慢性前立腺炎の症状#12「謎の慢性胃炎・慢性胃痛症」 トリガー・ポイント手術例
平成18年5月に来院した47歳の男性患者さんです。
平成11年頃から会陰部痛と左睾丸痛・腰痛があり、慢性前立腺炎の診断で、長らくセルニルトンを服用しながら経過を見ていた方です。18年の4月頃から、痛みが次第に強くなり改善しないために、その年の5月に高橋クリニックを初めて受診しました。
尿流量測定ウロフロメトリー検査では、ご覧のように、スパイク状の排尿曲線を示し、腹圧性の排尿曲線です。
2D画像では、前立腺が膀胱内に突出した形状で、前立腺内に石灰を認めました。
排尿障害による慢性前立腺炎症状と判断し、ハルナールを処方しました。1ヵ月後、痛み症状は半分以下になり、治療は有効で、3ヵ月後の症状は、0%~20%で患者さんも満足して通院を続けていました。
初診から2年近く経過した今年の3月に、慢性胃炎症状で苦しんでいるというのです。常にムカムカしていて、食後、特に食べ過ぎたり冷たいものを飲むと胃が痛むのだそうです。ゲップが気になるといいます。
内科で胃カメラなどの様々な検査を行いましたが、原因不明とのことで患者さんは悶々としていたのです。
慢性前立腺炎との関係を問われましたが、もちろん確証(エビデンス)はありませんが、関連痛の理論により可能性はあると説明しました。その話の1週間後、内視鏡手術を強く希望され、平成20年6月13日(金)、つい先日実施しました。
3D画像は、去年の9月の時点で検査した所見です。膀胱内から観察した膀胱出口ですが、12時・3時・6時の位置に硬化像が容易に観察できます。
現在、私はトリガー・ポイント手術を行なっています。関連痛を誘発可能な程度の麻酔レベルで手術を実施します。患者さんの協力が必要な手術です。
さて、この患者さんの膀胱出口硬化像の12時と6時の切除の際には、なんと腰背部痛が誘発されました。胃が痛くなる患者さんに背部痛があるのは有名ですから、少し胃に近づいた?と思いながら、膀胱出口硬化像の3時の位置を切開すると・・・なんと!何と!「胃痛」が誘発されたのです!下部尿路を内視鏡手術して「胃痛」が誘発されたのです。「胃痛」で苦しんでいる患者さんの内視鏡手術で「胃痛」が誘発されるのは偶然ではないでしょう。手術中患者さんと一緒に大喜びです。膀胱出口に胃痛のスイッチ=トリガー・ポイントの存在を確認したのです。これがエビデンスです。
本日6月16日(月)にカテーテルを抜きました。
その直後の3D画像です。上の手術前の3D画像と比較して硬化組織が薄くなっているのが分かりますか?膀胱出口の12時の位置はまだ組織が残っているようですが、6時の位置は完全に消失しています。
喜ばしいことに、術後~現在まで患者さんの胃の痛みは完全に消失しています。この患者さんは、肩こりと首が回らないという整形外科的な症状がありましたが、その症状も消失しました。やはり関連痛だったのでしょう。
【補足】
北海道で慢性前立腺炎を書いている方のブログを久しぶりに拝見したら、胃痛で苦しんでおられました。貴方の胃痛は、膀胱出口のトリガー・ポイントの可能性もありますよ。
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コメント
関連痛に関する先生の考えがほぼ正しいとわかり患者としてはうれしい報告です。
自分が手術した際は残念ながら性器周りの不快感や違和感があったのですが誘発しませんでした。
誘発も必ず起こるわけでは無いと思いますが、そういった場合は手術中はたまたま現れなかったのか、
別の何かが原因と考えるべきなのでしょうか?
【高橋クリニックからの回答】
その人にあった麻酔レベルにするのが難しいのです。
関連痛を誘発させるためには、麻酔レベルを浅くすればよいのですが、浅過ぎると、電気メスの刺激による痛みが強くて手術ができません。また、麻酔が深過ぎると、今度は手術は痛みなく容易に出来ますが、関連痛は誘発できません。
そのさじ加減が難しく、四苦八苦しています。
あなたの場合、あなたにとっては麻酔レベルが深かったのでしょう。何か原因でも?と考える必要はありません。ご安心を。
投稿: | 2008/06/16 22:40