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基本に戻って・・・現在の慢性前立腺炎の常識

慢性前立腺炎や間質性膀胱炎に思いを馳せて、私一人でブログを書いていると、次第にマニアックになっていく自分を見つけます。
そこで、反省として基本に戻ってみましょう。
慢性前立腺炎に関した記述を手に入る一般的な書籍でピックアップしてみました。
【注】に私の考えを添えます。

【ブリタニカ国際百科事典より】
前立腺炎
前立腺の感染性炎症で、急性と慢性とに一応分けられる【注1】。急性にも軽症から重症まであるが、おもな症状は発熱と頻尿および排尿痛で、ときに尿閉になる。急性が完全に治癒しないと慢性に移行する【注2】。慢性の症状は多種多様であるが、外尿道口から薄い膿様の分泌物【注3】が出て下着に付着する。頻尿、排尿後不快感、会陰部の鈍痛、性欲減退【注4】などである。前立腺結石【注5】があるときは、多少とも前立腺炎を合併しやすい。

【注1】
この文章を書いている方は正直な人です。一般的には急性と慢性をキッチリ区別して記載するのに、「一応」とことわっているのは、区別がつかないことがあることを意味します。
【注2】
時系列で見れば、急性→慢性ですから、このような考えが出るのは不思議ではありません。しかし、慢性→急性というパターンがある場合には、慢性前立腺炎の「急性造悪」と都合のいいように判断されます。
【注3】
慢性前立腺炎の症状で説明している尿道腺分泌過多のことです。
【注4】
性欲減退ではなく正確にはEDを意味するのでしょう。私の考えのように排尿障害があると陰部神経を酷使します。陰部神経は勃起にも関与していますから、排尿障害で疲れた陰部神経が勃起させることができなくなるのです。
【注5】
排尿障害があると前立腺結石ができます。前立腺結石=排尿障害=慢性前立腺炎症状になる訳です。

【ステッドマン医学大事典より】
前立腺炎
NIHの基準で4種類【注6】の前立腺炎が認められている。Ⅰ群は急性細菌性前立腺炎、Ⅱ群は慢性細菌性前立腺炎、Ⅲ群は慢性前立腺炎/慢性骨盤内疼痛症候群、Ⅲ群はさらに炎症生(ⅢA)および非炎症性(ⅢB)に分けられる。Ⅳ群は無症候性炎症性前立腺炎【注7】。

【注6】
菌が検出されるかどうかで区別されています。しかし常在菌という存在がありますから、細菌の検出だけに特化した分類には無理があります。
【注7】
炎症が存在していても症状がない(無症候性)場合がある訳です。逆に症状があっても炎症が認められない場合がある訳です。前立腺そのものの炎症と症状との間には、細菌感染だけでは論じることのできない何かがあるのです。

【医学書院 医学大辞典より】
前立腺炎
残尿感、排尿痛、頻尿、射精痛、下腹部・会陰部・鼠径部・大腿部の疼痛や不快感などの症状を呈する一種の臨床的症候群【注8】。急性細菌性前立腺炎、慢性細菌性前立腺炎、非細菌性前立腺炎、慢性前立腺炎様症候群(前立腺痛症prostatodynia)の4つに分類され、診断は臨床症状に加えて前立腺マッサージ後尿、または前立腺圧出液中の白血球、細菌培養にて決定される。急性前立腺炎は膀胱炎や尿道炎などの尿路感染症に引き続いて起こる場合と、血行性、リンパ行性に感染する場合がある。起因菌は大腸菌などのグラム陰性桿菌類が多く、悪寒、発熱などの全身症状を伴うことが特徴である。慢性前立腺炎は急性前立腺炎からの経過で起こる場合と、初めから慢性炎症として起こる場合があり【注9】、細菌が検出される場合を細菌性、検出されない場合を非細菌性と呼び、前立腺に炎症所見を認めない場合を慢性前立腺炎様症候群と呼ぶ。症状は同じで、会陰部の不快感や排尿後の不快感などであるが、長期化して神経症的な症状を呈することがある【注10】。治療は急性症では安静と化学療法が有効であるが、慢性症では原因が多様【注11】であり、消炎剤、抗生剤、漢方薬などの投薬、前立腺マッサージ、温熱療法などが施行されれるが、寛解や再発を繰り返すこともあり、長期化することも多い。症状を誘発しやすい状況を避け、ストレスをためない【注12】などの工夫も大切である。

【注8】
これを書いている医師は、臨床現場をよく観察している人です。これら症状があっても「気のせい」と片付ける医師が多いこと。この先生のように「症候群」と捉えているのは感心します。
【注9】
同じ病気にもかかわらず、急性から移行する場合と初めから慢性である場合とがあることに疑問を感じませんか?慢性前立腺炎という病状が、まったく異なる病態が原因で同じ顔をしているのです。
【注10】
不快な症状が慢性的に繰返し起きているのに治らなければ、誰でも神経症になるでしょう。当たり前の現象です。
【注11】
「原因が多様」=「原因は有限」の事象です。一つ一つ潰して行けば、必ず原因は追究できる筈なのに、現実にはこの文章のように、「原因が多様」=「原因は無限」と認識されています。多様だから原因は追究できない=追及しなくてもよいというようなことになりかねないのが現実です。
【注12】
「ストレスをためない」使い古された言葉です。次第に「ストレス」が一人歩きして、慢性前立腺炎はストレスに弱い性格の人間がなるかの如くに認識されてしまうのです。

【カレント・メディカル 診断と治療 日経BP社より】
非細菌性前立腺炎
一般的考察
非細菌性前立腺炎は前立腺炎症候群の中で最も多くみられ、原因は不明である【注13】。クラミジア、マイコプラズマ属、ウレアプラズマ属、ならびにウィルスと推定されるが、未だ実質的な証拠はない。細菌性前立腺炎の症例の中には、非感染性炎症疾患と思われるものもある。自己免疫系が原因と仮説を立てた研究者らもいる。非細菌性前立腺炎の原因は不明であることから、診断は通常、除外診断となる。
臨床所見
A.症状と徴候
臨床像は慢性細菌性前立腺炎と同じであるが、尿路感染病歴は示されない。
B.検査所見
前立腺圧出液に白血球数の増大が認められるが、培養では陰性である。
鑑別診断(略)

治療(抜粋)
・・・抗菌薬治療を試してみることが推奨される。エリスロマイシン(250mgうを経口で1日4回)で14日間行い、・・・
予後
患者を悩ませる再発症状が一般的であるが、深刻な後遺症は認められていない。

【注13】
「原因は不明」と記述されているところが正直ですね。
前立腺炎は4つに分類されていて、読んでいる分には4つのタイプが均等(同数)に存在するかのごとく理解できます。しかし、原因不明の非細菌性前立腺炎が一番多いことに驚きませんか?

慢性前立腺炎様症候群
慢性前立腺炎様症候群は、若年層および中年層の男性が罹患する非炎症性疾患であり、排尿機能障害や骨盤底筋群の機能障害など種々の原因に由来する。前立腺は実際には正常であるため、「慢性前立腺炎様症候群」は不適切な名称である【注14】。
臨床所見
A.症状と徴候
症状は慢性前立腺炎の症状と同じであるが、尿路感染症はない。その他は、尿流の勢いが弱かったり中断したりする症状が認められる【注15】。患者は生涯にわたる排尿困難歴を有する【注16】。身体所見では異常はないが、肛門括約筋緊張が高まり、前立腺周囲に圧痛【注17】が認められることがある。
B.検査所見
尿検査は正常である。前立腺圧出液の白血球数は正常である。ウロダイナミクス(尿流動態検査【注18】)では排尿機能異常の徴候(尿道の弛緩がなく排尿筋が収縮【注19】、高尿圧、括約筋の痙攣)が呈示されることがあり、α-ブロッカーまたは抗コリン薬の使用が効を奏さない患者さんに適応とされる。
鑑別診断(表を参照)
治療
膀胱頚部および尿道口の痙攣は、α-ブロッカー(テラゾシン1日1回1~10mg経口投与、あるいはドキサゾシン1日1回1~8mg経口投与)で治療可能である。骨盤底筋群の機能障害にはジアゼパムおよびバイオフィードバック手技が奏功することがある。腰湯座浴は症状緩和に効果をもたらす。
予後
予後は特異的な原因によって異なる。

=====================================================
所見    急性細菌性 慢性細菌性 非細菌性 慢性前立腺炎様
        前立腺炎  前立腺炎  前立腺炎   症候群
-----------------------------------------------------------------------
発熱        +       -      -       -
尿検査      +      -      -       -
前立腺圧出液 禁忌      +      +       -
細菌培養     +       +       -       -
-----------------------------------------------------------------------

【注14】
私は不適切な名称とは思いません。前立腺が正常でも「慢性前立腺炎」に類似した症状なので、「慢性前立腺炎様症候群」と称する訳ですから。
【注15】
「排尿障害!」です。私が力説する「慢性前立腺炎」の根本原因が「排尿障害」です。
【注16】
「生涯にわたる排尿困難歴を有する」なんてこの医師は悠長なことを言っています。排尿困難があるのなら、なんで積極的に治療しないのでしょう?
【注17】
「前立腺周囲の圧痛」・・・「圧痛」は炎症の根拠ですよね?前立腺が正常だから「慢性前立腺炎様症候群」と診断されている訳ですから、「?」と思いませんか?
【注18】
ウロダイナミクスは、排尿に関して考えられるあらゆるファクターを指標として、排尿を評価する一連の検査法です。膀胱内圧測定、尿道内圧測定、直腸内圧測定、外尿道括約筋筋電図、尿流量測定、排尿時ビデオ撮影などです。患者さんにかなりの負担を強いるので、α-ブロッカーが効かなければ仕方がないから(適応というフレーズ)検査しましょうというスタンスです。

【補足】
いくら細かに鑑別しても、治療に結びつかないことが分かります。
本来、細菌性は急性前立腺炎だけでしょう。慢性前立腺炎はごく稀に細菌性があるのかも知れません。
慢性前立腺炎の患者さんで、初診時の検査で細菌が培養されれば、細菌性慢性前立腺炎と診断されます。しかし、抗生剤で細菌が検出されなくなれば、患者さんの症状が変化なくても治ったとされます。前立腺には「常在菌はいないのだ」という誤解がつくる診断と治療です。
細菌は培養されなくても、白血球が認められれば、非細菌性炎症性慢性前立腺炎と診断され、白血球が消失した時点で、炎症性疾患は治ったとされます。白血球は細菌性・非細菌性・外傷性・慢性刺激などいかなる場合にも出張るものです。白血球=炎症と短絡的に考えるのは非科学的です。
細菌も白血球も認められなければ、慢性前立腺炎様症候群とされます。細菌性でも炎症性でもないから「異常なし」と考える選択肢のなさに思考の狭さを感じませんか?

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コメント

千差万別な記述でも結果完治に値する内容が本当にありませんね。細菌性・非細菌性・前立腺症と体裁のいい名前だけピックアップして結果研究もされていない。これが今の慢性前立腺炎治療の現実ですね。
仮に細菌説が正論としても、医学的には抗生剤投与がほとんど効かない現実に医師は
こう呟きます。前立腺は投薬の浸透性がないためと。すべて言い訳となるのです。
かなりの人数がかかっているこの病気を何とか治して下さい。高橋医師他医師も含めて心から祈っております。研究を重ねて下さい。患者が研究費を募金の名目で集めれば、たいそうな金額になるような気がします。それで研究してくれればみんな助かりますよ。(無理な話かな)

【高橋クリニックからの回答】
今から27年前、研修医を終了してから私は外来診療を行なっていましたが、その頃から現在に至るまで、慢性前立腺炎の診断と治療の状況はほとんど変化していません。
その間、いくつもの画期的な抗生剤・抗菌剤が研究・開発・新発売され、臨床現場で使われていますが、治療成果は50歩100歩です。
私にしてみれば、慢性前立腺炎をいつになったら細菌が原因ではないと悟るのだろうと思っています。
もちろん、私の考えが正しいとは限りません。私は私なりの見方・考え方・アプローチの仕方で、この慢性前立腺炎の真実を解明しようと思っています。
バーチャルな世界の偏屈な一人の開業医ですが、見守っていて下さい。

投稿: テリー | 2008/05/23 14:35

本当に進展しませんね。前立腺肥大の手術で前立腺全摘がありますが、その際に研究用として病理検査ぐらいすればよいものを
と私なんか考えてしまいます。細菌にしろ非細菌にしろこの病気は本当に苦しい限りです。医者事態がかかわらない事が賢明と
言うなんて何か医学会事態おかしいですね。癌であればステータスか?前立腺肥大もステータスか?でも最も多い慢性前立腺炎の治療方法の確立のほうが大きなステータスと思いますけどね。でも書いている私自身も研究など難しいことはわかります。
何しろ働き盛りの男性である故に、研究をするにも無理がある事ですね。高橋医師の唱えている方法論も結果対処療法としたならば、本当の原因はどこにあるのでしょうかね?私は考えたい。そして医学界に問いかけたい。人体実験でもやらねば完治は難しいのですかね???

投稿: テリー | 2008/05/27 11:59

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