第100回日本泌尿器科学会 報告
今回のテーマは、「前立腺結石は排尿機能障害の『ランドマーク』である」という命題を証明しようとしました。しかし、聴衆の反応は今ひとつでした。
前立腺結石=排尿機能障害が証明できれば、患者さんの自覚・無自覚に関係なく、排尿機能障害の治療で患者さんの悩みが解決できるかも知れません。
2011年1月から2012年3月までの15カ月間に、下部尿路に問題を抱えた男性411人の中で、超音波エコー検査で前立腺結石を見つけた249症例について検討しました。
超音波エコー検査で前立腺結石は容易に確認できます。
側面像と正面像から結石の状態と数を確認しました。
患者さんが訴える症状や過去の診断名は右のグラフのようです。
慢性前立腺炎が一番多く、次に前立腺癌腫瘍マーカーであるPSA値が高い方、3番目が陰嚢掻痒症です。
前立腺結石というと高齢者をイメージしがちですが、実は若い方が多いことに気づかされます。
結石の個数は、5個以上の患者さんが一番多く、60%を超えています。
前立腺が大きいと前立腺結石の出現率が高いと思われがちですが、前立腺が正常範囲内の大きさの患者さんも比較的多く存在します。
国際前立腺症状スコアIPSSをみると、排尿障害を自覚している患者さんが少ないことが分かります。
排尿検査後に残尿量の測定を行います。
残尿量は正常が0ですが、少し基準を甘くして10mL以下を異常なしとすると、大多数(67.5%)の患者さんは残尿量が多く問題です。
しかし、客観的な検査である尿流量測定検査(ウロフロメトリー)を行ってみると、最大流量率が特に悪い人(15mL以下)が多いようです。
尿流量測定検査(ウロフロメトリー)で判明する排尿曲線を調べると、患者さんの多くが前立腺肥大症型、次に膀胱頚部硬化症型です。
若い患者さんも含まれていますから、これらの排尿曲線の出現率は異常です。
以上の多くの条件を加味して、症例の中で排尿障害がない、つまり全く正常である人の確率を求めます。
とても甘~い条件設定で正常を規定しても、排尿状態が正常である確率はたったの8%です。
つまり、前立腺結石を認めた患者さんのうち、92%の人は少なくても一つ以上の排尿障害の要因があることになります。
同様の算定で、条件を変えて、それぞれの排尿機能障害の確率を求めると右のグラフになります。
下部尿路症全体では、92%ですが、慢性前立腺炎の患者さんでは96.2%、PSA高値の患者さんでも96.9%と高い確率で排尿機能障害を認めます。
このデータが意味することは、下部尿路症で慢性前立腺炎・PSA高値・陰嚢掻痒症など病気・病名こそ違え、その本質は排尿機能障害である可能性が示唆されます。
前立腺結石の成因には炎症など諸説ありますが、私は排尿障害が原因だと考えます。
膀胱出口が十分に解放されないで排尿すると、前立腺部尿道内にジェット流が発生します。ジェット流は尿道粘膜に渦流で粘膜障害を与え、そこに尿中の石灰成分が沈着し結晶化します。
結晶化した石灰は次第に大きくなります。
その存在が大きくなると、尿道の通過障害になるので、粘膜から前立腺内部に埋没し、それが前立腺結石になります。
写真は、粘膜に引きずり込まれている結石を捉えた画像です。
以上のことから、慢性前立腺炎・PSA高値、陰嚢掻痒症などの下部尿路症の患者さんには必ず超音波エコー検査を実施して下さい。
前立腺結石が認められれば、90%以上の確率で排尿機能障害が存在します。患者さんが排尿機能障害を自覚・無自覚にかかわらず、その排尿機能障害が患者さんの訴える下部尿路症の原因の可能性が高くなります。排尿機能障害の治療としてα-ブロッカーなどの積極的な治療を行えば、きっと患者さんに感謝されるでしょう。
【質問】
前立腺結石はレントゲンで確認するのですか?
【回答】
超音波エコー検査で判明します。
心の声
『初めに超音波エコー検査で確認していると言っているでしょう!』
【質問】
畜尿傷害と排出傷害とどちらが多いのですか?
【回答】
排出障害がなければ、畜尿障害は存在しません。
心の声
『排尿機能障害が存在することが重要であって、症状はどちらでもよい!また、畜尿障害と排出傷害を別の病気として考えるのがおかしい!』
【質問】
前立腺結石が認められなかった残りの200人近くの患者さんはどうしてですか?
【回答】
結石の成因で解説しているように、ジェット流を形成する排尿機能障害に結石が生じるのである。
【質問】
それはあくまでも仮説でしょう?
心の声
『そうだよ!』
心の声
『今回は前立腺結石の存在理由、排尿機能障害を解説しているのであって、それ以外のことは目的ではない。』
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コメント
第100回とは非常に歴史が長いんですね!驚きました。
【回答】
そうです。
100年ですよ!
投稿: | 2012/04/25 14:23
先生、お世話になります、「前立腺結石の成立ち」は素人患者の私にも非常にわかりやすく説明されてます、早く言えば、水道のホースの先を絞ると水の出が細くなり拡散しますね(飛び散る)またホース出口の所で渦巻くような感じですよね、画像と合わせると私にも判り易い説明で自分の症状がリアルに理解できました!それにしても恐るべしレポートの作成術!!みごとな見応えです!
投稿: けんじ | 2012/04/27 11:48
お久しぶりです。
お写真を拝見する限り眼帯はもう必要ないのですね。眼の具合はいかがですか?これだけのプレゼン作業をこなしたという事は大丈夫そうですね!!!
【回答】
左目の見え方は40%程度です。
左眼視力は0.2を切っています。
右目は1.2~1.5くらいですが・・・。
投稿: 地方患者 | 2012/04/27 16:12
先生
泌尿器科で前立腺の触診をしたら激痛でした それでも排尿障害での慢性前立腺炎を疑いますか?
【回答】
はい。
痛ければ炎症という根拠は?
目玉に指を突っ込んで痛ければ、目の炎症?
鼻の穴に指を突っ込まれて鼻が痛ければ、鼻の炎症?
投稿: | 2013/04/23 13:55
先生 ふつうの正常な男性は触診したくらいでは激痛ははしらないのでは?
【回答】
普通の男性は触診されていませんから分からないでしょう。
投稿: | 2013/04/23 20:12
先生 でも中には慢性細菌性前立腺炎の患者さんにも遭遇しませんか? ほとんど90パーセントは非細菌性だと思いますが10パーセントは細菌性ではないでしょうか?
【回答】
細菌性と診断された患者さんもα-ブロッカーで治りますから、「細菌性」というのは見せかけの病名だと考えています。
本当に「細菌性」であれば、急性前立腺炎になると私は信じています。
投稿: | 2013/04/24 12:43
高橋先生いつもお世話になります。
31356です。
先生の学会での発表の主たる目的は「独自の理論で有るからこそ公表する」と理解してます。(違ってたらすみません)
しかし、私達患者の立場からすると、高橋先生の理論(治療方針)が普遍的に普及してほしい、そして更にそれぞれの医師が研究し治療効果を更に高め、地方にも波及して欲しい、と考えます。
せめて先生の母校や卒業生の泌尿器科専門医の方々はもっと高橋先生の理論に耳を傾けて治療を実施して欲しい、と思います。
勿論一つの理論が絶対である、と言う事はなく他の理論も存在して構わないし、科学者(医師)の経験と理論で治療に当たれば良いだけです。
患者は医師を選択すれば良いだけです。
勝手な言い分ですが医師は限りなく公人に近い、と考えます、たとえ民間の病院でも。
だからこそ、高橋先生の理論にもっと夢中になる医師や機関が出てきて欲しいのです。
素人(医療機関にいない我々)にはなぜ???って思いがつのります。
投稿: 博 | 2014/07/19 13:34
お世話になります、31356です。
先生、昨日「医師は限りになく公人に近い」と申し上げたのは、国家資格を与えられたエリートの方々は正義感を持って治療の腕を常に高める意識が必要ではないのか、との意味です。
誤解を招いているようでしたら訂正しておきます。
決して全ての患者に公平に接する義務がある、等といった、公平性を求める意味ではありません。
はっきり言えば、言うことを聞かない患者さんは切り捨てていくべきだとと思います。
先生を信頼している我々にはその方がありがたいと感じることも有ります。
投稿: 博 | 2014/07/20 17:52
前立腺内に結石が多いとほとんどの人が排尿障害になるということが理解できました。
【回答】
誤解です。
排尿障害の人に結石が出来るのです。
結石が出来たから排尿障害になるのではありません。」
私も体全体のエコー検査を年一度実施してきましたがいつも前立腺に結石が多いと指摘されてきました。その時は自分が排尿障害という自覚がなかったのでそのままやりすごしていました。慢性前立腺炎になり先生のブログを拝見させていただくともっと早くに先生に相談すべきだったと後悔しています。
ところでできてしまった結石を取り出すという方法はないのでしょうか?又、取り出せば病状は改善するのでしょうか?
【回答】
結石は排尿障害の結果であって、慢性前立腺炎の症状も排尿障害の結果です。
ですから結石を除去しても症状は改善しません。
排尿障害の治療で症状は改善し、場合によっては前立腺結石も自然排出や吸収されます。
投稿: | 2014/07/31 06:38