« 抗コリン剤の効果 | トップページ | 手術の工夫 »

オシッコがゼロの患者さんの頻尿

Rf34858m46頻尿を訴え、千葉から40代の男性患者さんが平成28年8月の初めに来院されました。症状は3月頃より発症し、膀胱炎の診断で、抗生剤と抗コリン債を処方されましたが治りません。頻尿の程度は、1時間に1回のペースです。

実は、この患者さんは、私と同じで慢性腎不全が原因で、血液透析を実施しており、尿が1滴も出ない人でした。それでも、頻尿と残尿感が出るのです。不思議でしょう? 膀胱内に尿がたまっていないので超音波エコー検査ができません。そこで患者さんに許可を得て、尿道からカテーテルを入れ、水を100ml注入し、超音波エコー検査を実施しました。膀胱と前立腺が描出され、診断のための貴重な判断材料が確保できました。

Rf34858m462すると、膀胱三角部が肥厚し、膀胱三角部の粘膜の硬化像がハッキリとしていました。この所見は、膀胱三角部の過敏さを示唆しています。つまり、過去において排尿障害が潜在していたことが予想できます。過去の既往をお聞きすると、膀胱尿管逆流症で、両側の尿管膀胱再吻合手術をされていました。そのため、両側の腎臓がダメになり、その後、慢性腎不全になった経緯がありました。

このことから、実は排尿障害が以前からあって、そのために膀胱内圧が極端に高くなり、膀胱尿管逆流症になったと推察もできます。もしかすると、過去の主治医は、形態学的な異常に目を奪われ、膀胱尿管逆流症のみを治し、膀胱内圧の上昇の原因である排尿障害に手を付けなかったために、腎臓がさらに悪くなったのかも知れません。ある意味で、医療による被害者かも知れません。

前立腺の過敏さを抑える意味でαブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフなど)を、膀胱三角部の過敏さを抑える意味でβ3作動薬(ベオーバ・ベタニス)を処方しました。1か月後患者さんが来院しました。予想通り、頻尿は改善し、2時間に1回のペースになったと大喜びです。

余談がありました。地元の薬局で処方箋を渡したら、そこの薬剤師の先生が、「おしっこが作られないのに、何故、おしっこの出やすくする薬を処方されたのですか?」と質問されたそうです。腎臓内科の主治医にも同じ質問を受けたそうです。私の説明をその患者さんは、しどろもどろにしましたが、「???」と分かってもらえなかったそうです。

薬剤師も医師も、クスリと表面的な適応病名のことしか考えないのです。クスリの薬理作用とその対応する生体反応を詳細に考えれば容易に理解できる筈です。ユリーフをはじめとするαブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフなど)は、前立腺肥大症の排尿障害のクスリですが、実は膀胱出口の膀胱括約筋や膀胱三角部の緊張と興奮を抑える薬剤です。緊張がゆるめば、おしっこが出やすくなり、興奮が収まれば頻尿が改善するのです。β3作動薬は主に膀胱三角部の興奮を鎮めて頻尿を改善するのです。クスリの作用機序の本質を考えないで、病名とクスリの保険適応で薬剤を決める悪しき慣習があるのが、治療を妨げるというエピソードです。

|

« 抗コリン剤の効果 | トップページ | 手術の工夫 »

コメント

高橋先生、ご無沙汰しております。
診察ナンバー37032のいくたです。

前回タムスロシンからシロドシンに薬を変えて1ヶ月分飲んで見ましたが、症状に改善が感じられませんでした。もっと飲み続けないと効果は出ないものでしょうか?
朝食後服用とありますが、その通りに出来ないことが結構あったので、私の飲み方が悪かったのかもしれません。その後色々あり、間が空いてしまいました。

元々以前からあったみぞおちの詰まりが、排尿困難が悪化したことで、常に息が苦しく、しゃべりづらくて困っています。体調に常に不安があります。そこで、手術も考えております。

近日中にまた伺います。そのときこのままシロドシンを飲み続けていてもいいのか、自分の症状の詳細の確認、手術の方法、種類、費用、入院費?など詳しいことを御相談したいと思います。

よろしく御願いいたします。
【回答】
少なくても3か月は服用してください。
手術は日帰り手術ですが、クリニックの傍に3日間は宿泊してください。
費用は自費になります。20万円です。
50歳を』越えれば、保険適応で7万円です。

投稿: いくた | 2019/10/14 04:07

分かりました。
先生も、大病後に体調が優れずお忙しい中、迅速な回答をいただきありがとうございます。

近日中にまた伺います。
よろしくお願いいたします。

投稿: いくた | 2019/10/16 09:47

高橋先生、私は15年程前にメールで相談させて頂き膀胱頸部硬化症と言われ鹿児島の鹿屋にある先生の同級生を紹介して頂きました。その後に手術となり症状は緩やかに無くなりほぼ全快という状況になりました。お礼が遅くなりましたが本当に有難う御座いました。無事に結婚も出来、子供にも恵まれました!

ご相談なのですが2日前ぐらいから以前の症状の様な違和感があり不安になっております。以前に通っていた鹿屋の病院を調べると病院名は変わっていない?ようですが院長先生が違っているみたいです。スイマセン、10年以上に通院してたので先生の名前が思い出せ無くて…
もう診察はされていないのでしょうか?
一度は高橋先生にも診て頂きたいのですが鹿児島なので中々行けずにいます。
【回答】
今から9年前の5月29日に、私の親友の倉内洋文先生は突然死しました。
58歳でした。
http://hinyoukika.cocolog-nifty.com/kobore/2010/06/post-0257.html
私の考え方に賛同してくれたのは彼だけで、私と同じ診察や手術を実行してくれたのです。
貴方の病気は排尿機能障害ですから、手術しても完璧に治る訳ではありません。
水分を気にしないで多く摂取すると、貴方の脊髄神経回路が努力して、症状を再び作り上げるのです。
排尿機能障害のクスリのαブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフなど)とβ3作動薬のベタニスを服用してください。

投稿: まつもと | 2019/10/17 14:03

高橋先生、倉又先生はお亡くなられてたのですね…写真を見て、あの優しい笑顔を思い出しました。倉又先生に内視鏡で悪い所を指摘してもらい手術するとなりホッとした事を思い出しました。他の病院では気のせいとか慢性前立腺炎など言われてたので…

よく高橋先生の事もお話しされていました。「あいつは凄い奴だ!」と…
倉又先生がいなくなり、とても寂しい限りです。 また、お会いしたかったです!

東京に行った際は一度、高橋先生にも診て頂ければと思っておりますので宜しくお願い致します。

投稿: まつもと | 2019/10/17 18:37

先日ご相談させて頂いた鹿児島で倉内先生に手術して頂いた、まつもとです。
質問なのですが水分を控えた方が良いとの事ですが牛乳や乳製品(飲むヨーグルト)は水分に入るのでしょうか?
また一度、高橋先生に診察して頂ければと思っております。宜しくお願い致します!
【回答】
乳製品も水分です。

投稿: まつもと | 2019/10/19 08:54

高橋先生、本日、診察して頂いた診察No.37417のまつもとです。
鹿児島から前泊して準備万端で来たつもりでしたが大雨で診察時に尿を溜めておらず失礼しました。しかし先生に診てもらいホッとしております。膀胱頸部硬化症が再発しており心が折れかけていましたが先生に今は良い薬があるからと処方して頂き前向きに治療して行きたいと思っております。先生がブログに書いてある通り改善が進まない場合は再度の手術をお願い出来ればと思っております。
倉内先生の話が出来たのも嬉しかったです。
それでは鹿児島に帰ります!

【回答】
私も倉内先生が治療した患者さんにお会いできて嬉しい限りです。
具合が良くなることを期待しています。

投稿: まつもと | 2019/10/25 15:15

高橋先生、10月、11月に診察して頂いた診察No.37417のまつ〇〇です。
現在、シロドシン、ベタニス、アボルブを処方して頂き下腹部の不快感が半分以下となり感謝しております。尿意が鈍いのと尿の勢いが弱いのが気になる状況です。
本日、相談させて頂きたいのが1週間程前から尿が濁ってきたことが気になっております。便器の底が見えず白っぽく濁っております。(白濁尿?)水分摂取を控えた影響かと思っていますが最近はずっと濁っているので気になっております。
補足として痔(便秘)で最近、病院に行きヘモナーゼ配合状、マグミット錠を飲んでます。排尿障害の薬と飲んで大丈夫でしょうか?本来ならば高橋先生に診察した頂きたいのですが遠方の為ブログで相談させて頂きました🙇‍♂️

【回答】
排尿機能障害のある患者さんは膀胱に負担がかかるので、膀胱粘膜の脱皮が早まるのです。
膀胱粘膜の再生頻度は、通常は2週間に1回です。
ところが、排尿機能障害のある人は、負担がかかるので、もっと早まり1週間に1回ほどにもなるのでしょう。
ですから、そのため膀胱粘膜が脱皮するので、尿が白濁するのです。

投稿: まつ | 2019/12/12 12:18

高橋先生、お忙しい中回答して頂き有難う御座いました。今のところ背中が痛いとか熱が出るなどは無いので安心しました。膀胱粘膜が脱皮するとは知りませんでした。出来るだけブログで質問や電話などはご迷惑をお掛けすると思い躊躇しておりましたが遠方で伺えないので相談させて頂きましたm(_ _)m
また、年が明けましたらお伺いさせて頂きます。

投稿: まつ | 2019/12/14 10:25

 ご多忙中、メールを差し上げ恐縮します。私は自己導尿患者です(2017年秋から自己導尿、5回/日、82歳男性)。
 昨年春、急性細菌性前立腺炎(白血球20,000)で1週間、横浜の病院に緊急入院しました。入院中に先生の「本当はこわい尿路障害」を熟読しました。非常に参考になりました。
 自己導尿の悩みは、感染症で尿が濁ることです。毎回、抗生剤の治療を受けています。しかし、抗生剤に頼らない濁り防止方法を模索していました(例:クランベリー・ジュースの結果=3ケ月間試行、効果不明、甘いので糖尿に不利→NGと結論)
 最近、大根の辛み成分イソチオシアネートの解毒作用・殺菌作用が有効と分かりました。普通サイズの大根を約1.5cmの輪切りして、そのまま下ろし、少量の醤油を加え2~3回/日、食事時に摂取しました。結果として濁りかけた尿が1日で透明になりました。
 15日間(自己導尿75回)、尿の色を観察しましたが、尿は透明、殺菌効果があると分かりました。大根の尻尾に辛み成分が多い、下ろして15分ほどで解毒作用・殺菌作用が無くなる、これらはInternetで得た情報です。
 先生の著書で、世間には私同様に、尿の濁りに悩む人も多いことを知りました。それらの人々を助けておられる先生、症状によっては私のケースがお役に立てればとこのメールを書いています。
 ご多忙中、お時間を頂き有り難うございました。先生のご活躍に声援をお送りします。以上、辻
【回答】
自己導尿の神経因性膀胱の患者さんを私は内視鏡手術で何人も治しています。

投稿: 辻 | 2020/07/06 18:10

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 抗コリン剤の効果 | トップページ | 手術の工夫 »