透析の原因は・・・
60歳の男性が過去の包茎手術の傷痕が気になり、遠く四国から修正手術に来院されました。
実はこの患者さんは50歳の頃から腎不全で週に2回~3回血液透析するようになりました。19歳のころに急性腎盂腎炎にかかかり、その後、幾度か具合が悪くなり、遂には慢性腎炎、腎不全、血液透析になったのです。
ここで疑問が出てきました。患者さんは19歳の急性腎盂腎炎が慢性腎炎の原因で、それが元で腎不全になり、現在の透析をしなければならない体になったと信じています。
しかし、急性腎盂腎炎と慢性腎炎は直接関係はありません。経過を詳細にお聞きすると、主治医の内科医は、血液検査と尿検査だけで慢性腎炎、腎不全と判断しており、腎生検を実施していないのです。つまり組織学的に慢性腎炎と診断しないまま、血液透析に入らせたのです。
今回の来院した目的とは違いますが、真実を探るために超音波検査を無料で行いました。
【膀胱・前立腺の超音波検査】
腎不全で透析している患者さんですから、膀胱内に尿がたまっていません。尿がたまっていないと画像を読むのは難しくなります。
【左腎臓の超音波検査】
腎臓は萎縮していますが、腎杯が拡張しています。閉塞性の尿路障害を示唆しています。尿管の拡張所見はありませんから、おそらく膀胱尿管逆流症による腎杯の拡張でしょう。現在でも尿は少し出ているそうですから、その際にそのわずかな尿が今でも逆流するので、腎杯が拡張しているのです。
【右腎臓の超音波検査】
左腎臓と同じく、腎杯が拡張しています。やはり閉塞性の尿路障害を示唆しています。
腎臓の所見を観察した上で、膀胱・前立腺の超音波検査を見直したのが、右の写真です。
顕著にわかることは、6時の位置の膀胱括約筋が前立腺に向かってお辞儀している形態をとっています。つまり膀胱頚部硬化症の所見です。12時の位置の膀胱括約筋も肥厚しています。
結果、この患者さんは、膀胱頚部硬化症がもともとあって、膀胱尿管逆流症のために左右の腎臓が物理的に水圧で障害され、その結果腎機能の低下になり慢性腎炎と誤診され、透析に移行していった可能性が高くなります。
透析を始める前の50歳のころは、夜間に2回も排尿のために起きていたそうです。頻尿系の慢性前立腺炎症状としてとらえることもできます。
透析に移行する前に、腎生検を行うか、造影剤レントゲン検査を行えば腎臓を救えたはずです。主治医が無知なのか、それとも透析患者さんを増やそうとして目をつぶっていたのかわかりませんが、この患者さんは被害者です。私の邪推であればいいのですが・・・。
ここまで腎臓が萎縮したのでは、たとえ膀胱頚部硬化症の内視鏡手術を行っても、もう元に戻すことは困難でしょう。このまま一生透析生活を受け入れていただかなくてはなりません。
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