カテゴリー「初期の考え方」の記事

慢性前立腺炎の治療

慢性前立腺炎の治療には、次の手段があります。

●薬剤治療
●神経ブロック
●手術治療

薬剤治療
慢性前立腺炎の原因が器質性もしくは機能性膀胱頚部硬化症が原因と考えられますから、まず膀胱頚部が排尿時に開くように作用するαーブロッカーを処方します。
病気の期間が長いと、膀胱三角部炎・後部尿道炎を併発していて膀胱刺激症状が強く出ます。そのために、膀胱の感覚を鈍感にする頻尿改善剤・安定剤・抗うつ剤を処方します。ところがこの系統の薬剤は逆におしっこが出にくくなることがありますから、矛盾した治療をすることになります。「あちらを立てればこちらが立たず」の場面です。

神経ブロック
 慢性前立腺炎の症状が強い場合、仙骨部の副交感神経が過敏になっていてコントロールできない状態です。その場合、神経興奮の回路悪循環を断つために仙骨神経ブロックを行います。排尿障害がない慢性前立腺炎の患者さんであれば、非常に効果的です。しかし、排尿障害が隠れている患者さんにとっては、一時凌ぎにしかなりません。
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手術治療
●膀胱三角部レーザー光線焼灼術
膀胱三角部炎で過敏になった膀胱三角部を部分的にレーザー光線で焼灼し、膀胱三角部の過敏さを抑える手術です。膀胱三角部に膀胱の感覚が集中しているとは云え、膀胱全体にも感覚器は散らばっています。ですから、膀胱三角部だけをレーザー光線で治療しても、膀胱知覚過敏の全てが治る保証がないのが残念です。と言って、膀胱全体の粘膜をレーザー光線で治療したら、膀胱は萎縮してしまいます。そうなると本末転倒になってしまいます。治療の難しさを感じる所です。

●膀胱頚部切開術
開きが悪く排尿障害の原因となっている膀胱頚部をレーザー光線や電気メスで切開し、容易に開くように工夫します。慢性前立腺炎の患者さんはほとんどが性生活が現役ですから、逆行性射精を作らないように工夫します。工夫をする余り、手術を控えめに行うと排尿障害は治りません。またまた「あちらを立てればこちらが立たず」の場面です。


治療の難しさ
私が治療した慢性前立腺炎の患者さんは100%治っています、と言いたいところですがそんな訳はありません。治療した患者さんの内、4割の患者さんが非常に良く治り、3割の患者さんの症状が軽快しています。残り3割の患者さんの症状は変わらないか不満を訴えておられます。その理由は三つあると思います。

第1の理由
膀胱感覚の「尿意」は本来、膀胱に尿が溜まることによって起きる膀胱伸展の「痛み」です。尿が溜まるたびに膀胱が痛いのでは、生き物として尿をするのが嫌になり最後には水分を取らなくなってしまいます。すると生き物としては致命的ですから、膀胱伸展の「痛み」を脳中枢の神経回路で「尿意」に変換して意識させるのです。この「神経回路」がキーポイントです。
排尿障害が潜在化すると、排尿のたび毎に膀胱収縮による圧力が膀胱壁に直接跳ね返ってきます(作用反作用の法則)。毎日その刺激を受けていると膀胱も辛くなり少しでも楽な方向に逃げようとします。そのために少ない尿で排尿させようと膀胱システムがフル稼働します。それが膀胱の過敏になり頻繁な尿意すなわち「頻尿」や「残尿感」になるのです。
「神経回路」が長期間負荷を受け続けると誤作動を起こし始め、膀胱伸展痛が尿意に変換しなくなり、本来の「痛み」、「しびれ」や膀胱以外(尿道・会陰部・下腹部・腰・大腿など)の症状を作り上げてしまうのです。さらに経過が長くなると、この「神経回路」の誤動作は修復しにくくなります。ですから手術で排尿障害を改善しても脳中枢の「神経回路」が修復されない限り症状は改善しないのです。
治療として「神経回路」の誤動作を和らげるために精神安定剤・抗うつ剤・漢方薬が作用します。排尿障害を治療しなくてもこれらの薬がある程度効き目があるのはこの「神経回路」の存在のためです。
また、膀胱・前立腺の過敏を和らげるために頻尿改善剤・解熱鎮痛剤座薬・セルニルトン・亜鉛などのサプリメント・インターネットの掲示板で話題の青汁・アロプリノール(痛風治療薬)・低周波治療・仙骨神経ブロック・温熱治療・膀胱内薬剤注入(ヘパリン・DMSO)・膀胱三角部レーザー照射・ボツリヌス毒素の前立腺組織内注射などがあります。

第2の理由
第1の理由で頻尿が継続すると膀胱は膨らまなくなります。ちょうど病気で寝てしまった老人がしばらくすると足腰が弱くなって歩けなくなるのと似ています。いわゆる筋肉の廃用性萎縮・関節の拘縮です。膀胱が膨らむのを忘れてしまったと言ったらよいでしょうか。膀胱にとっては膨らまずに縮こまっている方が楽です。
そうすると、膀胱が硬くなり本当に膨らみません。膀胱容量の極端な低下です。例えば尿が100ml溜まると、膀胱は硬いのでそれ以上膨らまなくなります。すると膀胱内圧力はぐんぐん高くなり500ml以上溜まった時と同じ圧力になりますから強い尿意になり頻回にオシッコに行くようになるのです。この状態の膀胱は「間質性膀胱炎」と酷似しています。間質性膀胱炎は原因不明の独立した病気ですが、慢性前立腺炎や慢性膀胱炎の最終型の状態とも考えられます。なぜなら、慢性前立腺炎も慢性膀胱炎も排尿障害の病気として一般的に捉えられていませんから、末期症状の間質性膀胱炎だけが初めて顕在化したので原因不明の病気として分類されてしまうのでしょう。
治療として仙骨神経ブロックまたは硬膜外神経ブロック麻酔下で行う膀胱拡大矯正術の定期的治療があります。
 
第3の理由
以上の「神経回路の誤動作」「膀胱・前立腺の過敏」「膀胱容量の低下」と先日説明した「隠れ排尿障害」の4つの要素が複雑に絡み合い、非細菌性慢性前立腺炎と言われる症候群の患者さんの多様な症状に結び付いていると考えられます。
私が治療し治った4割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が高く他の要素が低かったからでしょう。症状が軽快した3割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が比較的高く他の要素も同じくらいに高いので「軽快」程度の治り方だったのでしょう。
3割の無効患者さんは出発点である「隠れ排尿障害」要素は比重が低く、他の要素に主役を奪われ、排尿障害の治療をしても症状の改善を得られなかったのだと考えます。

★無効であった3割の患者さんの内、2割5分の方はその後のいろいろな治療で症状が軽快します。そのほとんどの方が私を信頼して治療に付いてきた患者さんばかりです。結果的に95%の患者さんが軽快します。

ただし、慢性前立腺炎に対する考え方は私独自の考え方です。正しいか否かは後の世でわかるのだと思います。

★下記に治療経過が長かった患者さんからのお礼のメールを掲載(原文のまま)します。医師も根気が必要ですが、患者さんの協力なしには慢性前立腺炎の治療は成功しません。
「高橋先生へ
 こんにちは、ご無沙汰しております。今年の7月29日に頚部硬化症の手術をして頂きました○○です。
その節はお世話になりました。丁度5ヶ月が経とうとしています。その間2回の再切除を試みましたが、症状が良くなりつつあり、2回ともキャンセル致しました。申し訳なく思う次第であります。
 その後の経過ですが、尿の出は3ヶ月を過ぎたあたりから、若干出が改善されてまいりました。また、残尿感、排尿痛は4ヶ月を過ぎたあたりから気にならなくなりました。尿の回数(あいだの時間)も週単位で減っていくよう感じられます。まだ、排尿障害の域ではあるかもしれません。しかし自分自身現状で満足しております。会陰部の鈍痛もかなり軽減され、ピーク時の10%程度まで改善いたしました。手術前の諸症状、痛み、精神状態を思うと、現在の状態は本当に生きがいを感じ、また仕事にも集中できるようになり、日一日が楽しく感じられる今日このごろであります。手術後2ヶ月目が、かなり頻尿、残尿に苦しみました。しかし、今思うと必ずや直るとゆう意思により今日があるようにも思います。
 本当に有難う御座いました。患者に対する思いやりと相手を察する誠心誠意な対応そして、経験と疾患への着眼点は世界一のドクターである、そのドクターである高橋先生にめぐり会えたのも、守護神様のお導きであると毎日感謝しております。また、定期的に診察をお願いしたく、今後とも宜しくお願い致します。
メールにて失礼致します。」

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慢性前立腺炎の検査・診断

 慢性前立腺炎で通常行われる検査は、前立腺マッサージ後の尿検査か前立腺液塗沫検査です。この検査で白血球や細菌を確認すると、慢性前立腺炎と診断します。
 ところがこの検査結果と症状に相関関係がないのです。前立腺マッサージ後検査で改善しているからといって、症状はまったく変わらないことが通例です。
 私からすると、前立腺マッサージ後検査は、本当に細菌が原因の急性前立腺炎や慢性前立腺炎の患者さんには有用かも知れませんが、非細菌性慢性前立腺炎の患者さんには無意味な検査だと思われます。
 ところが泌尿器科医は細菌感染の証拠が証明されるまで、しつこく前立腺マッサージ検査をしつこく何度も何度も行っているのが現状です。何度も検査して細菌感染の証拠がでなければ、細菌感染が原因ではないと、何故みんな考えないのでしょう。

 アメリカの最近の報告によると、前立腺マッサージ後の健常者の前立腺液と慢性前立腺炎患者さんの前立腺液を比較したところ、健常者の前立腺液の方が白血球陽性の確率が高かったと云います。前立腺マッサージ後の前立腺液の白血球の存在を慢性前立腺炎診断のより所にしている泌尿器科専門医は真っ青です。

高橋クリニックで行っている慢性前立腺炎の患者さんに行う検査は、次の5つです。

●超音波検査:
膀胱頚部硬化症の存在と膀胱粘膜の肥厚を見ます。
●ウロフロメトリー(尿流量測定検査):
尿流測定検査、簡単にいえばおしっこの勢いを見る検査方法です。
●残尿測定:
排尿直後に超音波を利用して残尿量を測定します。
●尿一般検査:
どこでも行うもっとも基本的な検査です。尿の汚れを見ます。
●内視鏡検査:
膀胱尿道鏡検査です。この検査で重要な所見が得られます。しかし、一般的に慢性前立腺炎は炎症だからと考えて、この検査を嫌う医師が非常に多いのです。そのためにハッキリした原因もつかめずに、意味もなく効かない抗生剤をダラダラと処方し続けることになるのです。
【注】
現在、内視鏡検査を除く4つの検査、超音波エコー検査・尿流量測定ウロフロメトリー検査・残尿量測定検査・尿一般検査で十分に診断できるので、内視鏡検査は通常行っていません。ブログに掲載されている内視鏡写真は、ほとんどが手術直前の写真です。

 他の医療機関で「慢性前立腺炎」と診断された患者さんのほとんどの方にこの一連の検査で排尿障害を証明することができます。慢性前立腺炎は前立腺の炎症性疾患ですから、感覚的な症状はあっても、排尿障害などの機能的・物理的・器質的所見があってはならないのです。もしも機能的・物理的・器質的所見が存在するならば、それは慢性前立腺炎の症状に似た(ここが重要!)、別の病気と考えるのが論理的・科学的思考と私は考えます。

★高橋クリニックでは、前立腺マッサージによる前立腺液検査を行いません。前立腺液に細菌が存在していても白血球が存在しても、それは炎症の結果であって、前立腺の炎症の原因とは思えないからです(炎症とは?を参照)。そしてすでに他の医療機関でさんざんその検査は行われていて、その検査結果は患者さんの症状とは相関していないことは、患者さんご本人が十分ご存知だからです。

●超音波検査
 超音波検査で膀胱頚部硬化症の場合、内尿道口に高輝度(ハイエコー)の所見を認めます。高輝度はその部分が硬いか組織が集中していると考えられます。ですから高輝度の所見があれば、膀胱頚部硬化症を疑う訳です。
 また、膀胱頚部が膀胱内に突出している構造になっていると、排尿時の膀胱収縮時に尿道が圧迫されて排尿障害になります。高輝度の所見がなくても排尿障害の原因になります。

●尿流量測定ウロフロメトリー検査
 患者さんご本人が排尿障害を訴えていなくても、ルーチン検査でこのウロフロメトリー(尿流量測定検査)を行います。患者さんのほとんどの訴えが会陰部の痛みや頻尿・残尿感ですが、この検査で初めて排尿障害を指摘されて、患者さんは驚かれます。

●残尿量測定検査
 上記のウロフロメトリー検査後に超音波検査で残尿を測定します。排尿直後に残尿はゼロの筈ですから、残尿がわずかでも存在すれば間接的に排尿障害が証明されます。簡単な検査ですが、大切な情報です。しかし、この簡単な検査を皆さん行っていないのです。
 これまでの三つの検査で、排尿障害の有無はほぼ100%確認できます。後は、内視鏡検査が確定診断になります。

●尿一般検査
 どこの内科や泌尿器科でも行われるのがこの尿一般検査です。尿の汚れを見る検査ですが、注意しなければならないのは、この検査は泌尿器科の病気を全て完全に反映していないと云うことです。尿検査が正常であっても尿路感染症が存在しないとは証明できません。あくまでも参考程度の検査として捉えてください。ですから、
   「尿検査が正常」=「尿路感染症はなし」=「気のせい」
ではありません。このことを医師も患者さんも正しく理解しなければなりません。

●内視鏡検査
 慢性前立腺炎の患者さんの内視鏡検査で、私が確立した特徴的な所見として、次の五つを挙げることができます。慢性前立腺炎患者さんの全てに、この五つの所見が全て揃っているわけではありません。でも写真をご覧になって分かるように、これだけの所見があるにもかかわらず、慢性前立腺炎と診断され治療経過が長い患者さんのほとんどが、残念ながら内視鏡検査を受けていません。手抜き診断と思われても仕方がありませんね。
 内視鏡検査を行わない、あるいは拒否する理由があります。慢性前立腺炎の炎症がひどくなるという全く根拠のない誤解によるものです。それが患者さんのみならず、医師に至っては情けないの一言です。
 例えば、呼吸器科の医師が原因不明の気管支炎あるいは肺炎の患者さんを診断する時に、気管支鏡を考えないでしょうか?
 例えば、潰瘍性大腸炎の疑いで苦しむ患者さんを目の前にして、大腸内視鏡検査を否定する消化器科専門医がいるでしょうか?
 例えば、長期の前立腺肥大症の患者さんには必ず慢性前立腺炎を合併していますが、手術前に内視鏡検査を行わない泌尿器科医がいるでしょうか?
 全て否です。それなのに、非細菌性慢性前立腺炎を診る多くの医師は、炎症が増悪すると言って内視鏡検査を行わないのです。
 内視鏡検査を歴史上初めて行った医師は泌尿器科医なのです。難治性の下部尿路疾患(膀胱・前立腺・尿道の病気)を扱う泌尿器科医は、必ず内視鏡検査を行わなければなりません。もし、この検査を行わないのであれば、それは泌尿器科医として怠慢であり、苦しむ患者さんに対して罪です。

 ●膀胱頚部硬化症の所見
 ●後部尿道炎の所見
 ●尿道球部炎症の所見
 ●膀胱三角部炎の所見
 ●膀胱肉柱形成の所見

 内視鏡検査に当たって注意することがあります。必ず十分な麻酔をすることです。私は必ず仙骨神経ブロック・硬膜外神経ブロック・脊椎麻酔のいずれかを行ってこの検査を行います。一般的な泌尿器科外来ではこの内視鏡検査の時には尿道粘膜局所麻酔のみです。局所麻酔だけですと検査中の痛みが十分に取れません。すると内視鏡検査の際に患者さんは痛がり、膀胱頚部がすぼまってしまい、痛がってすぼまっているのか膀胱頚部硬化症ですぼまっているのか判断できません。一般的にすぼまっている所見を観察して、医師は「痛がっているのだろう」と勝手に解釈をして正常と判断してしまいます。ですから必ず十分な麻酔が必要です。

●膀胱頚部硬化症の所見
膀胱の出口と尿道の移行部を「膀胱頚部」と呼びます。排尿の時に、膀胱頚部は柔軟に開いたり閉じたりします。ところが慢性前立腺炎の患者さんの膀胱頚部は柔軟性がなく、常にすぼまっているのです。ちょうど「きんちゃく」のようにギュッとすぼまっているのです。私は膀胱鏡検査の時には、仙骨神経ブロックという麻酔で観察します。麻酔がかかっていれば、正常の膀胱頚部は常にゆるんで開いていなければなりません。ところがすぼまっているのです。麻酔がかかった状態ですぼまっているのですから、排尿する時には、十分に開いていないことが容易に想像できます。
【写真上段】おむすび型の膀胱頚部です。横径が3mmしかありません。
【写真中段】すき間型の膀胱頚部です。縦径が3mmしかありません。
【写真下段】別の患者さんのすき間型の膀胱頚部の所見です。近くに寄って観察すると、ポリープが幾つも確認できます。これは排尿障害によってできるジェット流を整流させるために生じる生体反応です。
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Bar in the sky
また膀胱頚部硬化症の内視鏡検査の所見としてBar in the skyの所見が認められます。特に機能性膀胱頚部硬化症の時に見ることができます。
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●後部尿道炎の所見
前立腺の中を通る尿道(前立腺部尿道)の粘膜が異様に汚れた所見を示します。
「後部尿道炎」なる病名が存在しないと説明なさる医師もおられるので補足します。尿道括約筋から内尿道口(膀胱頚部)にかけてを解剖学的に後部尿道といいます。別名、前立腺部尿道ともいえます。慢性前立腺炎患者さんの内視鏡検査でこの部分の粘膜が汚れていることが多くあります。少なくとも私が在籍した慈恵医大泌尿器科では、原因はともかくとして、この所見を後部尿道炎として捉えていました。もしもこの病名をつけなければ、この所見をただ単に「汚れている」「きたない」「粘膜異常」などと表記するだけ、それ以上論議の対象になりません。あえて「後部尿道炎」という病名を声高に主張することで「慢性前立腺炎」という病気の真理が見えてくると思いませんか?
 頭の良い医師は、今ある周知の病気や治療法を深めることには非常に長けています。私のように頭がソコソコの医師は「ひらめき」に情熱を燃やします。病名を無理やり自作してでも病気を治したいと思うのは罪でしょうか?
【写真上段】所々黒色小結石が点在し粘膜もポリープ状になっている。
【写真中段】血管が豊富で容易に出血し、精丘(精液が噴出する出口の膨らみ)にポリープが確認できる。
【写真下段】一見イソギンチャク?と思えるほど粘膜が多数のポリープで覆われている。ここまでの患者さんはめずらしいです。
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ちなみに前立腺肥大症の後部尿道の粘膜は綺麗で、後部尿道炎の所見は認めません。

●尿道球部炎症の所見
 尿道が90度(直角)に曲がる部分を尿道球部といいます。この部分に膀胱頚部硬化症で細くなりジェット流になった尿が球部に直接当るので、赤く炎症を起こしています。仙骨神経ブロックで麻酔を行い、粘膜表面麻酔剤を使わずに観察しています。粘膜表面麻酔剤を使用すると、尿道粘膜が発赤しありのままの尿道粘膜所見が観察できなくなるからです。
【写真】尿道球部の発赤3例です。真中の症例は軽度の尿道狭窄の所見もあります。
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【最近の話題から】
ジェット流と乱流
膀胱頚部を十分に開放せずに排尿すると、膀胱頚部(膀胱出口)から前立腺~尿道球部(尿道括約筋を越えた直角に曲がっている部分)にかけて、尿のジェット流・乱流が生じます。
尿のジェット流・乱流は、前立腺を含めた後部尿道に物理的負担(正確には水力学的負担)をかけます。その結果、後部尿道に炎症性ポリープや血管増生などの後部尿道炎を作ることになります。

最近、美浜原発事故で蒸気噴出事故がありました。原子炉で熱せられた一次熱交換水から受けたエネルギーを二次熱交換水が蒸気になり、蒸気タービンを動かし発電機を回転させる仕組みです。この二次熱交換水の冷却後(150℃以上)の配水管が破損した事故です。事故を起こした配水管は、その手前が水流調節のために狭くなっており、ジェット流・乱流ができます。ジェット流が直接当たる配管金属の厚みが、本来の10mmが1.4mmまでに薄くなっており(86%の減肉現象)、それが今回の破裂事故になったと推測されています。
人間の膀胱頚部で生じるジェット流・乱流とは規模が全くことなりますが、後部尿道に発生する水力学的負担を無視することができないことが容易に想像できるでしょう。

東京新聞2004年8月11日記事 rapture040811.jpg


●膀胱三角部炎の所見
女性の慢性膀胱炎ほどハッキリした膀胱三角部炎の所見を呈する患者さんは少ないです。しかし、膀胱三角部の粘膜がわずかにでも変性していれば、膀胱三角部炎と判断します。
「膀胱三角部炎」なる病名は存在しないと説明される医師がおられるので補足します。一般的に病名がないほど膀胱三角部の粘膜所見を軽視している表れです。その結果、「気のせい」などの診断がつくのです。バイオプシー(生検)で採取した組織を染色して400倍~1000倍に拡大し、病理細胞診断を議論するのに、その何千倍も大きな構造物の粘膜所見に名称がないと説明することに矛盾と疑問を感じます。少なくとも私が在籍した慈恵医大泌尿器科には「膀胱三角部炎」なる病名は存在しました。
【写真】25歳男性の膀胱頚部硬化症患者さんの膀胱鏡検査所見です。膀胱三角部の血管が増生しています。
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●膀胱肉柱形成の所見
膀胱肉柱形成は前立腺肥大症の極期の時に、膀胱の疲弊状態(膀胱が排尿障害で弱っている)の時に観察することが出来ます。しかし、前立腺肥大症がない若者にこの膀胱肉柱形成が確認できた場合は、排尿障害が存在すると判断します。超音波検査でも膀胱肉柱形成は確認できます。

●前立腺マッサージ
 過去に前立腺マッサージについて質問があったので、ここで説明します。慢性前立腺炎でない私も実際に前立腺マッサージをやられたらきっと痛いと思います。直腸から軽く前立腺を触れるだけなら痛みはありません。もし軽く触れただけで痛みがあるのであれば、それは急性前立腺炎であって慢性前立腺炎ではありません。
 前立腺マッサージは前立腺組織を頭に描きながら8の字に強くマッサージするのです。検査をする医師の方は前立腺液を少しでも多く、それも組織奥深いところから採取しようと思いますから指に力が入りますし、「慢性前立腺炎」と患者さんに確信してもらうためにも強く痛くマッサージするのだと思います。
 前立腺マッサージ後の前立腺液中の白血球や細菌の存在確認が慢性前立腺炎の証明だと信じられていますが、本当にそうでしょうか?以前にアメリカの文献で、慢性前立腺炎患者さんグループと前立腺症状のない健康な男性グループの前立腺マッサージ後の両者の前立腺液を調べた結果、何と健康な男性グループに、前立腺液に白血球が多く認められたと報告されています。すると、前立腺液の汚れを慢性前立腺炎の根拠にしていたことはかなり意味がなくなる可能性が出てきます。

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慢性前立腺炎の原因

隠れ排尿障害
 慢性前立腺炎の患者さんは、世代的には20歳前後から40歳代の男性の方がほとんどです。症状の多くは、会陰部痛・残尿感・排尿痛などの尿路症状ですが、おしっこが出にくいと訴えて来院される患者さんは少数派です。たまに、おしっこが以前から出にくいのだが、泌尿器科専門医に症状を訴えても、「若いからおしっこが出にくい訳がない!気のせいだ!」と言われてあきらめていた患者さんがほとんどです。
 そのように訴えられた非細菌性慢性前立腺炎の患者さんに尿流測定検査と残尿測定を行っていただくと、明らかな排尿障害と残尿が認められたのです。『慢性前立腺炎と診断された患者さんに排尿障害が存在する!』これが私が非細菌性慢性前立腺炎の本当の原因は排尿障害だろうと思った瞬間です。私はこれを慢性前立腺炎の「隠れ排尿障害」と呼んでいます。

治療前の慢性前立腺炎患者さんの尿流量測定ウロフロメトリー検査
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治療後の慢性前立腺炎患者さんの尿流量測定ウロフロメトリー検査
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排尿障害が真の原因
 それ以来、慢性前立腺炎の患者さんには全例、排尿障害を捜す検査(尿流測定検査・残尿測定検査)を行うことにしました。するとどうでしょう!全員と言っていいくらいに排尿障害が見つかるのです。慢性前立腺炎のような軽微の炎症では物理的・機能的な排尿障害があってはならないのです。非細菌性慢性前立腺炎と呼ばれる病気は、実は排尿障害の症状だということが分かってきました。


内視鏡検査で証拠を
 そこで、内視鏡検査を行うと、もっと明解な答えが得られました。膀胱と尿道の移行部、膀胱頚部と呼ばれる膀胱の出口の開きが悪いのです。これを膀胱頚部硬化症と云います。膀胱頚部硬化症には硬くて内視鏡すら挿入できない「器質性」膀胱頚部硬化症と、内視鏡は挿入できるが排尿する時に開いてくれない「機能性」膀胱頚部硬化症に分けることが出来ます。器質性の場合は、前立腺肥大症の中葉肥大タイプで肥大症の硬い組織が膀胱頚部にあるために開かない状態を云います。しかし、若い男性のほとんどの場合が機能性膀胱頚部硬化症で膀胱頚部の筋肉(内尿道口括約筋)と副交感神経の障害によるものと思われます。


         排尿障害から慢性前立腺炎への流れ

               膀胱頚部硬化症
                 ↓↓↓
                 排尿障害 
                 ↓↓↓
             慢性的な物理的刺激
                  ↓↓↓
          前立腺・膀胱の慢性的物理的障害
                  ↓↓↓
             前立腺・膀胱の知覚過敏
                 ↓↓↓
           慢性前立腺炎類似症状(無菌性)
                 ↓↓↓
   大脳中枢・脳幹部中枢・脊髄中枢の興奮の持続と過敏
                 ↓↓↓
              多彩な症状と難治性
                 ↓↓↓
     「非細菌性慢性前立腺炎・前立腺痛・前立腺症」  
               と診断される
                 ↓↓↓
               膀胱の萎縮
                 ↓↓↓
               間質性膀胱炎

排尿障害が原因でないとすれば…反論的弁証
 もしも、排尿障害が非細菌性慢性前立腺炎の原因でないと仮定しましょう。非細菌性慢性前立腺炎の患者さんのほとんどが20歳から40歳代のお若い方ばかりです。前立腺肥大症などの排尿障害を来たす基礎疾患はないと考えてよいでしょう。それでは、慢性前立腺炎の患者さんの中で排尿障害が証明された際には、どのような理由付けをしたら病態生理学的に証明できるのでしょうか。
 細菌性の急性前立腺炎の場合には、前立腺が腫大(大きくなる)しますから、前立腺の中心を走っている尿道が圧迫されて排尿障害の状態になります。丁度、前立腺肥大症のような状態になる訳です。ところが慢性前立腺炎は軽微な慢性の炎症ですから、前立腺は腫大しません。腫大しなければ尿道は圧迫されません。圧迫されなければ排尿障害にはならない筈です。
 もしも、非細菌性慢性前立腺炎で排尿に関する自律神経や運動神経が麻痺すると仮定しましょう。神経因性膀胱のように、その麻痺のために排尿障害になるんだと説明すると、非細菌性慢性前立腺炎のような軽微な炎症で神経組織が障害を受けて麻痺するのは病理学的に無理があります。軽い逆流性食道炎の患者さんが食事がのどを通らないようなものです。慢性の上気道炎の患者さんが呼吸できなくなるようなものです。軽い痔病の患者さんが排便できなくなるようなものです。非細菌性慢性前立腺炎だけに排尿障害が起きるのは、まるで「超常現象」としか思えません。


満足なオシッコをするための条件
満足できるオシッコをするための条件を挙げてみましょう。

1.膀胱が一回に十分な尿量(300~500ml)をためることができる。(十分な膀胱容量)
2.膀胱が一定時間内(30秒)に尿を排泄する力がある。(健全な膀胱排尿筋)
3.膀胱頚部が排尿時に瞬時に十分開く。(膀胱頚部の柔軟性と健全な内尿道括約筋)
4.前立腺が排尿時に十分開く。
5.外尿道括約筋が排尿時に十分開く。
6.尿道平滑筋が排尿時に十分開き、排尿終了時に閉じて尿を残らずに尿道から追い出す。

以上の条件の一つでも支障が出ると、全ての条件に負担を掛けるので満足なオシッコは出来なくなります。排尿は一見単純な行為ですが、実は非常にデリケートな条件の上に成り立っているのです。
前立腺の軽微な炎症のみに固執し囚われていると、非細菌性慢性前立腺炎の本質や全貌が見えてこなくなるのが納得いただけたでしょうか?


膀胱頚部緊張症候群の提唱
 慢性前立腺炎の症状だから短絡的に「慢性前立腺炎」と診断したところに、この病気、非細菌性慢性前立腺炎の本質を見誤ったのでしょう。医師も患者さんも「炎症」という呪縛からいつまで経っても抜けられず、長期に渡って抗生剤を投与し病気を複雑にしていたのです。
 例えば、前立腺肥大症の患者さんが慢性前立腺炎を併発し症状で苦しんでおられれば、医師も患者さんもすぐに前立腺肥大症を治療しようと考えるでしょう。決して、慢性前立腺炎だけの治療を固執することはないでしょう。なぜなら慢性前立腺炎の原因が前立腺肥大症だからです。
 ところが、非細菌性慢性前立腺炎の根本原因が排尿障害であるにもかかわらず、排尿障害の検査も証明もせずにひたすら炎症の治療に終始しているのが現状です。これではこの病気は治りません。私は「非細菌性慢性前立腺炎」あるいは「慢性前立腺炎類似症候群」を「膀胱頚部緊張症候群」として提唱したいと思います。そうすれば安易に「慢性前立腺炎」と診断せずに、その根本原因を探ろうと医師も必死になるでしょう。


ジェット流と乱流
膀胱頚部を十分に開放せずに排尿すると、膀胱頚部(膀胱出口)から前立腺~尿道球部(尿道括約筋を越えた直角に曲がっている部分)にかけて、尿のジェット流・乱流が生じます。
尿のジェット流・乱流は、前立腺を含めた後部尿道に物理的負担(正確には水力学的負担)をかけます。その結果、後部尿道に炎症性ポリープや血管増生などの後部尿道炎を作ることになります。

最近、美浜原発事故で蒸気噴出事故がありました。原子炉で熱せられた一次熱交換水から受けたエネルギーを二次熱交換水が蒸気になり、蒸気タービンを動かし発電機を回転させる仕組みです。この二次熱交換水の冷却後(150℃以上)の配水管が破損した事故です。事故を起こした配水管は、その手前が水流調節のために狭くなっており、ジェット流・乱流ができます。ジェット流が直接当たる配管金属の厚みが、本来の10mmが1.4mmまでに薄くなっており(86%の減肉現象)、それが今回の破裂事故になったと推測されています。
人間の膀胱頚部で生じるジェット流・乱流とは規模が全くことなりますが、後部尿道に発生する水力学的負担を無視することができないことが容易に想像できるでしょう。

東京新聞2004年8月11日記事 rapture040811.jpg

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慢性前立腺炎の誤解

【誤解の背景】
 慢性前立腺炎のうち、細菌性慢性前立腺炎は10%で、その他の90%は非細菌性慢性前立腺炎であることはかなり知られた事実です。アメリカや日本の文献でも広く認められるところです。
 しかし、非細菌性慢性前立腺炎が90%も占めていることが分かっているにもかかわらず、治療と言えば抗生剤を漫然と何ヶ月も長期間患者さんに処方する細菌性慢性前立腺炎の治療が主流です。そして前立腺マッサージによる前立腺液の白血球が消失した時点で病気が治ったとし、症状が取れないのは神経質あるいは心因性と医師が診断するワンパターンの経過をとります。
 患者さんにとっては初診時も白血球が消失した時点も症状が変化していないにもかかわらず、医師は何の疑問も持たずにそのような説明をします。また抗生剤の途中からセルニルトン、漢方薬などに切り替え体質改善などと夢物語を患者さんに説明するのがほとんどだと思います。

さて、誤解には次の5つの誤解が原因となっています。
●原因による誤解
●炎症定義の誤認による誤解
●症状による誤解
●検査による誤解
●医師の勉強不足による誤解
●治療による誤解
これから、その一つ一つを検証して行きましょう。

【原因による誤解】
 ドクターショッピングされる多くの慢性前立腺炎の患者さんを診て気付いたことですが、それまで患者さんが受けた検査と言えば尿検査・前立腺マッサージによる前立腺液検査くらいです。丁寧に検査する医療機関でも造影剤を使った排泄性尿路撮影・超音波検査で終わりです。これら検査は細菌が原因の急性・慢性前立腺炎の時に行う検査に他なりません。
 もしも目の前の患者さんが前立腺炎と同じ症状をもつ「違う」病気であれば、その検査は見当はずれの検査になります。症状が同じだからと言って病気が同じとは限らないのです。疑う病気によって検査は異なります。例えば咳を訴えていらした患者さんの肺炎を疑えば痰の細菌培養検査を行って細菌を同定して抗生剤治療を行いますし、肺癌を疑えば痰の病理細胞診断を行わないと発見できません。同じ咳症状でも行う検査は異なります。
 こんな疑問を持ったので、慢性前立腺炎の患者さんに今までとは違うアプローチの検査をしようと、全ての患者さんにウロフロメトリー(尿流測定検査、オシッコの勢いを判定する検査)、直後の超音波による残尿測定、自然の尿道粘膜を観察したいので粘膜表面麻酔剤を使用しない(その代わり仙骨神経ブロックを使用)内視鏡検査(膀胱尿道鏡)で検査したところ、排尿障害、残尿の存在、膀胱粘膜肉柱形成、膀胱三角部炎、後部尿道炎、器質性膀胱頚部硬化症あるいは機能性膀胱頚部硬化症(排尿筋括約筋協調障害)の所見を認めました。
 慢性前立腺炎と言われる患者さんの本当の原因は排尿障害であって、炎症症状(頻尿・排尿痛・会陰部痛・射精痛・下腹部痛・しびれ)は偽りの表面上の症状と考えるようになりました。急性前立腺炎の腫脹した急性期を除いて前立腺炎には排尿障害は存在しません。排尿障害が存在したら、その病気は前立腺炎ではありません。私はこれを隠れ排尿障害と呼びます。この考えを根拠にレーザー光線・電気メスを使用した内視鏡手術を行い、現在成果を上げています。

【炎症定義の誤認による誤解】
炎症の定義についてご説明しましょう。
「身体が内的環境・外的環境から受ける化学的・物理的・生物的様々の刺激に対する病理学的生命反応を総称」して炎症といいます。例えば、
●骨折による炎症
●火傷による炎症
●硫酸などの化学薬品による炎症
●蕁麻疹などのアレルギー反応による炎症
●細菌・ウィルス感染による炎症
慢性前立腺炎で問題になる細菌やウィルス感染だけが炎症の原因ではありません。なのに慢性前立腺炎の原因をなかなか見つからない細菌に求める現実は、この炎症の定義を知らない医師の誤解によるところが多いように思えてなりません。

【症状による誤解】
 慢性前立腺炎の患者さんは、残尿感・頻尿・排尿痛などの下部尿路症状の他に、会陰部痛・大腿痛・大腿しびれ・足の痛み・足のしびれなどの多彩な症状を訴えます。このような症状を聞いた医師は、なかなか治らない患者さんの病気を「心因性」「精神的」「ストレス性」「気のせい」と誤解し、その後、患者さんを「心療内科」や「精神科」に回すことで、本来なれば泌尿器科医として真剣にこの病気の検査や治療に取り組まなければならないことを放棄したところに悲劇の発端があるのです。
 非細菌性慢性前立腺炎の多彩な症状の理由については、慢性前立腺炎の症状のページでご説明していますが、患者さんの訴えを真剣に聞こうとしない医師に誤解の元があるのです。

         脳中枢→下半身の感覚として認識
  脊髄神経 ↑↑↑
脊髄中枢(情報過多前立腺・膀胱の情報
  知覚神経  ↑
   下半身の筋肉・体表感覚

上は症状の誤解の仕組みを簡単に図示したものです。前立腺・膀胱には本来感覚はありません。自律神経を介して脊髄中枢には前立腺・膀胱の情報が集まります。何かの原因で前立腺・膀胱の情報が過多になると、脊髄中枢での情報処理の能力がパンクしてしまいます。すると、下半身の感覚を脳中枢に伝達する上向性脊髄神経が、誤って前立腺・膀胱の情報を脳中枢に伝達してしまいます。その結果、慢性前立腺炎・慢性膀胱炎の患者さんは下半身の多彩な症状を訴えるのです。

【検査による誤解】
慢性前立腺炎の検査は尿検査・前立腺マッサージ後の前立腺液検査・精液検査です。
これら検査で細菌が確定されれば細菌性慢性前立腺炎、細菌は認めず白血球が検出されれば非細菌性慢性前立腺炎、細菌も白血球も検出されなければ前立腺疼痛症候群・前立腺症・骨盤内うっ滞症候群・骨盤疼痛症候群・陰部神経症などの物々しい名称の病名が付き診断は確定します。
でもよ~く考えてみてください。おかしいとは思いませんか?これらの検査は全て前立腺を含めた下部尿路の細菌感染症を証明するための検査です。頭から細菌証明だけの検査なのです。細菌感染でない場合の病気を追求し調べる検査は行われていないのです。

また、ウェブサイトで次のような記事がありました。
More Bacteria in Controls than Patients!
A September 2003 study by some of the world's top prostatitis researchers produced the shocking finding that normal men have slightly more bacteria in their semen than men with chronic prostatitis (pelvic myoneuropathy). It also showed the traditional Stamey 4-glass test to be invalid for diagnosis of this disorder, and that inflammation cannot be localized to any particular area of the lower GU tract.
慢性前立腺炎の患者さんから採取した精液よりも健常な男性の精液の方に細菌が多く検出されたという記事です。これでは今まで行われた慢性前立腺炎患者さんの証明検査の意味が否定されたようなものです。

もしも細菌性慢性前立腺炎に酷似した症状で、感染症とは全く異なる病気である時には証明できません。他の観点から検査を調べてみたら異なる病気が見つかるかも知れないのに、ほとんどの泌尿器科医が行わないのです。そして尿検査と前立腺マッサージ後の精液検査で異常を認めなければ、例え症状があっても慢性前立腺炎という病気ではなく、「心の病気だ!」と豪語する医師もいるくらいです。こういう思い込みの著しい医師には非細菌性慢性前立腺炎になれば苦しみがよく分かると思います。

【医師の勉強不足による誤解】
症状と病名は常に1対1ではありません。
例えば、咳の患者さんを診たら常に「肺炎」と診断する医師がいたとしたら、その医師はその実力を疑われても仕方がありません。咳の出る病気には他に、気管支炎・喘息・結核・気管支拡張症・肺気腫・神経症・肺癌などがあります。上腹部を痛がる患者さんを診たら常に「胃潰瘍」と診断する医師がいたとしても同じです。上腹部の痛みの出る病気には他に、慢性胃炎・急性胃炎・十二指腸潰瘍・膵炎・胆嚢炎・虫垂炎・大腸憩室炎・アニサキス症・胃癌などがあります。
ところが多くの泌尿器科医は、尿路細菌感染のない慢性前立腺炎症状の患者さんを診ると、常に非細菌性慢性前立腺炎と診断するのです。細菌性慢性前立腺炎や非細菌性慢性前立腺炎と診断された多くの患者さんを拝見すると、それまでに簡単な尿検査と前立腺マッサージ後の前立腺液検査しか行っていません。これでは診察前から膀胱刺激症状を主体とする慢性前立腺炎症状には、細菌性慢性前立腺炎・非細菌性慢性前立腺炎と診断が決まっていると云われても仕方がありません。
賢い小学生に、この2つの検査を行って異常が出れば「細菌性慢性前立腺炎」、正常であれば「非細菌性慢性前立腺炎」と診断しなさいと教えれば、表向きはベテランの泌尿器科医と同じ診断能力になってしまいます。これほど治りの悪い患者さんが存在していて、この診断法だけでは努力不足・勉強不足と私にコケにされても当然でしょう。

【治療による誤解】
非細菌性慢性前立腺炎と診断されても、クラビット・ガチフロ・ジスロマックなどの抗生剤が効いたから細菌が原因だと思われる患者さんや医師がおられます。抗生剤の効果があれば、本当に細菌が原因なのでしょうか?
抗生剤は読んで字の如く、生物を抗する薬です。抗される生物とは細菌ばかりではありません。私たち人間も抗される生物なのです。それが極端に発現したのが副作用と呼ばれる現象です。慢性前立腺炎の過敏な症状は、生物として活発に生きている私たちの証明に他なりません。抗生剤の作用で、その活発な現象=過敏な症状が抑えられるので症状が薄らぐのです。存在しない細菌が死滅するからではないのです。

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慢性前立腺炎chronic prostatitisとは?

【概念】
原因菌を確定同定しようとしても出来ずに、それでいて細菌性慢性前立腺炎と同じような不定愁訴がある病態を非細菌性慢性前立腺炎と呼びます。
前立腺マッサージ後の精液検査で白血球を認めることから、感染症を専門にする泌尿器科医はその細菌同定をあきらめ切れずに、延々と抗生剤投与を繰り返します。そして、白血球が前立腺液中に認められなくなった時点で、患者さんの症状の有無はともかくとして「治った」と判断します。その時点で症状がある患者さんは、「精神的」「心の病気」と診断し、精神科に回されてしまうのが落ちです。

【症状】
細菌性慢性前立腺炎と類似の症状です。しかし、病歴がかなり長いので、本当に精神的に参っているのも事実です。
●頻尿
●尿意頻拍感
●残尿感
●会陰部(陰嚢と肛門の間)の疼痛
●恥骨部疼痛
●尿線の分裂・噴水状
●尿道の痛み・しびれ・痒み(先端・全体・奥など)
●大腿(太もも)の不快感(しびれ・痛み)
●足の裏の不快感(しびれ・痛み)
●腰痛
●坐骨神経痛
●背部痛
●射精時の痛み・射精後の痛み
●陰嚢の痒み
●尿漏れ感覚
●尿臭過敏
●水刺激(水の音・水に触れる)で尿意切迫
慢性前立腺炎と診断される方はまだいい方で、下半身の様々な症状のために、大した検査もしないで心因性・精神的と診断される方がかなり多くおられます。

【治療】
非細菌性と診断されても、抗生剤の無意味な投与が主流で、さらにセルニルトン・漢方薬・安定剤・抗うつ剤などが処方されています。

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細菌性前立腺炎

【概念】
非細菌性慢性前立腺炎のお話をする前に、まず細菌性慢性前立腺炎について説明しなければなりません。
細菌感染による前立腺の病的反応=炎症を細菌性前立腺炎といいます。原因菌としては、一般腸内細菌・常在菌・淋菌・クラミジア菌などが挙げられます。
細菌性前立腺炎には、病気の進行速度によって、
●細菌性急性前立腺炎
●細菌性慢性前立腺炎
に分類することができます。

●細菌性急性前立腺炎
細菌感染により前立腺は極端に腫脹し、血尿、排尿障害、頻尿、強い排尿痛などの膀胱刺激症状を伴います。高熱を出すこともあり、入院で抗生剤の点滴治療をすることがあります。
検査は尿検査・血液検査で原因菌を確定することは容易です。
極端な場合は、前立腺内に膿瘍(のうよう)という膿(うみ)の袋ができ、それが直腸と尿道の両方に破裂することがあります。すると直腸と尿道に道(瘻孔ろうこう)ができて、排尿時に尿からおならが出るという恐ろしい合併症が起きます。
治療は徹底的な抗生剤投与のみで、必ず治ります。

●細菌性慢性前立腺炎
症状は軽微なのですが、気になって仕方がない症状です。例えば、軽い頻尿、会陰部の何となく重い感じ、大腿部付け根のしびれ感、肛門の痛みなどです。とりとめのない症状(不定愁訴ふていしゅうそ)から神経性と思われることもあります。
検査は前立腺マッサージ後の前立腺液検査で細菌を確定同定します。
原因菌として、クラミジア菌が多いようです。
治療は、根本治療として抗生剤、症状に対してはセルニルトンです。抗生剤で必ず治ります。
もしも、抗生剤を長期投与し、あるいは種類を変えて治療したにもかかわらず改善しなければ非細菌性慢性前立腺炎と判断し他の治療を考えます。いつまでも抗生剤の治療を行うことは無意味です。

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前立腺炎とは?

【概念】
前立腺炎とは男性生殖器臓器である前立腺が炎症を起こす病気を総称して前立腺炎といいます。身体の内的あるいは外的刺激要素による生理的反応を全て総称して炎症と呼びます。
ここで誤解しないでいただきたいのは、内的・外的刺激要素とは、化学的・物理的・生物活性的刺激で、例えば外傷・熱傷・火傷・薬品によるやけど・ストレス・細菌感染・ウィルス感染などで、決して細菌感染だけではないということです。
ところが、患者さんを含めて、在ろうことか治療に携わる専門の医師までも炎症というと、細菌感染にしか頭が回らなくなり炎症性病気、ここでは非細菌性慢性前立腺炎を主に説明しますが、を複雑に困難にしてしまうのが現状です。

【分類】
教科書的には、Drachの分類で尿検査や前立腺液検査によって次のように前立腺炎を分けることができます。
――――――――――――――――――――――――――
                  細菌     白血球
――――――――――――――――――――――――――
急性細菌性前立腺炎      +       +
慢性細菌性前立腺炎      +       +
慢性非細菌性前立腺炎    -       +
プロスタトディニア         -       -
(前立腺痛・前立腺症)
――――――――――――――――――――――――――

【問題点】
細菌性の急性前立腺炎や慢性前立腺炎は、抗生剤で必ず治りますから問題になりません。
臨床上、問題となるのは非細菌性慢性前立腺炎とプロスタトディニア(前立腺痛・前立腺症)と呼ばれる病気です。これらの病気はなかなか治らずに、患者さんはもちろんのこと専門の医師ですら診断・治療方針に決定打がなく、その病気で苦しむ患者さんに対して、「一生治らない病気だ」とか「心の病気だ」と精神科へ紹介して逃げてしまうパターンが非常に多いのが現実です。
さて、医歯薬出版 エッセンシャル泌尿器科学(第6版)によれば、非細菌性慢性前立腺炎は「細菌性慢性前立腺炎と同じ症状でウレアプラズマ、トリコモナス、カンジダなどの病原微生物が原因と考えられる」です。もしこれが本当なら、非細菌性慢性前立腺炎は寄生虫治療剤や抗真菌剤などの治療薬で治る筈です。
この教科書の中で「非細菌性慢性前立腺炎の定義」を書いたのは泌尿器科医の中でも、特に著明な尿路感染症の専門家でしょう。尿路感染症の専門家は「細菌感染」が主体の尿路感染症を見るのが専門ですから、感染症様の病気を診る前から「細菌が原因の病気」と決め付けて病気を診ます。もし、その専門家ですら病原菌が原因でない慢性前立腺炎を目の前にした時に、「非細菌性慢性前立腺炎」なる病名を付け治療や診断がどうにもならなくなり、ブラック・ホールに落ち込むのです。

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