慢性前立腺炎の治療
慢性前立腺炎の治療には、次の手段があります。
●薬剤治療
●神経ブロック
●手術治療
薬剤治療
慢性前立腺炎の原因が器質性もしくは機能性膀胱頚部硬化症が原因と考えられますから、まず膀胱頚部が排尿時に開くように作用するαーブロッカーを処方します。
病気の期間が長いと、膀胱三角部炎・後部尿道炎を併発していて膀胱刺激症状が強く出ます。そのために、膀胱の感覚を鈍感にする頻尿改善剤・安定剤・抗うつ剤を処方します。ところがこの系統の薬剤は逆におしっこが出にくくなることがありますから、矛盾した治療をすることになります。「あちらを立てればこちらが立たず」の場面です。
神経ブロック
慢性前立腺炎の症状が強い場合、仙骨部の副交感神経が過敏になっていてコントロールできない状態です。その場合、神経興奮の回路悪循環を断つために仙骨神経ブロックを行います。排尿障害がない慢性前立腺炎の患者さんであれば、非常に効果的です。しかし、排尿障害が隠れている患者さんにとっては、一時凌ぎにしかなりません。
手術治療
●膀胱三角部レーザー光線焼灼術
膀胱三角部炎で過敏になった膀胱三角部を部分的にレーザー光線で焼灼し、膀胱三角部の過敏さを抑える手術です。膀胱三角部に膀胱の感覚が集中しているとは云え、膀胱全体にも感覚器は散らばっています。ですから、膀胱三角部だけをレーザー光線で治療しても、膀胱知覚過敏の全てが治る保証がないのが残念です。と言って、膀胱全体の粘膜をレーザー光線で治療したら、膀胱は萎縮してしまいます。そうなると本末転倒になってしまいます。治療の難しさを感じる所です。
●膀胱頚部切開術
開きが悪く排尿障害の原因となっている膀胱頚部をレーザー光線や電気メスで切開し、容易に開くように工夫します。慢性前立腺炎の患者さんはほとんどが性生活が現役ですから、逆行性射精を作らないように工夫します。工夫をする余り、手術を控えめに行うと排尿障害は治りません。またまた「あちらを立てればこちらが立たず」の場面です。
治療の難しさ
私が治療した慢性前立腺炎の患者さんは100%治っています、と言いたいところですがそんな訳はありません。治療した患者さんの内、4割の患者さんが非常に良く治り、3割の患者さんの症状が軽快しています。残り3割の患者さんの症状は変わらないか不満を訴えておられます。その理由は三つあると思います。
第1の理由
膀胱感覚の「尿意」は本来、膀胱に尿が溜まることによって起きる膀胱伸展の「痛み」です。尿が溜まるたびに膀胱が痛いのでは、生き物として尿をするのが嫌になり最後には水分を取らなくなってしまいます。すると生き物としては致命的ですから、膀胱伸展の「痛み」を脳中枢の神経回路で「尿意」に変換して意識させるのです。この「神経回路」がキーポイントです。
排尿障害が潜在化すると、排尿のたび毎に膀胱収縮による圧力が膀胱壁に直接跳ね返ってきます(作用反作用の法則)。毎日その刺激を受けていると膀胱も辛くなり少しでも楽な方向に逃げようとします。そのために少ない尿で排尿させようと膀胱システムがフル稼働します。それが膀胱の過敏になり頻繁な尿意すなわち「頻尿」や「残尿感」になるのです。
「神経回路」が長期間負荷を受け続けると誤作動を起こし始め、膀胱伸展痛が尿意に変換しなくなり、本来の「痛み」、「しびれ」や膀胱以外(尿道・会陰部・下腹部・腰・大腿など)の症状を作り上げてしまうのです。さらに経過が長くなると、この「神経回路」の誤動作は修復しにくくなります。ですから手術で排尿障害を改善しても脳中枢の「神経回路」が修復されない限り症状は改善しないのです。
治療として「神経回路」の誤動作を和らげるために精神安定剤・抗うつ剤・漢方薬が作用します。排尿障害を治療しなくてもこれらの薬がある程度効き目があるのはこの「神経回路」の存在のためです。
また、膀胱・前立腺の過敏を和らげるために頻尿改善剤・解熱鎮痛剤座薬・セルニルトン・亜鉛などのサプリメント・インターネットの掲示板で話題の青汁・アロプリノール(痛風治療薬)・低周波治療・仙骨神経ブロック・温熱治療・膀胱内薬剤注入(ヘパリン・DMSO)・膀胱三角部レーザー照射・ボツリヌス毒素の前立腺組織内注射などがあります。
第2の理由
第1の理由で頻尿が継続すると膀胱は膨らまなくなります。ちょうど病気で寝てしまった老人がしばらくすると足腰が弱くなって歩けなくなるのと似ています。いわゆる筋肉の廃用性萎縮・関節の拘縮です。膀胱が膨らむのを忘れてしまったと言ったらよいでしょうか。膀胱にとっては膨らまずに縮こまっている方が楽です。
そうすると、膀胱が硬くなり本当に膨らみません。膀胱容量の極端な低下です。例えば尿が100ml溜まると、膀胱は硬いのでそれ以上膨らまなくなります。すると膀胱内圧力はぐんぐん高くなり500ml以上溜まった時と同じ圧力になりますから強い尿意になり頻回にオシッコに行くようになるのです。この状態の膀胱は「間質性膀胱炎」と酷似しています。間質性膀胱炎は原因不明の独立した病気ですが、慢性前立腺炎や慢性膀胱炎の最終型の状態とも考えられます。なぜなら、慢性前立腺炎も慢性膀胱炎も排尿障害の病気として一般的に捉えられていませんから、末期症状の間質性膀胱炎だけが初めて顕在化したので原因不明の病気として分類されてしまうのでしょう。
治療として仙骨神経ブロックまたは硬膜外神経ブロック麻酔下で行う膀胱拡大矯正術の定期的治療があります。
第3の理由
以上の「神経回路の誤動作」「膀胱・前立腺の過敏」「膀胱容量の低下」と先日説明した「隠れ排尿障害」の4つの要素が複雑に絡み合い、非細菌性慢性前立腺炎と言われる症候群の患者さんの多様な症状に結び付いていると考えられます。
私が治療し治った4割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が高く他の要素が低かったからでしょう。症状が軽快した3割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が比較的高く他の要素も同じくらいに高いので「軽快」程度の治り方だったのでしょう。
3割の無効患者さんは出発点である「隠れ排尿障害」要素は比重が低く、他の要素に主役を奪われ、排尿障害の治療をしても症状の改善を得られなかったのだと考えます。
★無効であった3割の患者さんの内、2割5分の方はその後のいろいろな治療で症状が軽快します。そのほとんどの方が私を信頼して治療に付いてきた患者さんばかりです。結果的に95%の患者さんが軽快します。
ただし、慢性前立腺炎に対する考え方は私独自の考え方です。正しいか否かは後の世でわかるのだと思います。
★下記に治療経過が長かった患者さんからのお礼のメールを掲載(原文のまま)します。医師も根気が必要ですが、患者さんの協力なしには慢性前立腺炎の治療は成功しません。
「高橋先生へ
こんにちは、ご無沙汰しております。今年の7月29日に頚部硬化症の手術をして頂きました○○です。
その節はお世話になりました。丁度5ヶ月が経とうとしています。その間2回の再切除を試みましたが、症状が良くなりつつあり、2回ともキャンセル致しました。申し訳なく思う次第であります。
その後の経過ですが、尿の出は3ヶ月を過ぎたあたりから、若干出が改善されてまいりました。また、残尿感、排尿痛は4ヶ月を過ぎたあたりから気にならなくなりました。尿の回数(あいだの時間)も週単位で減っていくよう感じられます。まだ、排尿障害の域ではあるかもしれません。しかし自分自身現状で満足しております。会陰部の鈍痛もかなり軽減され、ピーク時の10%程度まで改善いたしました。手術前の諸症状、痛み、精神状態を思うと、現在の状態は本当に生きがいを感じ、また仕事にも集中できるようになり、日一日が楽しく感じられる今日このごろであります。手術後2ヶ月目が、かなり頻尿、残尿に苦しみました。しかし、今思うと必ずや直るとゆう意思により今日があるようにも思います。
本当に有難う御座いました。患者に対する思いやりと相手を察する誠心誠意な対応そして、経験と疾患への着眼点は世界一のドクターである、そのドクターである高橋先生にめぐり会えたのも、守護神様のお導きであると毎日感謝しております。また、定期的に診察をお願いしたく、今後とも宜しくお願い致します。
メールにて失礼致します。」
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