「若い男性の尿失禁」 2D画像の解析#17
25歳の男性患者さんです。
平成20年1月より夜間の尿失禁を認めました。地元の大学病院を受診し、「慢性前立腺炎」と診断されました。セルニルトン・トフラニールの処方を受け、服用を続けました。
しかし、夜間だけではなく、昼間も尿意切迫が強くなり尿失禁するようになりました。ここまでは、過活動膀胱(ウェットタイプ)です。対策として下着との間にタオルを入れている状態です。最近になり、血尿を認め、どうしようもなくなり、発症から1年後、平成21年1月に高橋クリニックを受診しました。
膀胱の2D側面像です。残念ながら前立腺は不鮮明です。
過去に(平成18年)、今回と同じように尿意切迫感と切迫性尿失禁、射精後の尿の出の悪さが原因で「慢性前立腺炎」の診断され、セルニルトン・α-ブロッカー・漢方薬の処方を受けています。
膀胱の2D正面像です。
尿流量測定ウロフロメトリー検査では、前立腺肥大症で苦しむ高齢者の排尿のようです。
排尿量26mlで残尿量184mlです。ほとんど出ていません。
膀胱壁に肉柱を容易に判別できます。
まるでポリープがたくさん集まったようです。
前立腺や膀胱出口は不鮮明ですが、前立腺結石を認めます。【前立腺結石=排尿障害】ですね。
膀胱を正面から捉えた画像からは、肉柱のほかに右下部尿管の拡張(水尿管)を認めます。膀胱に尿が500ml以上たまっていると、尿管口が圧迫され尿管内の尿が渋滞して尿管が拡張することはあります。しかし、200ml程度では、尿管は拡張しませんから、慢性的な膀胱内圧の上昇か膀胱尿管逆流症を疑います。
3D画像では、膀胱の肉柱形成が一目瞭然です。憩室と思われる所見もあります。
内視鏡的に前立腺肥大症などの排尿障害で認められる肉柱形成は、その程度を1期~3期に分類できます。
1期は、膀胱粘膜の所々に肉柱が認められる。
2期は、膀胱粘膜に満遍なく肉柱を認める。
3期は、肉柱に囲まれて「憩室」という凹みが形成される。
この患者さんは25歳ながら、肉柱形成に関しては、3期です。
最終的には、この患者さんは内視鏡手術をするしか治療方法はないと考えます。α-ブロッカーなどの保存的な治療も試みに行い、改善しなければ手術も止むを得ないでしょう。
正常に近い膀胱の3D画像と比較すると、上記の画像の異常さがお分かりいただけるでしょう。
今回の患者さんを「神経因性膀胱」と診断する医師もいます。膀胱の力がないので排尿できないと考える訳です。ところがよく考えてみると、このような状況、つまり【膀胱の駆出力】と【膀胱出口の開閉能力】の2つの要因があって、膀胱の駆出力だけが悪者にされ、「神経因性膀胱」という「治せない病気だからあきらめろ」とする医師が存在するのです。そして一生自己導尿を強いるバカな泌尿器科医が存在します。
膀胱の開閉は、膀胱括約筋・前立腺・尿道括約筋の三つの合同作業で行なわれます。膀胱括約筋と前立腺の開閉は自律神経に依存していて、自分の意志ではどうすることもできません。ところが尿道括約筋は骨格筋ですから自分の意志で開閉することができます。
神経因性膀胱は自分の意志ではコントロールできない排尿障害ですから、その原因は膀胱括約筋と前立腺の二つしか考えられません。前立腺の開閉の力はわずかですから、神経因性膀胱の膀膀胱出口の開閉の主原因は膀胱括約筋のみにしぼられます。膀胱括約筋は内視鏡手術で開放することができます。もしも膀胱の駆出力がない場合の神経因性膀胱であっても、膀胱出口を開放できれば排尿障害は治ります、なぜなら膀胱は内臓の一番下の臓器ですから、全ての内臓の重さを一身に受けています。また腹筋により膀胱に圧力をかけることができます。そしてさらに膀胱出口が開放できれば、膀胱内の尿の自重(重力)で尿は落下できます。
つまり、神経因性膀胱は【膀胱駆出力の低下】でも【膀胱出口の開放不全】でも、膀胱出口を内視鏡手術で開放できれば、治ることになります。「神経因性膀胱」という神秘な言葉に泌尿器科医は惑わされてはいけないのです。
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コメント
これくらいの残尿がある場合は即導尿ではないのですか??
【回答】
何故、即導尿にならなければならないのですか?
投稿: | 2012/10/31 16:05
100ml以上の残尿は膀胱や腎臓に負担がでるので導尿すべきとの記載を他サイトで見たからです。
【回答】
厳密には正しくありません。
力を掛けて排尿したにもかかわらず100mlも残ったということは、膀胱全体にそれだけ圧力がかかったということです。
残尿が多いから悪いのではなく、膀胱が頑張ったが、その結果が残尿だということです。
残尿量と、膀胱や腎臓にかかる負担が正比例する訳ではありません。』
息み時間が長いけれど尿勢はある程度ある人、息み時間は短いが尿勢が無い人だと、病態に違いありますか??
【回答】
前者は、膀胱出口が開くまで時間がかかるが、開いたら十分に開いているということです。
後者は、すぐに膀胱出口が開くけれど、開いても十分に開いていないということです。
神経と平滑筋の相対的な関係の違いで、排尿障害であることに違いはありません。
投稿: | 2012/10/31 16:36
ご回答ありがとうございます。どちらも症状が強いと一般的には神経因性膀胱と言われるもので薬剤で根本的に治せるものではないのですよね?
【回答】
はい。
投稿: | 2012/10/31 18:18