膀胱頚部のトリガー・ポイント
トリガー・ポイントという言葉をご存知ですか?
カイロプラクティックのある流派が使用していた言葉がその元になっています。身体の具合が悪い場所に関連して、まったく場所の違う部分に刺激すると痛む場所があります。その痛む場所を刺激すると、本来の具合の悪い所が軽快するというのです。その部分をトリガー・ポイント(引きガネ個所)と呼びます。整形外科の治療法に「トリガー・ポイント注射」という項目があります。痛む個所に局所麻酔剤や蒸留水を注射する方法で、保険にも認められています。本来のトリガー・ポイントとは多少意味が異なりますが・・・。
このブログを読まれている方であれば察しがつくでしょう?そうです、このトリガー・ポイント理論は、関連痛という生理学的事実の発展した理論です。身の回りにもこの現象は応用されています。胃潰瘍などで胃を痛がっている方の背中をさすると、痛みが少し和らぎます。これは胃の知覚神経と背中の皮膚・筋肉の知覚神経が脊髄レベルで連絡していて、背中をさすった刺激が知覚神経を介して胃の知覚神経を脊髄内でブロックするからです。
さて、お話は突然変わります。
慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の治療として、私は膀胱頚部の切開を行なっています。
時々手術中に麻酔深達度が浅く、手術で利用する電気メスの刺激を手術中の患者さんが感じる場合があるのです・・・私の治療を受けたいと考えている方がこのブログをお読みになっているとすれば、・・・聞くだけで手術が恐ろしいでしょう?
ところが、これが慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の痛み系症状の患者さんには、ある意味でラッキーなのです。
なぜラッキーかといえば・・・
・・・実は、オーダーメイドの治療になるからです。
「オーダーメイドの治療」とは昨今、泌尿器科学会で提唱されている概念です。ワンパターンの決まりきった治療ではなく、患者さんの年齢・体質・病気に応じた治療を行なうということです。
今まで、私も慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の患者さんに対しては、定型的な決まりきった治療や手術しかできませんでした。
しかし、症例数を4百・5百・6百と重ねるに従い、私の理論の不完全さを強く自覚するようになりました。排尿障害が根本原因であることに間違いはないのに、あと一歩のところが完遂できないもどかしさが、私の心にいつまでも残っているのです。なぜ?ナゼ?何故?
ここで、たまたま私の思いつきで購入した3D4D超音波エコー画像診断装置がその活路を見出してくれました。
まずは、3D4D画像から得られた膀胱三角部を含めた正常な解剖学的特性と病的膀胱頚部の様々な特徴です。
患者さんによって膀胱頚部の所見が様々です。慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の排尿障害がある患者さんの膀胱頚部には、様々なタイプのシコリが確認できます。
術前検査でこのシコリの位置を確認し、麻酔がたまたま浅い場合、そのシコリがある部分を刺激すると、患者さんの悩んでおられる痛みや不快感が誘発されるのです!その状況を何回か経験するうちに、この考え方を思いつき冠した。
最近では、患者さんが手術可能な程度に麻酔をコントロールし、3D4D画像を参考にしながら関連痛を誘発できるトリガー・ポイントを捜し手術を行なっています。今までのように定型的な手術を行い、しばらくしてから関連痛が消失するかどうかを待つ消極的な方法ではなく、関連痛のトリガー・ポイントを積極的に手術中に処置するという方法に変わったのです。
この方法は私のオリジナルで世界中で誰も行なっていないでしょう。一般的に手術の麻酔は完全除痛で患者さんをけっして痛がらせたらいけません。それが常識です。手術の麻酔をあえて浅くし患者さんに尋ねながらトリガー・ポイントを捜す・・・非常識であり得ないでしょう?しかし、この非常識な手術をすることが光明を見つける方法なのです。この方法は泌尿器科医としてはもちろんこと、麻酔科医としての資質も問われることになります。
手術の麻酔をすべて麻酔科医に委託している泌尿器科医には思いつきもしないでしょう。初老の55歳の泌尿器科医にしては頑張っているでしょう?・・・常に創意工夫です。いつも同じことだけを行なっていては進歩はありません。アイデア・・・ヒラメキ・・・たまには挫折・・・。今後どんな展開をするのでしょう。
いつの日か、こんな七面倒臭い手術を行なわなくても治る方法が編み出されることを期待します。
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コメント
早速ですが、先生に手術していただいた際に膀胱三角部を切開するときに
切っている感覚を感じていましたが、
>時々手術中に麻酔深達度が浅く・・
と、ここに書かれていることは自分のような患者を指しているのでしょうか?
【高橋クリニックからの回答】
はい。
また、麻酔が完璧に効いていれば、三角部切開等をしている際は何も感じないのが普通なのでしょうか?
【高橋クリニックからの回答】
はい。
投稿: | 2008/02/15 17:57
素人考え恐縮ですが、麻酔というのはたしか身長と体重で薬の量を決めるんでしたっけ?でしたら、わざと麻酔の量を減らし浅くしてみたほうがいいんではないでしょうか?
【高橋クリニックからの回答】
仙骨神経ブロックや硬膜外神経ブロックの場合、麻酔の範囲は注入する仙骨腔や硬膜外腔の空間的広さとその人の個性による腔内の組織密度に依存します。
注入量を少なくすると、まったく麻酔が効かない部分ができてしまい、手術ができません。
麻酔を薄くして注入する場合、全体的に麻酔が効かない状態になり、やはり手術ができなくなります。
また、神経支配が患者さん個々に違います。
頻尿が1日30回以上の患者さんの場合、胸椎からの神経支配が優位ですから、硬膜外神経ブロックを選択します。痛み系の患者さんの場合は仙骨からの神経支配が優位になりますから、仙骨神経ブロックを選択します。
また、麻酔薬の特性によって効きや作用時間が異なります。
キシロカインやカルボカインは効き目が早く痛みをシッカリと除去してくれますが、短時間で醒め、その上、筋弛緩作用が強いので一時的に歩行障害が出てきます。その割には術後直ぐに強い尿意が出てくるので患者さんは辛いです。
マーカインは効き目が遅く筋弛緩作用も弱いので、手術中でも足を動かすことができます。そのかわり鎮痛作用が適度で、術後の尿意も長時間にわたってありません。
投稿: 2 | 2008/02/16 00:41
その七面倒臭い手術を考え実践している先生に感銘を受けてます。ご自身の身体がもつ範囲内でぜひこれからも頑張っていただきたいです。
【高橋クリニックからの回答】
ありがとうございます。
投稿: | 2008/02/28 00:06