慢性前立腺炎と誤診された・・・「尿管瘤Ureterocele」
患者さんは28歳の大阪の男性です。
彼の悩みは、会陰部痛と排尿中に突如として尿が止まってしまう(尿線途絶)というものです。地元の市立病院で半年前から「慢性前立腺炎」の診断を受け、クラビットを服用していますが改善しません。
会陰部痛は症状に波がありますが、尿線途絶はいつも同じです。
半年も変化がないので、遠路はるばる大阪から高橋クリニックを訪問しました。
超音波エコー検査を行なうと、右のような丸い物体が2つ観察できます。大きい方は直径2cm以上です。さて何だと思いますか?
会陰部痛があるから慢性前立腺炎?それとも尿線途絶があるので膀胱頚部硬化症?
3D画像で観察すると、右の写真のようです。
両側の尿管瘤です。尿管口(尿管の出口)が何らかの原因で狭くなり、そのため尿管口の後の組織(管)が風船のように膨らんだ状態をいいます。
尿管と膀胱三角部はもともと同じ組織から発生しています。ですから、尿管瘤の刺激は膀胱三角部の刺激と同じで関連痛を形成します。つまり会陰部痛は、この尿管瘤の伸展刺激なのでしょう。
Netterが描いたCIBAコレクションに、右のような尿管瘤のイラストが描かれています。
この患者さんと同じイメージのイラストが描かれています。
尿流量測定ウロフロメトリー検査を行なうと、排尿の立ち上がりは急峻で勢いがとても良いのですが、その後、急激に弱くなっています。患者さんが訴える「尿線途絶」を排尿曲線が表現しています。
さて、本日(2008年9月12日)、患者さんの強い希望で内視鏡手術になりました。
右の写真は手術前の膀胱鏡検査のものです。3D画像で観察されたように尿管瘤が2つ確認できました。
この尿管瘤の風船は、目の前で膨らんだりしぼんだりしています。患者さんと二人で見入ってしまいました。
患者さんに息んでいただくと、大きな尿管瘤が膀胱出口を塞ぎます。排尿中に突然止まるのは、この大きな尿管瘤のためだったのです。(ある程度、予想していました)
風船(尿管瘤)の後の膀胱壁を観察したのが右の写真です。
無数の肉柱が網の目のように交差しています。排尿障害が強い前立腺肥大症の高齢者に良く見られる所見です。年齢に関係なく28歳の若者でも排尿障害があれば、このような状態になるのです。
また、血管も増えています。このまま膀胱を膨らませると、細い血管は破れて点状出血が起こり始め、五月雨出血を見ます。いわゆる間質性膀胱炎の診断基準の根拠になる所見です。この五月雨出血や点状出血は排尿障害が強い患者さんの手術中に時々観察される現象ですが、これを排尿障害がないとされている間質性膀胱炎の診断基準にしているのが不思議です。私から言わせていただければ、五月雨出血=排尿障害だからです。おそらく間質性膀胱炎をメインの仕事としている医師は、内視鏡手術を頻繁に行なった経験をお持ちでないのでしょう。
電気メスを利用して、それぞれの尿管瘤を部分切除しました。
大きい風船は4分の1に小さい風船は2分の1になり、尿管からの尿の流出を妨げなくなりました。
これで全ての症状が消失されるのを祈るばかりです。
この手術で心配なのが膀胱尿管逆流症です。つまり尿管口が広くなり過ぎて、排尿時の膀胱内圧上昇の時に膀胱の尿が尿管を伝って腎臓に逆流するという現象です。
写真は大きな風船の開いた口から底を覗き込んだ所見です。矢印で示す部分が本当の尿管口です。
正常に近い尿管口に見えるので、手術後遺症としての膀胱尿管逆流症は心配ないでしょう。
手術後4日目の超音波2D画像です。
手術直後の所見をイメージ通りに表現しています。
手術後の尿流量測定ウロフロメトリー検査です。
手術前に比べ、明らかに改善しています。尿の勢いにためらいがありません。
結果、予想通り尿管瘤の風船が排尿を邪魔していたことが分かりました。
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コメント
尿管瘤というと別の病気だと思うのですが、治療はどのようになさるのか気になります。
【高橋クリニックからの回答】
来週、本人の希望で手術予定です。
結果は、後日報告しましょう。
投稿: | 2008/09/01 23:23
手術の様子、結果に大きな興味があります。是非、いつものような画像付きの詳細説明を期待しております。
投稿: | 2008/09/04 23:03
泌尿器科が受け持つ
病気の範囲の広さを感じました。
患者さんは若いので早く良くなればよいですね。
先生の3D機器は威力を発揮しますね。操る先生もすごいです。
投稿: 患者YS | 2008/09/14 01:56