椎間板ヘルニアと排尿障害
掲示板に下記のような掲載があったので、ここで私の考えを述べさせていただきます。
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757 :お釈迦に説教:2009/06/04(木) 07:30:59 ID:P+jNoLgl0
椎間板ヘルニアの手術目的に入院し,手術前に当科を受診した31例に問診による排尿異常と尿流動態検査を施行した.
椎間板ヘルニアの脊椎レベルは,頚胸椎(C4-T10)14例,胸腰椎移行部(T11-L2)2例,腰椎(L2-S1)15例であった.
術前排尿症状は,閉塞症状11例(36%),刺激症状5例(16%)両症状5例(16%),無症状10例(32%)であった.
尿流動態検査では23例(74%)に異常が認められた.そのうち尿流率の低下は14例中6例(43%)に,30ml以上の残尿は31例中9例(29%)に,膀胱内圧曲線および外尿道括約筋筋電図異常が16例(52%)にみられた.
排尿機能異常は,肛門周囲知覚の低下と相関した.手術後の排尿機能は,22例に評価可能で,改善14例(64%),不変1例(4%),悪化2例(9%),術前後とも異常なし5例(23%)であった.
従って,手術治療を必要とする脊椎椎間板ヘルニアは神経因性膀胱を高率に合併し,肛門周囲知覚検査は,排尿障害の存在を予測する上で簡単でしかも有用な検査法であると考えられた.
また整形外科的手術による排尿障害の改善度は高く,悪化は少ないと考えられた.
この辺にもヒントがありそうな。。。T先生どうでしょうか
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椎間板ヘルニアに排尿障害が合併することはよく知られた概念です。椎間板ヘルニアの神経根圧迫が自律神経に障害を与え、その結果、神経因性膀胱となり排尿障害として症状が出現するという概念です。ただ私も漠然とした知識があるだけで、具体的にどの程度の症状がどの程度の頻度で発生するかは知りませんでした。
また、神経根による障害は、知覚神経や運動神経のみと一般的には考えられていますから、自律神経にまで障害が出現するには、椎間板ヘルニアの末期だと思っていました。
【ネッター解剖学アトラス南江堂より 脊髄神経と神経根】
なぜなら、神経根は輪切りにすると断面の神経配列は、表面から知覚神経・運動神経・自律神経の順に年輪構造です。体表(知覚)・筋肉(運動)・内臓(自律)の順です。発生学的観点から考えれば、外胚葉(体表)・中胚葉(筋肉)・内胚葉(内臓)の順になります。椎間板ヘルニアの症状は、ヘルニアの物理的な神経圧迫が1次的な原因ではなく、神経圧迫による神経表面の循環不全が炎症を誘発し、その結果、プロスタグランジンなどの痛み物質が神経を刺激するので症状が発言するのです。ですから、表面から徐々に深部まで障害が侵攻するので、知覚・運送・自律神経と進むものと考えていました。
しかし、臨床現場では、運動神経麻痺が来る前に、つまり痛み症状だけの時でも手術適応にはなるでしょうから、神経の年輪構造という私の考えも怪しいものです。あとで分かることですが、この年輪構造は脊椎骨から距離を出てからのようです。なぜなら、神経根は前根と後根に分かれていて、それぞれに含まれる神経線維が異なるのです。その結果、再び疑問が生じることになります。
【ネッター解剖学アトラス南江堂より 椎間板ヘルニアと圧迫されている神経根】
また、通常、椎間板ヘルニアは片側のみの神経根が障害を受けるので、左右の自律神経のうち、片側のみの障害でも、排尿障害をきたすことになります。
椎間板ヘルニアを調べて行くうちに、不思議なことが分かりました。
上の図の中でヘルニアによって圧迫されているのは、近い方から順に前根、後根です。前根には運動神経と自律神経が含まれています。後根には知覚神経と自律神経の求心線維が含まれています。
ヘルニアの圧迫を直接受けているのが前根ですから、ヘルニアの病理学的原因が単純な機械的圧迫だとすれば、一番障害を受けるには運動神経の筈です。しかし、その症状(痛み・しびれ)の頻度からすれば、現実には後根の知覚神経が障害を受ける頻度が高くなります。
その理由をイラストを用いて考えてみました。イラストの赤い丸がヘルニアです。白いカーブが脊椎の骨です。ヘルニアと脊椎骨にはさまれているのが、前根(運動神経)と後根(感覚神経)です。椎間板ヘルニアからの直接の圧力(ピンクの矢印)は、受ける神経の面積から考えて、前根の運動神経の方が単位積当たりの圧力は、後根よりも高くなります。ところが知覚神経が含まれる後根は、ヘルニアの圧力と脊椎骨の反作用の圧力によりはさまれることになり、逆に単位面積当たりの圧力が増すことになります。また、前根も後根も長さは同じ長さなのですが、イラストでデフォルメしたように、後根の長さが引き延ばされてしまいます。おそらく神経は圧迫刺激よりも伸展刺激のほうが障害を多く受けるのでしょう。
今回のこのデータでは詳しく読むことはできませんが、腰椎15例以外の頸椎14例、胸腰椎移行部2例にも排尿障害があたのでしょう。それが事実だとすれば、排尿中枢である腰椎・仙骨脊髄神経以外の高位の脊髄神経が障害されても排尿障害が出現することになります。これから推理できることは、排尿中枢は腰椎・仙骨に限定された膠着したものではなく、脊髄の広範囲にわたって多焦点的に存在するか、個性と同じように人によって中枢の位置が異なるのかも知れません。
自律神経の走行を調べるうちに、自律神経の求心線維=自律神経の知覚神経(※ただし名称はない)=膀胱や前立腺などの内臓の情報を伝達する神経は、排尿中枢の仙骨や腰椎脊髄に入るのではなく、すべて12椎の胸椎脊髄に入ることが分かりました。そのため胸椎椎間板ヘルニアで後根(自律神経の知覚神経)が障害されれば、排尿障害が生じても不思議ではないのです。名称の付いている交感神経や副交感神経よりも、名称の付いていない自律神経の求心線維の方に、実は重要な問題が隠されていることになります。
※運動神経に相当する自律神経には交感神経と副交感神経という名称が与えられていますが、知覚神経に相当する自律神経には名称はありません。また、具体的な走行が専門書にも明確な記載がありません。この辺の所をいい加減にして臨床医学は進んでいるようです。
データ提供ありがとうございました。今後の参考にします。
ニュースソース開示もありがとうございます。私は、アカデミックに自分の意見を述べているつもりになっていますが、まめに文献検索をしていないのがバレバレです。実際の仕事(臨床現場)と自分の考えをまとめるのが精一杯で、どうしても「井の中の蛙」状態です。私がエビデンスだ!という気概でやっているので、実際のところ文献検索がおろそかになっています。
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コメント
鼠径ヘルニア手術後に慢性前立腺炎はあるでしょうか?
【回答】
手術とは無関係です。
問題なのは脊椎麻酔です。
ヘルニア手術で全身麻酔で行っている場合は問題ありません。
しかし、脊椎麻酔で行っている場合には、排尿障害をきたすことがあります。その結果、慢性前立腺炎症状になることがあります。
投稿: daichi | 2009/06/29 13:09
なるほど!
ありがとうございます
すみませんもう1つ
2年前に前立腺膿瘍
抗生剤で治癒
が
頻尿+切迫性尿失禁が残る
直腸指診は全く圧痛なし
これはα1ブロッカー+抗コリン剤
でしょうか?
それから
今β3作用剤が開発中ですよね?
期待できるでしょうか
(゚∀゚)
抗コリン剤よりは副作用の点でいいのでは…?
【回答】
臨床治験の感触では、β3はご婦人には効き目があるような感触がありました。男性の場合には「?」という感じでした。
投稿: daichi | 2009/06/29 19:03
ありがとうございます
β3作用剤は女性の間質性膀胱炎に有効(かも)ということですね
すみません
疼痛についてはβ3は無関係でしょうか?
薬の開発って思いがけない副産物があると聞きますが
β3作用剤が間質性膀胱炎の患者さんの激痛にも効果があればいいのですが…
【回答】
どのような症状にもOKでしょう。
投稿: daichi | 2009/07/01 00:46