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動脈硬化の悪化は、なぜ阻止できないのか?

Brainthrombusrec右の表は、2005年の久山町研究の脳卒中の再発率です。
脳卒中は脳血管の動脈硬化が原因であることは周知の事実です。代表である脳梗塞は、発症後1年で10%、5年で34.1%、10年で49.7%の方が再発します。動脈硬化の治療であるコレステロール・血圧・抗凝固剤の治療を行っているにも関わらずです。

Mire右の表は、1997年の駿河台日本大学病院循環器科の文献です。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いのを放置した患者さんグループは、急性心筋梗塞発症後、1年は0%ですが、3年で11%5年で14%、10年で20%の方が心筋梗塞の再発をします。

Saihatsurate上記2つの文献から、脳卒中と心筋梗塞の再発率を比較したのが、右のグラフです。
同じ動脈硬化が原因であるにもかかわらず、脳卒中の方が再発率は倍近く高くなっています。
病気が違うのだから・・・と言われたら仕方がありませんが、動脈硬化が原因とすればおかしな現象です。ここに、動脈硬化の悪化するヒントが隠されています。

Whyprogressasこの図は、動脈硬化の成り立ちを示すものです。
一般的にコレステロールの上昇を抑えれば、動脈硬化は抑えられるとお思いでしょう?
ところが、コレステロールを改善するお薬(スタチン系薬剤)を服用しても、動脈硬化の進行・悪化はおさまりません。

Whyprogressas2なぜかと言えば、一度、動脈硬化が出来上がると、動脈硬化が独り歩きするようになり、どんどん進行・悪化するのです。その原因は、硬さによる物理的現象が起こす結果です。管としての血管は硬くなれば、物理的振動が強く起き、血液の流れにも乱流が生じて、なお一層、血管内皮細胞に物理的負荷がかかるのです。

Whyprogressas3それぞれの原因を一つ一つつぶして行けば、動脈硬化の進行は阻止できます。
単に、コレステロールだけに目を奪われ、コレステロールだけの治療に専念するので、治療結果が出せないのです。

Whyprogressas4cholまずは、スタチン系薬剤によるコレステロールの治療について見てみましょう。
コレステロールの治療薬にはいろいろあります。どれを治療薬に選んでもLDLコレステロールは下げることができます(左のグラフ)。しかし、動脈硬化を下げることのできる(脈波伝搬速度を遅くできる)のはローコールだけです(右のグラフ・赤い矢印)。

Whyprogressas5hoju更年期のご婦人がコレステロールが上昇して動脈硬化になる事実は知られたことです。
その治療としてホルモン補充療法があります。しかし、内服薬と外用薬とでは、動脈硬化を抑えてくれるのは外用薬だけです(赤い矢印)。ホルモン補充療法を行っているからと同じ結果ではないのです。

Whyprogressas6dm糖尿病になると高血糖による糖化作用で、血管内皮細胞が障害されて、血管弛緩作用のある一酸化窒素がでなくなります。そのため糖尿病の患者さんは動脈硬化が進みます。糖尿病をコントロールされていない人は動脈硬化が進行します(赤い矢印)。

Whyprogressas7ht血圧のコントロールが十分(140mmHg以下 )である高血圧の患者さんは、動脈硬化の進行も抑えることができます(赤い矢印)。高血圧がある患者さんはシッカリと血圧を下げることが重要になります。

Whyprogressas8no2動脈硬化の患者さんに心筋梗塞・狭心症の治療薬であるニトログリセリンを投与すると、左の波形から右の波形のように脈圧波形と血圧が改善されます。
脈圧波形が変化したのは、脈波伝播速度が遅くなったことであり、血管壁が軟らかくなったことでもあります。
機能的な軟らかさは、器質的な軟らかさに変化しますから、動脈硬化が治ることでもあります。逆に機能的硬さは器質的硬さになります。例えば、常に緊張やストレスを強いられている人は、交感神経の緊張で機能的に血管が硬くなります。それを続けるうちに血管は器質的に硬くなり動脈硬化になります。最終的に脳梗塞・くも膜下出血・心筋梗塞などになるのです。仕事人間の突然死が多いのはそのためです。

Whyprogressas8no原因は何であれ、様々な状況で結果的には血管内皮細胞が傷害されて、内皮細胞から血管弛緩作用のある一酸化窒素NOが分泌されなくなります。
血管内皮細胞に物理的な負荷がかかると、内皮細胞の中でL-アルギニンと酸素から一酸化窒素が作られます。この一酸化窒素は内皮細胞に隣接する血管平滑筋に入り、グアニル酸シクラーゼを活性化します。グアニル酸シクラーゼはサイクリックGMPを合成します。サイクリックGMPは平滑筋細胞内のカルシウムイオンを細胞外に放出し、その結果、平滑筋の緊張がゆるみ、血管はゆるみ拡張し血管の硬さが取れるのです。

Whyprogressas9final動脈硬化の本質は、この「一酸化窒素NOの欠乏」に他なりません。動脈硬化を原因とする脳梗塞・脳出血・心筋梗塞・狭心症などは、「一酸化窒素欠乏症候群」と考えることもできます。
3枚目のグラフの脳梗塞(脳卒中)と心筋梗塞の再発率の差は、一酸化窒素NOを補給させるニトログリセリンなどの薬剤を使用しているか否かの差だと考えられます。
Saihatsurate心臓の病気でもない脳梗塞の患者さんにニトログリセリンを投与する訳もなく、その結果、脳梗塞の患者さんは高率に再発するのです。また、心筋梗塞の患者さんがすべてニトログリセリンの治療を受けている訳ではありません。一般的に心筋梗塞の患者さんの70%~80%がニトログリセリンの治療を受けていますから、再発率は10年で20%なのも納得できます。

更年期とコレステロール
コレステロールの治療
動脈硬化の原因

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