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排尿のメカニズム 膀胱三角部の重要性#2

膀胱三角部の重要性について、前回はその動きの詳細について解説しました。
ただ、この説明だけでは、慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の症状を説明する上では、その根拠がまだ希薄です。
今回は#2として、膀胱三角部の存在価値の本質について考察しようと思います。もちろん、私の空想的な仮説ですから、程ほどに信じて下さい。
Trgncycle前回の膀胱三角部の動きをまとめて上図のようにイラストにしました。

【膀胱三角部の横軸伸展】
蓄尿されると、膀胱の伸展と共に排尿筋(輪状筋)は横に伸展します。膀胱三角部も三角の底辺と平行に横軸方向に伸展します。この伸展刺激が脳中枢(あるいは脊髄中枢)に伝わると「尿意」になります。ここでは「尿意信号」と呼びましょう。

【膀胱三角部の縦軸伸展】
尿意信号が脳中枢に十分伝わると、尿意切迫状態になります。すると脳中枢から排尿指令が出され、排尿が開始されます。
前回で解説したように、外尿道括約筋の引張りにより、膀胱三角部は縦軸方向に牽引され、膀胱頚部は漏斗状に変形し、排尿筋(輪状筋)はドーナツ状変形して円滑に排尿されます。
この時、膀胱三角部の縦軸伸展とそれに伴う漏斗形成により「排尿信号」が脳中枢に伝達されます。

【膀胱三角部のリセット伸展】
Trigoneanatomy排尿が終わると、膀胱三角部にかかる緊張はゆるみ、膀胱三角部は本来の元の位置に戻ります。
この時、男性は前立腺が存在していて戻すのに力が必要なので、膀胱三角部の平滑筋(イラストの赤い着色部)は厚く丈夫なのです。
それに対して、女性は戻す力がそれほど必要ないので、膀胱三角部の平滑筋は薄いのです。
この膀胱三角部が戻った時に、おそらく「リセット信号」なるものが脳中枢に伝達され(私の仮説)、膀胱頚部がリセットされたと認識するのでしょう。

【信号認識の不完全が症状の根拠?】
さて、このような一連の膀胱三角部からの信号が、【尿意信号→排尿信号→リセット信号】の順で排尿サイクルの中で出力され、脳中枢・脊髄中枢がその信号をワンセットで受け取り、排尿は円滑に正常に行なわれたと認識するのです。
前回解説したように、前立腺肥大症や膀胱頚部硬化症(慢性前立腺炎・間質性膀胱炎)の患者さんの場合は、膀胱三角部が身動きが取れないくらい制限されていますから、この最後のリセット信号が出にくい?のではと容易に理解できます。排尿時の膀胱頚部の漏斗形成も不完全ですから、ひょっとすると、排尿信号も十分に出力されないかも知れません。

読んでいて、だんだん見えてきたでしょう?
要するに「蓄尿信号」だけが脳中枢に伝達され、「排尿信号」や「リセット信号」が十分に伝達されていないのです。脳中枢・脊髄中枢は「蓄尿信号」だけの「ヘビの生殺し」状態です。式で表示すると、
【蓄尿信号100-(排尿信号80+リセット信号20)=0】
であるべきなのに、
【蓄尿信号100-(排尿信号60+リセット信号10)=30余り】
という状態になるのです。この状態が毎日の排尿ごとに行なわれ、10年20年と繰返されたら、脳中枢や脊髄中枢が怒り出しても(頻尿・残尿感・関連痛などの症状の出現)、不思議ではないでしょう。

【膀胱三角部から考察した治療法】
では、これら膀胱三角部の性格を知った上で、どのように治療戦略をたてればよいのでしょう?
膀胱三角部から「排尿信号」と「リセット信号」を出力できるようにすれば良いのです。要するに、膀胱三角部にメリハリのある動きが取り戻せるようにすれば良いのだろうと思えるでしょう?
膀胱三角部を身動きできないようにしているのは、膀胱出口の開閉に悪い影響を与えている前立腺肥大症と膀胱頚部硬化症です。これら諸悪の根源を取り除くのが、まずは治療の第一目標になります。

Trigonjncisionそれでは膀胱三角部にメリハリのある動きを回復させるためには、どのようにしたらよいのでしょう?
前立腺肥大症や膀胱頚部硬化症があるのであれば、その治療を優先します。ただそれだけの治療では、膀胱三角部は本来の動きを取り戻しません。そのいい例が、前立腺肥大症の内視鏡手術を行なった患者さんのうち、25%の患者さんが症状が取れないという文献があります。理由として排尿神経の老化とされていますが、本当は膀胱三角部が原因なのだと私は考えています。
とにかく、膀胱三角部も治療しなければなりません。しかし、膀胱三角部の治療法を考えている医師はいませんから、私が参考にする術式がありません。

試行錯誤しながら、現在は次のような方法をとっています。
膀胱三角部の縦軸方向の伸展は、膀胱頚部の手術で容易に得られます。
Boo20811f373次に膀胱三角部の横軸方向の伸展と収縮は、膀胱三角部の正中切開で得られます。
Boo20811f374尿管間ヒダという膀胱三角部の丘として見える部分の正中から、膀胱頚部まで真直ぐ手前に切開すればよいだけです。粘膜と筋層を十分に切開すれば完了です。
Cp21112m31右写真は、慢性前立腺炎の患者さんの手術中のものです。
膀胱三角部の血管が増えていて赤く見えます。膀胱三角部の奥の膀胱壁が凸凹筋張っています。これは排尿障害を示唆する肉柱形成の所見です。
Cp21112m312外尿道括約筋の強い引張りによる膀胱頚部の漏斗形成のためには、膀胱頚部と尿管口を結んだ直線を交差する方向の切開が必要です。
右写真は膀胱三角部の手術直後の写真です。ほぼセンターのラインが正中切開線で、両脇の斜めのラインが漏斗形成のための切開線です。(これが難しい!電気メスの動きは前後のみです。ですから正中切開は簡単です。しかし、前後にしか操作できない電気メスを利用して、斜めに切開するのですから・・・恐い!恐い!)
左右対称に切開したいのですが、膀胱三角部が左右対称ではなく、尿管口の位置で切開線を決定しているので、非対称になってしまいます。(少し言い訳)

しかし、この治療に疑問がない訳ではありません。膀胱三角部の粘膜・筋層まで十分に切開するのに、一連の「蓄尿信号・排尿信号・リセット信号」が出力されるのか?ということです。電気メスの切開で神経や知覚センサーも壊されるわけですから、一連の信号が出力されるのかどうか?また、膀胱三角部の過敏症を破壊するために行なっている治療だと、これまでのブログに私の自論を何回も展開しているのに、「信号」に期待をしている?ことが矛盾です。破壊しているつもりが、ほとんど破壊していなかったのかも知れません。なぜなら、治療した患者さんの経過や改善から考えれば、出力されているのは確実でしょうが、未だスッキリと納得しているわけではありません。このあたりの矛盾点を解消しなければ、この治療は完成を見ないでしょう。先は長い・・・、今後の発見やアイデアに期待したいです。(自分に対しての期待ですから可笑しなものです。)

【感想】
どうでしたか?「膀胱三角部理論」おもしろかったでしょう?
この理論は、あくまでも私の空想・妄想の産物です。単純な常識を組合せ構築しただけのものです。他の泌尿器科医に聞いても、誰も知りませんし、解剖学や生理学観点から、人間の構造工学的発想をする医師は少ないでしょう。ここが臨床医師の欠点なのです。大学時代に習得した基礎知識を総動員し、臨床現場でコーディネイトすれば、解明される病気はもっと多いはずです。研究機関や大学病院の医師は、莫大な費用がかかる分子生物学・遺伝子工学などの研究には熱心ですが、私のように開業医レベルのアイデアだけの研究でも病気解明の道は開けるのです。
建物に重大な構造欠陥があって家の壁が壊れた時に、まず初めに壊れた壁の成分を細かく分析して壊れた原因をさぐるのと似ています。慢性前立腺炎であれば、前立腺そのものの炎症ばかりに注目して、その本当の原因が見えていないようなものです。
55歳の初老の男が、膀胱三角部と正面から真面目に格闘しているのです。不思議な世界に入り込んでしまったアリスのような気持ちです。

【患者さんからの感想メール】
高橋先生、大変ご無沙汰しております。
私は、平成19年11月26日に再手術をしていただいた北海道在住の○○○○(診察番号 ・・866)と申します。過日は大変お忙しい中、手術して頂き大変ありがとうございました。

再手術後約3ヶ月経過いたしました。
1度目の手術時は2ヶ月を経過した頃より再狭窄となりましたが(患者さんからのレポート35)、今回は状況にもよりますが200~250ccを13~18秒で排尿できる状況です。排尿間隔も1日6~7回程度で、夜間は殆ど行かなくてもいい状況となりました。
関連痛に関しては症状が悪化した時期はあるものの長引かず10~20%程度までに落ち着いています。約1年半前痛みに苦むだけの毎日だった状況を考えると格段に症状が改善していることが実感できます。これも私のわがままなお願いを聞いて頂き先生に2度手術して頂けたこと、適切なアドバイス、お忙しい中ブログでの症状等の説明して頂いていること、ほんとうに感謝の気持ちで一杯です。このまま再狭窄さえしなければ完治するものと思っております。今後も遠方ではありますが先生に診察いただきたく、よろしくお願い致します。(3月17日に術後の検診をお願いしたく考えております。)

さて今回メールさせていただいたのは、私の術後の症状で最近ブログに掲載された膀胱三角部についてのことで気がついたことがありましたので、先生の何かの役に立てばと思いメールさせて頂きました。
1回目の手術時の膀胱三角部は正中切開のみでしたが、2回目は尿管口の手前を切開いただいております。手術中は「前回と違う所を切っているな、」ぐらいにしか考えていませんでしたが、その意味が理解できました。
現在、私は前回の手術で再狭窄したこともあり自宅にて排尿する際はストップウッチを片手に計量しています。基本的にやはり朝一番が出ずらく12ml/秒前後、逆に夕方は出が良く15ml/秒前後です。ただ朝でも状況がいい時、逆に夕方でも悪い時があります。

上記のような生活で気がついたのですが、尿意の感覚によって排尿前に排尿状況の良し悪しに区別がつけられるようになりました。
尿意が陰茎の根元当たりに集中して感じられる場合は状況がよく、膀胱全体で重苦しい感覚で感じている場合はよくないということが多いです。術後1ヶ月ぐらいまでは陰茎の根元当たりに感じるのは傷のいたみかと思っておりましたが、再手術であったこともあるのか排尿後の痛みも1週間程度で出血もなかったです。(1度目の場合は2ヶ月程度いた痒さでものすごく辛い症状がありました。)また約3ヶ月経過した現在でもですからこの症状は術後の傷によるものではないものと考えています。

また、仕事中の打ち合わせ等により長時間着席している時の尿意が重苦しくなりがちで、逆に動いているときの尿意は陰茎の根元当たりに集中し、気持ちよい排尿ができその後の排尿間隔も長めとなる時が多いです。
私なりには、ブログで説明されている排尿信号と関係があるものかと思っています。
排尿前に命令信号みたいものが十分に伝達される場合が陰茎の根元に尿意が感じられる時で膀胱頚部の開きもよくなり、気持ちよい排尿ができた結果、排尿信号とリセット信号が十分となるものと理解しています。
この感覚は私の場合のみであるか、排尿障害のない方にはどうなのか、他の排尿障害の患者さんにはどうなのか、また再手術によりこの感覚を得られるようになったのか(関連痛等の症状がでる前、また手術以前はあまり気にしていなかったのでよく覚えておりません。)気になるところです。
現在気持ちのよい排尿をすることが一番と考え、尿意が十分感じられる状況を作り(なるべく排尿前に体を動かす等)工夫しております。

いずれにしても再手術後の症状は以前より改善しており、まだまだ完治という状況にはありませんが、一歩一歩前に進んでいることが実感できます。
これもお忙しい中再手術して頂いたおかげです。先生、本当にありがとうございました。また今後ともよろしくお願い致します。

北海道○○○○市○○○・・-・・
○○○○

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コメント

いつもわかりやすく解説して下さり、有難うございます。見てわかりやすく、かつ論理的に新しい視点を説明して下さるのは、患者としても心理的に大変有難いです。
ところで、以前「排尿障害は膀胱から尿道への弁の動きが悪くなって起こる事がその原因の一つ」と先生から伺った記憶があるのですが、この弁というのが今回説明されている三角部のこととなりますか?

【高橋クリニックからの回答】
私が「弁」という表現をしたかどうか覚えていませんが、膀胱頚部や膀胱出口の開閉は、自然界の扉のようなものです。扉ですから正確には「弁」ではありません。扉は他動的動きでその範囲に幅や多様性がありますが、弁は受動的動きでその範囲や様式が一定です。
しかし、人間が作る平面的で簡単な扉ではなく、自然・生体が作る扉は立体的な構造をしています。その扉を正確に理解している人間は私も含めて皆無です。
今回、3D4D画像で膀胱出口周囲の構造がたまたま判明し、その構造の存在理由を考えているうちに、今回の仕組みをひらめいたのです。ですから、全くの私のオリジナルの発想で、真実かどうかは不明です。その内、学会で仮説として発表するつもりです。お楽しみに。

結構難しいことを最近掲載しているつもりです。
開業医が考え付く限界のところでしょう。私自信のための臨床研究ノート的なブログでもあります。
一般の人に対してもですが、医師が読まれても良いくらいの内容にしています。
慢性前立腺炎を単なる炎症だと思い込んでいる医師に対しての啓蒙のつもりで書いてもいます。
ですから、このブログを読まれて容易に理解ができるあなたに対して感服します。頭の硬い医師には到底理解できない内容です。

投稿: | 2008/02/03 19:19

先生は空想、妄想とおっしゃっていますが、慢性前立腺炎を患い、ハルナール服用にて症状が軽快している自身にとりましては、自分の体のメカニズムをこのように具体的に解説して頂けると、本当に心強く思います。今後、先生のブログを拝読しながら、自身の症状と照らし合わせ、ご報告できればと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

【高橋クリニックからの回答】
こちらこそ、よろしく。

投稿: | 2008/02/04 10:44

高橋先生お世話になります。

約一年前、高橋先生に手術をして頂いた患者です。
この患者さんに有るように、一回目の手術では正中切開し二回目には輪状筋が緩むように切開する。
私の想像ですが、高橋先生なりの経験値から来る慎重さもしくは段階を踏んだ切開、と理解しました。
一回目で正中切開と輪状筋切開を試みいきなりゴールを目指すより、人それぞれの個性や症状、年齢を鑑み、階段を登るように手術をする、と考えましたが違うでしょうか?
であれば、インフォームドコンセントに記載のある一回目で70%、二回目で更に残りの70%が改善見込みがある、と言うのも先生なりの理論と臨床実績に基づいているのかな?と理解しました。

高見さんもそうですが、この患者さんも二回目で体感的に軽快を実感しているように思います。

実は二回目の手術を検討致しております。
先生もお忙しい事と理解してます、その先生に執刀していただくには自分自身が充分納得してから、と考えています。半端な気持ちで手術をお願いする訳には行きませんし、そもそも覚悟のできていない患者を先生も執刀したくないでしょうし。
先述の切開の段階?(順番)は私の理解が正しいのでしょうか?
御教示お願い致します。
【回答】
20回近く手術をしても治らない患者さんも存在します。
理想は理想です。
現実とは異なることもあります。
私は危険人物ですよ。

投稿: | 2015/08/08 18:33

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