脊椎麻酔の後遺症 専門家のご意見
宮崎在住の麻酔科医師です
脊椎麻酔による前立腺炎の可能性を興味深く読みました。
日本では、神経毒性が強いために他国では使用していない塩酸ジブカイン製剤が使用されていることをご存知かと思います。
2001年に世界的に安全性が確認されている脊麻用塩酸ブピバカインが日本でも発売されて使えるようになりましたので、それいらいジブカインの使用量は激減したとおもわれますが、それでもまだ発売中止にはなっていません。
わたしは個人的に局所麻酔薬の神経毒性もしくは膜破壊作用を研究してきた麻酔科医ですが、しらべた結果ジブカインは現在日本でつかわれている局所麻酔薬のなかでおそらく最強の膜破壊作用を持っていました。3年前の学会発表のときに過去10年くらいさかのぼって調べたのですが、毎年1-2例は脊椎麻酔による馬尾症候群が日本でも報告されていおり、原因薬剤はペルカミンエスかネオペルカミンエスでした。どちらも塩酸ジブカインが主成分です。ブピバカインによる症例もありましたが、2000年の論文でしたので、おそらくバイアル入のマーカインを使用したものとおもわれます。ただし、脊麻用の塩酸ブピバカインでも一過性の神経障害の報告がないわけではないのですが、ジブカインにくらべてはるかに安全と信じられています。
神経障害だけでなく、最近思うのですが、従来脊椎麻酔は喘息の患者には禁忌としてきたのですが、あれはジブカインを使っていたからぜんそく発作を誘発していたのではないか?と最近思うようになりました。ひょっとするとブピバカインでは喘息患者での脊椎麻酔は問題がないのではないかと疑っています。
脊椎麻酔が喘息発作を誘発するということが理論的に説明しにくいこと(○○○○先生による)、外国の文献で喘息患者での脊椎麻酔の是非をどう考えているのかを調べても、ほとんど文献がないからです。
日本でもジブカインによる神経障害の報告は確かに数が少なく、論文もめったにかかれず、おそらく発生頻度は非常に少ないので問題にならないとされているのかもしれませんが、ブピバカインというより安全な薬があるのに危険な薬がいつまでも使われつづけるのは問題だと思います。報告例では必ずこれと同じ言葉で結語がむすばれているのに、結局自分が痛いめにあわなければその結論にいたらないというのが麻酔科医においても現状のようです。
脊椎麻酔による神経障害の一つとして、先生がご指摘のように前立腺炎の発症にも関係するとしたら別の観点からジブカイン製剤の使用を控えようというアピールができるのではないかと思いました。もちろんブピバカインの脊椎麻酔でも同様に前立腺炎を誘発する可能性もあるのでしょうが。
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【補 足】
非細菌性慢性前立腺炎の患者さんの中に、脊椎麻酔で行なった手術歴の患者さんが多く感じたので統計を取ってみました。
慢性前立腺炎の患者さんには、経腹的超音波エコー検査を実施するので、必ずお腹を見ます。その際に虫垂炎手術の傷跡を見ることが多く、脊椎麻酔の後遺症=排尿障害=慢性前立腺炎症状を思いつきました。実際に患者さんに写真を撮らせていただきブログに掲載しました。
今回、陰嚢掻痒症の統計でも、脊椎麻酔の病歴のある患者さんが34%(3人に1人以上の確率)でした。
なお、ジブカインは脊椎麻酔で今でも一般的に使用されている商品名ペルカルミン・ペルカルミンエス・ネオペルカルミンSです。
ブピバカインは商品名マーカインで、私も仙骨神経ブロック・硬膜外神経ブロックの際に頻繁に使用しています。
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