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「間質性膀胱炎」と誤解された膀胱頚部硬化症の男性

関西から来院された47歳男性です。
寝るまで1日25回の頻尿とその後10回夜間頻尿です。陰嚢掻痒症で皮膚科でも治療を受けています。症状は10年前から続き、地元の大きな病院の泌尿器科で膀胱鏡検査を行った所、「間質性膀胱炎」と診断されました。治療しても頻尿が治らないので当院を受診しました。

Icbns22397m479echo超音波エコー検査で膀胱出口が膀胱内に突出しています。膀胱頚部硬化症の所見です。

Icbns22397m478flow尿流量測定ウロフロメトリー検査では、ご覧のように勢いの全くない典型的な排尿障害の排尿曲線です。
Icbns22397m4773d3D画像で尿道から観察すると、ご覧のように膀胱出口の斜め前後にシコリらしき平滑筋の過形成を認めます。
膀胱出口は開く所ですから、筋肉が強化されれば緩みにくく、当然開きません。

Icbns22397m476α-ブロッカーで治療を行ないましたが、治療効果がほとんど得られず、患者さんのとても強い希望で内視鏡手術になりました。
右の写真は、手術前の内視鏡検査の所見です。
膀胱鏡検査で膀胱粘膜に「点状出血」を認めます。以前の病院でこの所見をもって「間質性膀胱炎」と診断したのです。「点状出血=間質性膀胱炎」とワンパターンの認識をしていると、この患者さんのように治療方針を間違えることになります。間質性膀胱炎は二次的症状あるいは病気だと常に考えていると誤らないでしょう。

Icbns22397m47手前のふくらみは精丘(精液が噴出する場所)です。その向うに「ブタの鼻」のような形状が観察できます。膀胱頚部硬化症の代表的な所見「柵形成 Bar in the sky」です。

Icbns22397m472さらに近づいて観察すると、膀胱出口が確認できます。
上部には炎症性のポリープを観察できます。粘膜の所々に黄色の粒が確認できます。これは石灰の粒です。

Icbns22397m473さらに近づくと膀胱出口の詳細が確認できます。
出口の輪と手前の輪の二重構造です。

Icbns22397m4773d_23D画像と比較すると興味深いです。
内視鏡での奥の輪は、膀胱粘膜の輪です。手前の輪が3D画像で判別できる平滑筋過形成が作る輪でしょう。

Icbns22397m4773d2上の3D画像を側面から観察したのが右の3D画像です。
写真の中の下向きの矢印で示す平滑筋過形成と左下の膀胱括約筋との間の部分が、膀胱頚部硬化症で観察される「柵形成」の部分です。
また、画面の中で二つ見える膀胱括約筋の断端が、互いに正面で向かい合っていません。正常であるならば必ず向かい合う体勢になります。この患者さんの場合、詳細に観察すると、左下の膀胱括約筋の延長線上に前立腺があります。ところが正常の場合、左下の膀胱括約筋の延長線上には右上の膀胱括約筋がなければなりません。左下の膀胱括約筋が前立腺側に迷入していることが排尿障害を作り柵形成の原因にもなるのでしょう。

Icbns22397m474手術用ループ型電気メスと大きさを比較すると、膀胱出口の大きさが実感できるでしょう。
電極のループ(半円)の直径は5mmで針金の太さが0.35mmです。すると膀胱出口の直径が2mm以下であることが判断できます。

Icbns22397m475手術直後の所見です。
手術は日帰り手術です。11時30分に来院、再度手術の意志を確認、12時に麻酔、13時30分に膀胱鏡検査、14時に手術開始、14時40分に手術終了です。
手術時間は正味30分です。膀胱出口の6時・12時・2時の切除、6時・12時・2時・10時・4時・8時の切開、膀胱三角部の切開を行い手術終了です。2時と10時の切開で頻尿の原因である強い尿意を誘発でき、トリガーポイント手術としても成立しました。切除した膀胱出口の組織は0.9グラムです。
術前の所見と比較して、随分と開くようになりました。膀胱出口の面積が20倍以上になりました。左右のふくらみは前立腺のふくらみです。患者さんが独身で射精を希望したので、逆向性射精にならないように前立腺はほとんど残しました。

【補足】
私の治療は泌尿器科医の常識的な治療法ではありません。
慢性前立腺炎・間質性膀胱炎の根本原因が長年にわたる排尿障害で、その排尿障害が下部尿路(膀胱・前立腺・尿道)を刺激し、その刺激により患部が過敏になり症状を形成すると、私は考えています。私の考えを支持する文献的根拠EBMはありません。私が根拠の発信源となっているだけです。私の治療を受ける方は、そのことを十分にご理解下さい。

私の診察と治療の流れを簡単に説明します。
診察・検査で排尿障害を認めた方のみ、私の治療の対象者になります。まず排尿障害を軽快させるために排尿障害治療薬であるα-ブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフ・フリバス・アビショットなど)を処方します。過敏さを落ち着かせるためにα-ブロッカーとデパスを処方します。それでも治療効果が十分に得られない時に、患者さんの強い希望で、ご覧のような内視鏡手術を実施しています。
ですから、患者さんが内視鏡手術を受けるかどうか迷っておられる時には、医師の私の方から内視鏡手術を積極的にお勧めることはありません。

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コメント

本文と関係ないですが、失礼いたします。
高橋先生!!排尿障害が治るとガスがよくでます。
炭酸飲料を最近、飲んでいるせいかもしれませんが、とにかくよくガスが出ます。未病の段階の時、この病気が発病する以前は炭酸飲料など(冷たい飲み物)を飲むと、すぐさま下痢になってしまうか、頻尿になっていました。不思議だなぁーと思いコメントさせて頂きました。失礼致します

投稿: 患者 | 2008/10/31 03:23

先生こんにちは。
本文中に手術時間が記されていましたので質問です。
麻酔を12時に行ない、麻酔が効いてから膀胱鏡検査(もしくは手術)まで時間がありますが、その間にお手洗いに行きたくなった場合は自分で歩いて行けるのでしょうか?
よろしくお願いします。

【高橋クリニックからの回答】
麻酔をして10分くらいで膀胱や前立腺に麻酔がかかりますから、尿意はなくなります。

投稿: 山井 | 2008/11/03 12:02

先生ということは尿道に手術器具を入れても また手術中も一切痛くないんでしょうか?
【回答】
器具を入れたくらいで痛みがあるのであれば、手術はできないでしょう。

投稿: | 2012/10/31 20:32

先生、お世話になっています。
お忙しい中またの質問で恐縮ですが、上記のような切開手術後、血の塊で尿閉塞がおきることもあると書かれていますがどれくらいの割合でしょうか。
【回答】
3%前後でしょう。

投稿: まさ | 2013/03/16 23:02

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