エコー所見で分かる、慢性前立腺炎の原因
開業医となって31年間経ちました。患者さんの総数が3万7千800人にもなります。その中で多い病気か慢性前立腺炎で約7千人程になりました。
その多くの患者さんの初診の時に、必ずエコー検査を行いました。それ程多くの患者さんをエコー検査を行うと、次第に見えて来る真実が分かりました。
エコー検査所見の見方を解説しましょう。
一般の医師は、エコー検査を見る時にエコー機械のオリジナルの画像しか確認しません。そして医師が確認するのは、前立腺の大きさだけです。つまり、前立腺肥大症が有るか無いかを確認しているだけです。そして前立腺に大きさが正常に近いと、前立腺肥大症ではないので、慢性前立腺炎と診断して、抗生剤・抗菌剤とセルニルトンを処方しているだけです。そして治らないと、気のせい治らないなんちせいの非細菌性慢性前立腺炎と診断するのです。右のイラストが正常の超音波エコー所見(側面像)です。
当然、治らないで苦しむ患者さんが、インターネットで当院を探し出し、何百何千人も来院されたのです。
ところがエコー検査所見を丁寧に観察すると、次第に見えて来るものがあるのです。前立腺結石、膀胱縦走筋の変形、見えない筈の膀胱括約筋の露出、膀胱出口のVの字変形、膀胱粘膜の硬化像、膀胱三角部の肥厚、静脈瘤、膀胱粘膜の肉柱形成などが認められたのです。これらの所見はどう考えても、長期間に渡る排尿機能障害が原因なのです。右のイラストは、慢性前立腺炎の患者さんの前立腺の特徴ある所見です。
これに興味持ったのは、過去に慢性前立腺炎と診断さ7れたタクシー運転手さんが、地元の内科医から紹介されました。その患者さんは、当時、中目黒にあった有名な泌尿器科クリニックに通院していたのですが、症状が治らないので、悩んでいました。エコー検査で小さ目の前立腺肥大症だったのです。患者さんに「前立腺肥大症の手術をすれば、治るかもしれませんね」とお答えしました。すると、患者さんからご依頼を受けて、日帰りの内視鏡手術を行いました。術後、1週間ほどで、苦しんでいた会陰部の痛みが消えて、仕事のタクシー運転手さんに復帰出来たのです。
これを機会に、『慢性前立腺炎の中には排尿機能障害が原因なんだ!』と思うようになったのです。その後、たくさんの慢性前立腺炎の患者さんが訪れることになり、排尿機能障害を中心とする治療で治る患者さんがたくさん出て来たので、自信を持ちました。
先ずは、エコー検査の方法です。エコー検査機械のスタンダードの画面では、特に異常がないと思えてしまいます。それを回避するためには、目的の画面を4倍〜16倍に拡大して観察すると、異常所見が見えて来るのです。
実例を紹介しましょう。 【症例❶】
38歳の男性で、8回の軽度の頻尿、陰部の痛み、肛門の鈍痛で来院された患者さんです。地元の泌尿器科で慢性前立腺炎と診断され、セルニルトンとエヒプロスタツトの治療を受けましたが、まったく治りません。そこで、インターネットで検索して当院に来院しました。先ずは、エコー検査の標準画像です。どうですか?直ぐに見て異常の箇所が分かりますか?…特に気が付きませんよね。一般の医師は、この標準画像を見て、「前立腺大きくないし、別に問題はありません。慢性前立腺炎ですね。」と診断するのです。
そこで、この標準画像を拡大します。この写真は標準画像の6倍です。そして、超音波の焦点位置とコントラストを調整して異常所見を明瞭にします。ご覧のように、膀胱縦走筋の変形、膀胱出口のVの字変形、膀胱括約筋の肥大が容易に認められます。
エコー検査の正面画像を見ると、さらに新たな所見が得られます。前立腺と膀胱の間に見える白い部分が、膀胱括約筋です。一般の人の場合には、この膀胱括約筋がこれほど中央にまで侵出しません。これが膀胱括約筋の肥大なのです。膀胱括約筋は、膀胱の出口を閉める作用が主な仕事です。ですから膀胱括約筋が肥大しているという事は、それだけ膀胱出口が開き難いと言うことになります。また、膀胱括約筋の中に黒い影が見えます。これは前立腺周囲の静脈が拡張=静脈瘤を意味します。排尿機能障害が長年あると、膀胱括約筋が発達・肥大して、静脈が圧迫され続き、遂には静脈瘤になるのです。これを一般の医師は、うっ血(鬱血)があると考え、「骨盤内うっ血症候群」と訳の分からない病名を診断するのです。そしてうっ血の漢方薬である桂枝茯苓丸を処方するのです。うっ血の原因を考えないで、うっ血だけの対策の漢方薬を処方するのは、あまりにも非科学的の行いです。
そこで、この患者さんの非細菌性・慢性前立腺炎の症状の原因が排尿機能障害であることが分かります。そこで、今回は治療薬として、α1ブロッカーであるタムスロシン(ハルナールのジェネリック)と隠れた頻尿の治療薬であるβ3作動薬であるべオーバを処方しました。排尿機能障害で過敏になった膀胱三角部は何十回という頻尿を作るのですが、この患者さんは1日8回ほどしか頻尿がないので、隠れた頻尿症状のエネルギーが、脊髄神経回路で別の知覚神経の中枢ルートに流してしまうので、いろいろな痛み感覚になるのです。それを回避するために、頻尿の治療薬であるβ3作動薬を処方するのです。
なかなか治らない慢性前立腺炎の患者さんで困っている泌尿器科の医師にアドバイス致します。超音波エコー検査の所見の読影の仕方を、このブログを参考に勉強なさってください。
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コメント
神経回路が排尿障害から独立してしまったらどんな治療も効かないのですか?
【回答】
その可能性はあり得るでしょう。
その人の性格に準じます。
頑固な人は脊髄神経回路も頑固です。くどい人は脊髄神経回路もくどいのです。
投稿: | 2020/07/16 18:04
高橋先生
お世話になります。
三年ほど前に膀胱頸部硬化症と診断いただき、αブロッカー、ベタニス、デパスで治療を行いました。一年程で症状は治まり、最近までは無症状でしたが、最近、思い当たる節もなく、ぶり返してしまいました。診察に伺いたいのですが、地方からの上京に躊躇っております。何年も経過しているため、お薬だけ送っていただくことは難しいでしょうか?
【回答】
病気で治るのは風邪とケガだけです。
それ以外の病気は治らないので、お薬は飲み続けなければなりません。
投稿: | 2020/07/17 22:13
高橋先生何時もお世話になっております。
こちらのブログの記事ではハルナールではなく、タムスロシンと言うジェネリックを処方された様ですが、ハルナールと比較してジェネリックでも問題有りませんか?
【回答】
ジェネリックが効く人と効かない人がいます。
取りあえず飲んで下さい。
投稿: ゴリ | 2020/07/27 07:14
「エコー所見で分かる、慢性前立腺炎の原因」を拝見しご相談しました。私も近所の泌尿器科医師から「前立腺大きくないし、別に問題はありません。慢性前立腺炎ですね。」と過去に診断されました。疲労すると腹部や陰茎付根から肛門の当たりが痛むことを長年繰り返しています。そんな時は尿もなかなか出ず頻尿になります。また腰や頸のヘルニアと痔核(特に肛門筋が常に固いと毎度診察されます)の持病があり自律神経不調による体調不良が40歳以降10年以上続いております。α1ブロッカーと隠れた頻尿の治療薬β3作動薬を服用すると改善効果があるように感じ一度受診したいと考えておりますが的外れな素人考えでしょうか?なお、私は肛門だけでなく首肩ふくらはぎ等の筋肉が緊張し痛みやつる等の自律神経不調の傾向があります。ヘルニアの先生は筋肉が緊張状態に偏る傾向があると指摘されています。膀胱の筋肉も肛門等と同じ緊張傾向になっていると慢性前立腺炎の症状になるものなのでしょうか?乱筆長
文、ご容赦下さい。
回答
慢性前立腺炎は、前立腺の大きさに関係なく、排尿機能障害が原因です。
症状は脊髄神経回路を介して、様々な症状になります。私が診た患者さんの症状は次の通りです。
❶頻尿
❷亀頭の痛み
❸会陰部痛
❹肛門の痛み
❺陰嚢・肛門のかゆみ
❻鼠蹊部痛
❼坐骨神経痛
❽手足のしびれ、震え
❾胃痛・逆流性食道炎の症状
➓舌痛症
➓❶首の痛み
➓❷幻臭症
➓❸冷え性
➓❹うつ病
➓❺多汗症
投稿: シロユキ | 2021/02/06 11:18