展します。
単球由来のマクロファージは、血管中膜の平滑筋を刺激します。すると、平滑筋が境界線を破って内膜に侵入・遊走するのです。そして進入した平滑筋はマクロファージになり内膜のコレステロールを貪食します。単球由来のマクロファージと同様に泡沫細胞に変化します。また、平滑筋は脆弱なⅤ型コラーゲン線維を作り、内膜を線維化させ器質化の道を進みます。
【動脈硬化の最終段階】
上の2つの段階がさらに進展すると、血管壁にかなりのスペースで動脈硬化が形成されます。
その状態を粥状プラークといいます。一見硬い動脈硬化ですが、構成成分であるコラーゲン線維は、平滑筋が生んだⅤ型コラーゲン線維が主で、この線維は張力に対して脆弱で、簡単に破綻します。この破綻により血管の内側は、はがされ露出し、内膜が血液に直接さらされます。その結果、血液中の血小板を刺激し、血栓が形成されます。血栓が完全に血管内空を閉塞すれば、心筋梗塞・脳梗塞になりますし、血栓が患部を離脱し、他の血管を閉塞すれば脳血栓・肺血栓になります。
内皮細胞が傷害・障害を受けると接着分子が放出されます。
その接着分子によって白血球が血管内膜にくっ付き、内膜に押し込まれていきます。この白血球(単球)が内膜の中でマクロファージに変身して動脈硬化の主役になります。
血管内皮細胞が傷害されると、接着分子がたくさんの手のように食指を伸ばして、単球・リンパ球・血小板を捕獲します。
捕獲された白血球(単球・リンパ球)は内膜に取り込まれて、動脈硬化の重要な役目を担います。また、血小板は一定の条件下で平滑筋を緊張させ、機能的な動脈硬化を起こします。
上で解説した動脈硬化の成り立ちをフローチャートで示したのが、右の図です。
動脈硬化の原因の一つである低分子低比重コレステロール(LDL)の治療薬であるスタチン系薬剤で治療しても、コレステロール値は下がるかもしれませんが、動脈硬化の進行は抑えることができません。今までの模式図の解説中にたびたび出てきた内皮細胞の「傷害」が、動脈硬化進行・進展の主な原因と考えられます。そこで内皮細胞の「傷害」の原因を考えてみましょう。
コレステロールから動脈硬化へ#1 「更年期とコレステロール」
コレステロールから動脈硬化へ#2 「コレステロールと動脈硬化」
コレステロールから動脈硬化へ#3 「動脈硬化の進行・悪化」
コレステロールから動脈硬化へ#4 「治療のエビデンス」
コレステロールから動脈硬化へ#5 「動脈血管生理の本質と誤解」
コレステロールから動脈硬化へ#6 「接着分子の存在価値」
【参考文献】
新しい血圧測定と脈波解析 MEDICALVIEW
PWVを知るPWVで診る 中山書店
新・心臓病診療プラクティス11 高血圧を識る・個別診療に活かす 文光堂
新・心臓病診療プラクティス15 血管疾患を診る・治す 文光堂
新・心臓病診療プラクティス16 動脈硬化の内科治療に迫る
神戸女学院大学誌 2005年
久山町研究 2005年
日本循環器科学会誌 1997年
血管内皮細胞をめぐる疾患 真興交易㈱
血管内皮細胞研究フロンティア メディカルレビュー
NOと医学 共立出版
NOでアンチエイジング 日経BP
組織細胞生物学 南江堂
ハーパー・生化学 丸善
アンダーウッド病理学 西村書店
解明病理学 医歯薬出版
標準生理学 医学書院
図解生理学 医学書院
カラーアトラス機能組織学 南江堂
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