若者の尿失禁
二十歳の男性が、2週間前から寝具を濡らすほどのお漏らしをしたと、近所の開業医の医師から紹介されました。
紹介状には下着が濡れる程度と記載がありましたが、本人の訴えはもっと深刻で敷布団がビッショリだというのです。
右の写真は超音波エコー検査の所見です。
膀胱・前立腺を側面から観察している所見です。膀胱出口から前立腺部尿道にかけて開いている(赤い矢印の間)のが確認できます。前立腺部尿道が開いているのです。膀胱には100mlほどしか尿がたまっていませんから、通常であればこの部分は閉じていなければなりません。
右の写真は、二十歳の別の患者さんの超音波エコー検査の所見です。
上の写真の所見と比較して一目瞭然でしょう。前立腺部尿道が確認できません。排尿時以外は閉じているのが正常なのです。(実はこの写真にも異常所見がありますが、今回のテーマではないので説明は割愛します。)
右の写真は膀胱・前立腺を正面から観察している所見です。1番目の写真の所見と同じく前立腺部尿道(赤い矢印の間)が開いています。
1番目の写真と右の写真の緑の矢印は、拡張した静脈を示しています。排尿障害が存在すると、膀胱・前立腺周囲に排尿時に相当の負担がかかります。すると静脈が圧迫を受け静脈圧が高くなり、次第に静脈が拡張するようになります。
超音波エコー検査で膀胱・前立腺周囲に静脈が拡張した状態で確認できた場合は、「瘀血(おけつ)」や「うっ血」などと悠長なことを言っていないで、排尿障害の治療をすぐに始めなければなりません。
漢方や東洋医学が得意な医師は、「瘀血」や「うっ血」が原因で症状が出現すると誤解して、漢方薬の桂枝茯苓丸などの駆瘀血剤を処方します。しかし、瘀血やうっ血は、「原因の所見」ではなく、「結果の所見」ですから、治療が今ひとつにならざるを得ません。大雑把な診断は、治療の妨げになります。(目の前の結果=原因と誤解する医師はとても多いのです。)
治療として、この患者さんに排尿障害の治療薬であるα-ブロッカー(エブランチル)を処方したところ、薬の服用を続けている間(1ヵ月)は、尿失禁はなかったという結果になりました。しかし、薬を自己中止したら、再び尿失禁をしたので、あわてて薬の処方に来院されました。
尿失禁の患者さんにオシッコを『出しやすく』する薬を処方するのは不思議と思いませんか?この患者さんは、オシッコが出にくいので、前立腺の尿道が緊張して開きっ放しになったのです。医学用語では『奇異性尿失禁』と言います。大きな前立腺肥大症の患者さんに時々認められる所見です。『陰極まって陽となり、陽極まって陰となる』です。
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コメント
高橋先生
月曜日は診察ありがとうございました。
お話ししていました症状なのですが、ひどい時にはユリーフを夜にも飲んで大丈夫でしょうか?
【回答】
はい。
投稿: 患者です | 2017/10/04 21:00
先生、この間帝王切開の出産した物でまた質問ですが、トランサミン250mgとセフゾン100mgが処方されていて、一緒にエブランチルのんで平気でしょうか?
【回答】
はい。」
何回も質問すいません。
よろしくお願いします。
投稿: | 2017/10/05 23:16
地元の医者から排尿筋括約筋協調不全かもしれないと言われた者です
元々慢性前立腺炎でそれは完治しました
現在の症状は軽い尿の出の悪さ、残尿感です
フリバス・ユリーフ・ザルティアは試しましたが効きませんでした
この軽い排尿障害は骨盤底筋の衰えが原因の可能性はありますか?
排尿筋括約筋協調不全は正式な診断を受けたわけではなく症状から排尿筋括約筋協調不全かもしれないと言われただけです
★回答
ユリーフなどの排尿障害治療薬と同時に頻尿治療薬を服用すれば良かったのです。
協調不全であれば、ソフトウエアが問題ですから、それを治すのは難しいのです。
筋トレでは治りません。
投稿: | 2017/10/09 18:45
ありがとうございます
頻尿治療薬とはベタニス等ですか?
もうベタニスは以前試したことがあって、効果なかったです
むしろ尿の出が悪くなった気がします
排尿筋括約筋協調不全であればそうなのですね
この排尿障害が骨盤底筋の衰えが原因の可能性はありますか?
【回答】
ありません。
投稿: | 2017/10/10 00:51
ありがとうございます
そうですか・・・
でも骨盤底筋トレーニングはとりあえずやってみます
ちなみに脊髄疾患を伴わない場合の排尿筋括約筋協調不全の患者はすごく少なかったりしますか?
インターネットでも脊髄疾患を伴わない場合の排尿筋括約筋協調不全に関するページはまったくと言っていいほど出てきませんし、掲示板やブログ・質問サイト等でも脊髄疾患を伴わない場合の排尿筋括約筋協調不全の患者の方の書き込みは見たことがありません
★回答
この病名は、机上の空論の末、出来上がった病名だと私は思っています。
単純に排尿時に膀胱出口が十分に開放されないというのが本質です。
病名に振り回されるのではなく、膀胱出口を開きやすくする薬の服用か、手術の適応があります。
投稿: | 2017/10/10 16:01
高橋先生
先生の著書、愛読させて頂きました。
これまでの先生のご経験が一冊に凝縮された、素晴らしい内容でした。
早速ですが、高橋先生に膀胱頚部硬化症と診断され約10年が経ちます。
お陰様で日常生活はほとんど気にならないほど過ごせておりました。
が、しかし、
最近、今までにない症状がちょこちょこ出始めたのです。
このページに書かれてある、尿漏れです。
まさに全く同じような経験をつい最近体験しました。
初めての事でしたのでかなり動揺しました。
無意識のうちに夜間就寝時に尿漏れしてしまうようになり、慌てて先生のブログを目にして、先日書かれた記事を読んで謝らないといけないと思いました。
症状が治まった事で、自己判断でここ数年勝手に薬を飲む事をやめてしまった事です。
先生のブログを読んでハッと気がつきました。
大変申し訳ございません。
近いうちにご相談と謝罪を兼ねて診察にお伺いさせて頂きたいと思います。
これからは心を入れ替えて継続して治療を行いたいと思います。
投稿: 慢性患者 | 2019/05/19 00:30