若い人の排尿障害

常識的に若い人には排尿障害がないと思われています。
そのため、膀胱頚部硬化症による排尿障害で、慢性前立腺炎症状が発症した時には、医師からは見捨てられ（その内治るでしょう・・・）、家族からはあきらめられ（気のせいだ・・・）、排尿障害が原因でうつ状態になり四面楚歌になるのです。

今回ご紹介するのは17歳の高校生です。
中学2年生のころから、会陰部痛が出現、膀胱炎の診断を受けていました。その後、地元の大きな病院の泌尿器科で「慢性前立腺炎」の診断を受け、クラビット・セルニルトンの処方を受けましたが改善しません。
地元の大学病院ペインクリニックで3回ブロック注射を受けましたが、やはり改善しません。

インターネットで高橋クリニックを知り、平成20年4月に当院を受診しました。

頻尿はなく（1日5回～6回）、症状は会陰部痛のみです。検査でわずかな排尿障害と３Ｄ画像で膀胱頚部硬化症を認めました。
水分制限、エブランチル、デパスを処方しましたが、症状は変わらず、高校も休みがちになりました。
父親から、これ以上見ていられないということで、内視鏡手術による後遺症も納得した上で手術への決断をしました。

右の写真は、膀胱出口を3Ｄ画像で観察したものです。
パッと見た瞬間、イルカが斜めに口を開いて笑っているように見えます。膀胱出口の３Ｄ画像で、人の表情や動物の表情に見えた場合は、ほとんどが膀胱頚部硬化症です。なぜ表情として見えるのかといえば、膀胱出口周囲が立体的に凹凸しているからです。下の正常に近い膀胱出口と比較して下さい。
この写真は、56歳の私の膀胱出口の３Ｄ画像です。
全くの正常の所見ではありませんが、表情には見えません。なぜなら、膀胱出口周囲の膀胱平滑筋・膀胱括約筋が平坦で、その中心に膀胱出口がポッカリと口を開けている構図だからです。

イルカ顔の３Ｄ画像を解説しましょう。
赤い矢印が膀胱平滑筋過形成です。緑の矢印はうっ血した静脈です。

上の写真の逆方向（前立腺側）から観察した膀胱出口の所見です。
イルカの上のクチバシの部分が12時と2時の赤い矢印です。下のクチバシが6時の赤い矢印です。12時と22時の部分が不鮮明であることからすると、この部分は膀胱側が主体と考えます。
6時の部分が上の画像でもこの画像でも、同じように鮮明に描写されているので、下の部分の膀胱平滑筋過形成は前後に距離が長いと考えます。
9時の位置は、上の画像では不明瞭でしたから、この膀胱平滑筋過形成は前立腺側が主体と判断できます。

３Ｄ画像の側面像です。
赤い矢印が膀胱平滑筋過形成、青い矢印が膀胱括約筋、うっ血した静脈が緑の矢印です。
これで膀胱出口周囲の立体的な位置関係が理解できたでしょう。

私の膀胱出口周囲の３Ｄ画像の側面像です。
私の膀胱出口は私の判断基準からすれば残念ながら健常ではありません。なぜかと言えば、赤い矢印の部分が膀胱平滑筋過形成なのです。しかし私に慢性前立腺炎症状がないのは、現在、排尿障害がないからです。青の矢印は膀胱括約筋の上と下を示しています。膀胱括約筋のそれぞれの先端部分が、上の18歳の患者さんと比較して狭いです。上の患者さんの側面像では、出口の上にも膀胱平滑筋過形成が凸出ており、膀胱括約筋の両端が離れています。この離れた部分に前立腺組織が陥入するので排尿障害になるのです。

手術前の内視鏡所見です。
３Ｄの膀胱平滑筋過形成などの異常所見は、内視鏡検査では認められないことが多いのです。異常があれば内視鏡検査で診断できると思われていますが、実は過大評価にしか過ぎないことが、この患者さんでも分かります。

手術直後の所見です。
３Ｄ画像で示した赤い矢印の部分（膀胱平滑筋過形成）を処置しました。膀胱出口が全体的に広く柔軟になったことが分かりますか？
膀胱出口の12時・2時・6時・9時位置の膀胱平滑筋過形成部をＴＵＲis－Vを行ないました。すると患者さんの訴えの会陰部痛（肛門寄り）が誘発されました。特に6時と9時の痛みが強く感じました。また、膀胱三角部を切開するとやはり会陰部痛（ペニス寄り）が誘発されました。トリガーポイント手術が成立しました。

【補足】
手術手順をもう少し具体的に解説しましょう。
まず、膀胱出口6時の位置の膀胱平滑筋を処置します。

以前に解説したように、組織を蒸散・気化させます。
ご覧のように、6時の位置だけの処置で、膀胱出口全体の緊張がゆるみました。
この時に会陰部の肛門寄りに関連痛が強く誘発されました。

次に、12時の位置を処置します。

2時の位置を処置します。

9時の位置を処置します。
6時と同じく、会陰部の肛門寄りに強い関連痛が誘発されました。

最後に、膀胱三角部の中心線を縦に切開します。
この時に、会陰部の陰茎寄りに強い関連痛が誘発されました。

手術前の膀胱出口です。手前に見えるのが精液が吹き出る精丘です。

手術直後の膀胱出口です。
緊張がゆるみ、全体的に柔かくなりました。
膀胱平滑筋過形成の部分のみを処置するだけで、ご覧のようにゆるむのです。いかに過形成部分が膀胱出口に緊張を与えてきたかが分かります。手術としては必要最小限度の手術で最大の効果が得られます。