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「若い男性の尿失禁」 2D画像の解析#17 その後の治療

Bns20168m25200901192慢性前立腺炎と誤診され、昼夜を問わず尿漏れで来院された青年のその後の治療経過をご報告しましょう。
来院された時点で、膀胱の壁は凸凹の肉柱形成の状態です。尿が漏れるのに明らかな排尿障害の証拠といえます。

Bns20168m2520090119この写真から下は、膀胱出口があるであろう膀胱と前立腺を側面から観察した写真です。
正常な人の所見ではないので、理解をするのが難しい写真です。

Bns20168m2520090119pp上の写真にコメントを付けました。
一般的な健常な男性であれば、前立腺・膀胱出口・膀胱を明確に確認できますが、この患者さんはとても分かりにくくなっています。

Bns20168m2520090312この患者さんにα‐ブロッカーを2カ月間服用していただいた後の写真です。

Bns20168m2520090312pp2カ月前の写真と比べても、ほとんど変化はなく、解剖学的に不明瞭です。

Bns20168m2520090316尿失禁が改善しないので、内視鏡手術をすることになりました。
しかし、検査の器械すら挿入できないくらいに、前立腺部尿道が全体にわたって硬く狭窄しており、手術を2回試み、結果2回断念しました。

Bns20168m2520090316pp次の手術操作ができるように、膀胱留置カテーテルを挿入して、徐々にカテーテルサイズを太くしました。
カテーテルの位置から、膀胱出口の位置がなんとか確認できます。

Bns20168m2520090514手術後3週間経過した状況です。

Bns20168m2520090514pp膀胱出口らしき凹みを確認できます。
今までの写真では前立腺と思われる確かなものは観察できませんでしたが、この写真からは前立腺と思われるもの(ふくよかな存在)が見えています。
この時点で排尿の勢いはよくなり、小さな結石が排尿中にコロコロ出てくるとのこと。よく見ると今までの写真に比べて、前立腺結石が少なくなっています。
しかし、尿失禁は変わらないとの報告です。

Bns20168m2520090611手術後6週間経過した状況です。

Bns20168m2520090611pp膀胱出口が明らかに見えてきました。
また、前立腺も肉厚になり、次第に正常な下部尿路のイメージに近づいています。
尿失禁が少なくなりましたとの報告です。手術前の尿失禁を100%とすると、今は20%~25%に量が減ったとのこと。以前でしたら、尿漏れの量が多く1日2枚の紙パンツが必要でしたが、現在は2日に1枚でもまだ余裕があるほどに減少したとのことです。
さらに喜ばしい事実を告げてくれました。「夢精」したというのです。そして久しぶりにガールフレンドとセックスをして射精ができたのです。膀胱出口と前立腺が正常に活動し始めたのです。手術前は性欲もなくセックスができないでいましたから、かなりの進歩です。
就寝してからの夜尿症も毎晩あったのが、この3日間はないとのことです。
写真を連続して観察すると分かることですが、膀胱壁の肉柱が消失しています。排尿障害が改善されている証拠です。

【補足】
この患者さんには、実はもう一つの病気との戦いがあったのです。
Bns20168kidrt20090119この写真は初診時の患者さんの右腎臓の超音波エコー検査の所見です。
腎盂腎杯が拡張していて、水腎症、閉塞性尿路障害の所見です。

Bns20168kidlt20090119左の腎臓も同じ閉塞性尿路障害の所見です。
前立腺肥大症で尿管口が圧迫されると、同じ所見を呈しますが、この患者さんは前立腺肥大症ではありません。

Bns20168kid20090507手術して1週間経過した時の腎臓の所見です。
閉塞所見は初診時よりも若干の改善はしていますが、まだまだです。
内視鏡手術中に判明したのですが、膀胱三角部が不明瞭で左右の尿管口を手術中に確認できませんでした。おそらく膀胱三角部が瘢痕化して尿管口をふさいでいたのでしょう。
手術で膀胱三角部を縦に正中切開しましたから、尿管口が徐々に開いてくれるのを祈るだけでした。この写真を見て心の中で『駄目だったか・・・』と嘆きました。

Bns20168kidrt20090611ところが、手術6週間経過した時の右腎臓の所見です。
閉塞所見が軽快しています。

Bns20168kidlt20090611左腎臓も軽快しています。
左右の尿管口が十分に開いているのを物語っています。
膀胱三角部の切開が功を奏したのか、尿管口は開いたのです。これで腎不全は回避できたと判断してよいでしょう。

【総括】
この患者さんは20歳の時に尿の出が悪く、地元の開業医から近くの国立大学病院泌尿器科を紹介されました。大学病院では何を思ったのか、前立腺針生検を実施したのです。おそらく慢性前立腺炎を疑ったのでしょう。その結果は、患者さん本人にも家族にも知らされず、その後の治療もなく、そのまま放置されました。
24歳の時に、夜間尿失禁(いわゆる、おねしょ)が出現し、平成20年8月私立医科大学病院を受診し、「慢性前立腺炎」の診断で、セルニルトン・トフラニールを処方されました。しかし、尿失禁は日を追うごとにひどくなり、昼夜を問わずに尿失禁を認めるようになり、高橋クリニックを受診したのです。

以上の経過をまとめると、真実は次のようのになるでしょう。
1.機能性膀胱頚部硬化症で排尿障害が出現する。
2.慢性前立腺炎と誤診され、前立腺針生検を受ける。
3.前立腺針生検のために前立腺を含め周囲が、針生検という傷による外傷性炎症をきたす。誤解されがちな細菌性炎症ではない。
4.その炎症で周囲組織と癒着し前立腺全体が硬くなり、究極の膀胱頚部硬化症になる。正確には前立腺部尿道狭窄・硬化症ともいえる。
5.膀胱・前立腺の解剖学的位置がズレ、尿道括約筋が閉まらなくなり、昼夜の尿失禁となる。
6.膀胱三角部も硬化したために、尿管口は開きにくくなり、閉塞性の腎機能障害になった。このまま放置すれば、腎不全と診断され、透析へ移行したであろう。

初めの時に正確に診断していれば、ここまでひどくはならなかったでしょう。この調子であれば、何とか日常生活が健常者と同じように送れます。私の手で病気進行の軌道修正ができたとすれば、ラッキーです。、

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コメント

 この患者様の現在の経過はいかがですか?
【回答】
手術後から経過は良く、セックスも普通にできるようになり、また尿失禁は皆無です。
年に1回程度の頻度で、元気な顔を見せてくれています。

投稿: 地方患者 | 2011/12/14 12:20

 そうですか、本当に良かったですね。記事から相当病状が進んでいるように読めたので、良くなって安心しました。

 若くして厳しい状況に陥ってしまいましたが、回復されたとのことで他人のことでありながら安心しました。

投稿: 地方患者 | 2011/12/14 13:04

 この方は現在もアルファブロッカーやべタニスは現在まで服用していますか?
【回答】
この患者さんは今現在治療していません。
年に1回経過報告のため、顔を見せに来院する程度です。」

 症状と経過を見ると相当重いようですが、術後2年半経っても再硬化も無く、症状の再発も無いようですので、このブログに取り上げられている症状の重い患者さんで複数回手術をしたり、1回の手術では症状が取りきれない患者さんと比べると、症状が相当重い割には術後がうまくいっているなと思いました。これは結局人それぞれという事ですか?
【回答】
患者さんが100人いれば、治療経過は100通りです。

投稿: 地方患者 | 2012/01/30 09:00

私は男性72歳です。さる8月1日某病院で前立腺肥大切除手術を行いまいした。手術は担当医ではない面識のない医師により、手術前担当医からは手術は1時間ちょっとで終わると聞かされていました。手術は約2時間半を要し、無事終了とのことで手術室を出ましたが、暫くして、出血が止まらないとので、再手術を行いました。このときも2時間もかかりました。8月6日排尿パイプをとる。とたんに尿漏れあり垂れ流しの状態。尿パットを当てた。ひん尿状態であったが8月8日尿道がふさがれた状態となり、排尿できなくなり、排尿パイプを再挿入す。翌日よりパイプと尿道の間より膿が出始める。8月13日、血尿が出ないこと状態となり、排尿パイプを外し、8月14日退院その後常に尿意なく排尿が今日まで続いております。
担当医によれば、出血を止めるため、血管を(右側)焼いたのでそれが原因と言っていますが、1回目の手術の際誤って膀胱括約筋まで傷つけ、それが原因とおもわれます。もしそうなら、膀胱括約筋の再生は可能でしょうか?ご意見をよろしくお願い致します。
【回答】
一般的な前立腺肥大症の内視鏡手術では、膀胱括約筋と前立腺を同時に削ります。
私も削ります。
膀胱括約筋は削っても尿失禁の原因にはなりません。
問題なのは、尿道括約筋がダメージを受けたために、尿失禁をする場合です。
前立腺を丁寧に限りなくぎりぎりまで削ると、尿道括約筋を切ってはいないのですが、電気メスの余分な電流が尿道括約筋に流れ、一時的に尿道括約筋が麻痺することがあります。
貴方の場合、この状態が続いているのでしょう。
時間が経過すれば(月単位で)改善するでしょう。

投稿: 久田 | 2012/09/18 14:27

凄い!
本当に凄い!
31356です。

一人の若者の人生を変えてしまう程の知見と医師としての使命感、頭が下がります。

彼にとってその時高橋先生と出会えたこと、そして治療した事、これも運命だったのでしょうか?

私の子供の同級生(15歳)に人工透析の子供がいます。その子はいい医師に巡り会えなかったのか、、、、、等と邪推してしまいます。
【回答】
この患者さんは年に1回は顔を出してくれます。
日常生活に全く問題はありませんが、感謝の気持ちなのでしょう。
彼の仕事は農業なので、自分で作った作物を持参し喜んで頂いています。

投稿: 博 | 2014/07/14 11:56

この患者さんは地元の泌尿器科に行きそして地元の大学病院に行かれていた、と書かれています。

我々患者の立場で言うと大学病院はすなわち最高の最先端の治療、と考えます。
一開業医の高橋先生はエコー画像をみて原因から今に至る症状や所見を読むことが出来ています。
そして、何をすればいいのか判断し処置します。
決して開業医の先生を下に見ているのではなく、大学病院と比較すれば医療機器費や研究に関わる費用、複数の医師の頭脳が集結しているのではないかと思うのですが。
日本の大学病院とはそんなもんなんですか?信じたくありませんが。
泌尿器科に限らずこのような事が過去も今も将来も起きるのでしょう。正直恐ろしいです。
【回答】
泌尿器科医は超音波エコー検査を私ほど読むことが出来ません。
なぜなら、私も大学病院に在籍していたころは、超音波エコー検査はほとんど価値がないものと思っていました。
しかし、大学を辞め、救急病院に救急医として転職してから超音波エコー検査の指導を受け覚醒したのです。
泌尿器科領域に関して言えば、超音波エコー検査専門医にも決して負けない自信を持っています。
でも、それは私の経歴の結果で偶然です。」

かく言う私も、高橋先生がブログを開設し情報を発信していること、私自身がパソコンに精通している事、この条件が揃わなければ高橋先生のことは知らずに人生を終えたでしょう。

先生は「開業医こぼれ話」のブログの中で外科医の旬は過ぎているが内科医としてならまだまだ行ける、というような事を書かれています。
内科医としてじゃなく、教鞭を取る、という選択肢は無いのですか?
【回答】
生きていくためには難しいのが現状です。」

若いこれからの泌尿器科医を育てる、と言う方向は無いのですか?
【回答】
私の持っている知識以前の膨大な基本的知識を習得するのが若い医師の務めです。
常識的なことが出来なければ一人前の医師にはなれません。
一人前の医師になってから私のノウハウを習得すれば良いのですが、その頃には確固たるプライドが完成され、一開業医に教えを乞うとは微塵も思わないでしょう。」

是非そうして欲しいのですが、もちろんオファーがなければその道も無いのかもしれませんが。
【回答】
はい。」

この若者のような例は恐らく巷にあふれているのではないですか?
【回答】
ブログに書けないような患者さんは他にも存在します。」

助けてあげて欲しいと思います。

投稿: | 2014/11/30 16:41

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