« 膀胱の嘆き(第190話) | トップページ | 慢性前立腺炎に急性前立腺炎が併発する理由 »

因果応報 #2

因果応報の続きで書いたものを長文になったので、「因果応報#2」として別テーマにしました。

Inga2_3

因果応報の模式図を利用して、具体的に慢性前立腺炎について考えたのが、上の模式図です。初めの因果応報の模式図に比較してさらに複雑になります。
赤い破線は見かけ上の原因・結果の流れです。白い実線は真実の原因・結果の流れです。青い矢印は、事実関係から推理した流れです。
赤い四角マスは重要ポイントで、緑の四角マスは発生学的・解剖学的・生理学的事実です。

一般的には、慢性前立腺炎が原因で、会陰部痛や頻尿症状が結果として出現します。私も若い頃は、これが当たり前の現象として何の疑問も持たずに理解していました。他の医師は今でもそうでしょう。
しかし、よくよく考えてみると、この症状はあまりにも唐突です。慢性前立腺炎で前立腺そのものが痛いのであれば、前立腺触診で痛がる直腸の前面部、すなわち奥の方が痛いはずです。現実には会陰部という尿道球部を痛がるのです。また頻尿は膀胱の症状であって、隣の臓器だからといって前立腺の症状とするのは論理的な飛躍があります。これは前立腺肥大症にも当てはまることです。前立腺肥大症=頻尿は当たり前の症状ですが、前立腺肥大症の内視鏡手術後に10%の患者さんは頻尿症状が取れません。その際には医師はその患者さんに対して頻尿は「年のせい」と告げるのです。頻尿=前立腺肥大症と診断、手術したことは誤診と誤った治療をしたことになるのです。
科学を売り物にしている医師でさえも肝心な細かい所をいい加減にしているので、その後の理論展開の方向性を見誤るのでしょう。

さてさて、その昔、慢性前立腺炎で近くの内科医から紹介されたタクシーの運転手さんに軽い排尿障害を見つけました。その排尿障害を治療したら慢性前立腺炎症状が消失したという事実をきっかけに私の理論が展開したのです。きっかけを作ってくれた地元の内科医にとても感謝しています。
まずは、排尿障害が膀胱三角部を過敏にして、それが頻尿と会陰部痛になると考えました。
ところが、排尿障害があると膀胱三角部が過敏になるという根拠がとても不明瞭です。しかも排尿障害の根拠になる前立腺肥大症や尿道狭窄がないのに「排尿障害」と診断するにしては、ハッキリした根拠が証明できません。そこで尿流量測定ウロフロメトリー検査と残尿量測定検査を行い、堀から城を攻める戦法に出たのです。説明の都合上、機能性排尿障害≒機能性膀胱頚部硬化症なるものを考案しました。(膀胱頚部硬化症は前立腺肥大症の手術後に起きる後遺症という印象が強いのです。したがって、開業医レベルでは膀胱頚部硬化症の患者さんに頻繁に出会うことはありません。)

膀胱三角部が過敏になると、頻尿や会陰部痛になる関係がよく分かりませんでした。そこで生理学の専門書を何冊か新たに購入して考えました。脊髄神経は成長期を過ぎ成人になると、そのままの状態で増えもしなければ減りもしないと私は思い込んでいました。ところが、脊髄神経は増殖もすれば減りもするし、新たな回路を形成することが分かったのです。私が50歳の手習いで始めたパソコンもこのように扱えるのは、私の脳と末梢神経との間の脊髄神経が新たな回路を形成してスムーズにできるようにしてくれたからです。
膀胱三角部の過敏が脊髄に絶えず過度の情報を送り続けると、脊髄内で増幅回路が形成されてしまうのです。その増幅回路が自立的に暴走して、頻尿や関連痛→会陰部痛になるのだと分かったのです。

ここで新たな疑問が浮かびました。なぜ膀胱三角部が敏感になり易いのか?膀胱の他の部分ではダメなのか?という疑問です。そこで新たに解剖学と発生学の専門書を購入して勉強です。すると新たな事実が判明したのです。膀胱三角部は膀胱のど真ん中に存在するのに尿管の組織そのものである!ことが分かったのです。膀胱全体の感受性と尿管の感受性は違いますから、尿管組織で構成された膀胱三角部が膀胱の他の部分に比べて敏感である理由がここに判明したのです。また膀胱三角部は膀胱頚部まで組織が浸入・迷入しているので、排尿障害で生じる振動にも弱いこともうなずけます。

機能性排尿障害が存在すると、膀胱出口は排尿中に振動します。その振動が地続きである膀胱三角部を振動させ、それが原因で膀胱三角部が肥厚し敏感になると考えました。
超音波エコー検査で膀胱出口の肥厚がかなりの確率(90%以上)で観察できることから、機能性と思われた排尿障害も、実は限りなく器質性に近い排尿障害ではないか?と考えるようになりました。
さらにその考えを強固にしたのが、最近実施している3D4D超音波エコー検査からです。膀胱出口にそれまでの2D超音波エコー検査では観察できなかった、明らかに異常な膀胱平滑筋のコブやシコリを発見してからです。

膀胱出口にこのような膀胱平滑筋のコブやシコリが存在すれば、器質性に近い排尿障害になるのは必然です。また、当然、排尿中の膀胱出口の振動は強くなります。その強い振動は膀胱三角部をさらに強く振動させます。

この時点で、膀胱頚部の発育不全や脊椎麻酔の後遺症による膀胱頚部の機能障害が、この一連の病態の原因になりうるのです。膀胱頚部の機能性排尿障害が慢性前立腺炎の原因と考えていましたが、その機能性が長期間とはいえ、どれだけの影響力があるのか疑問でもありました。しかし、3D4D超音波エコー検査のお陰で機能性と思われていた患者さんの多くが、限りなく器質性排尿障害だという事実に、軽度の機能性排尿障害→軽度な器質性排尿障害に変化したのだという考えに落着いたのです。

いかがですか?ここまで深く考えなければ、慢性前立腺炎全体像は理解できません。今現在、上図のように考えながら、慢性前立腺炎を治療していますが、それでも完全ではありません。まだまだ深い謎があるのでしょう。【慢性前立腺炎=前立腺の病原菌による慢性の炎症】という常識が、いかに薄っぺらな病態であるかということにお気づきになりましたか?

この模式図に、さらに「関連痛の理論」「水代謝の理論」が重なり、慢性前立腺炎や間質性膀胱炎を複雑怪奇な病気にするのです。

私の慢性前立腺炎の手術治療を学会報告する義務があるかのごとく掲載している、どこかのHPを読みました。私に興味を持っていただいたことには感謝します。
しかし、学会報告の義務があるのは大学病院などの医師の義務です。国から多額の研究費をもらい、患者さんが全国から集まり、最新鋭の機器と多くのスタッフを抱える大病院の医師にこそ学会報告の義務があるのです。その報告といったら現実の臨床に直接結び付かない最先端の研究発表が多くを占め、ここ10年、内容に興味が持てません。

それに引きかえ、私は住宅街の中で一人で細々と診療を行なっている総合診療科の55歳の開業医です。ブログに掲載されているのは、泌尿器科専門医としての私のアイデアと実際の診療内容です。自分の日記的ブログの内容をなぜ学会報告の義務があるのでしょう?学会発表がすべてと勘違いしている医師の思い上がりでしょう。

私は自分の考えや臨床経験をブログに掲載しているのは、輪郭のない自分の考えや患者さんからいただいた貴重な臨床経験を無駄にしたくないからです。ブログそのものが私の知識そのものでもあります。
最近ブログを自分の知識の整理と位置づけている人が多いようです。インプットだけでは身につかないので、ブログにアウトプットすることで身に着けようとするアイテムとしてのブログです。患者さん集めの(集客)広告ブログではありませんから、失敗談や私の自己満足的な内容が多くあります。私の治療方針をわざわざ学会報告する必要もないものと思っています。

またひたすら書き続けることにより、常識にとらわれない病気の本当の姿が見えてくるものと信じています。医学部で習った常識や大学病院で得た知識や学会報告での差し障りのないあるいは最先端の知識を習得し鵜呑みにする時期は過ぎました。私なりの個性的な知識を発信しなければならない年齢になったと思っています。
私のように平凡な人間にとって、ただひたすらに続けることが唯一の才能であり力だと思っています。いちいち学会報告をしなければ認められないというのは、このIT時代に時代錯誤という思いです。患者さんとの会話の中で思いついたその場で世界中(日本語なので日本人にしか理解してもらえませんが・・・)に発信できるのです。発表のスタイルや字数制限を気にしなくて良いのです。私にピッタリの方法です。
例えば今回のこのテーマ(因果応報)で、学会報告をして誰が興味を持ってくれるでしょうか?

96uroそうは言っても、データがたくさん集まったので2008年4月に日本泌尿器科学会で報告をします。慢性前立腺炎ではなく、間質性膀胱炎についてです。間質性膀胱炎は頻尿症状が慢性前立腺炎に比較して極端で、手術による改善が劇的なので「1日61回の頻尿を5回に」というテーマを選びました。ただし、間質性膀胱炎の治療も慢性前立腺炎の治療も私にしてみれば原則的には同じ【膀胱頚部切開手術+膀胱三角部切開手術】なので、聴衆の泌尿器科医にとっては参考になるでしょう。

|

« 膀胱の嘆き(第190話) | トップページ | 慢性前立腺炎に急性前立腺炎が併発する理由 »

コメント

高橋先生、慢性前立腺炎に関してここまで書いているのですから、義務だとかそうでないとか別として発表されてはいかがなもんでしょうか。義務というよりみんな悩んでいるんですから、公式の場で発表すればありがたい人も大勢いると思いますよ。よく先生は万民のためにやっていないようなフレーズを言われますが、病気が治ればそんなことはどうでもいいではないですか??

【高橋クリニックからの回答】
確かにその通りです。しかし、不用意に発表してダメになることも大いにあるのです。中途半端に発表することで無に帰するのです。
「良い事・正しいこと」が必ずしも報われないのが世の常でしょう?
今回は、間質性膀胱炎の手術治療に関して発表しました。去年の8月に学会応募した時には原稿・スライドは、すでにほとんど出来上がっていました。しかし学会に参加する聴衆に理解していただくために、何百回の校正を行なっています。ご覧いただければ、大した内容ではありませんが、この程度でも相当なエネルギーを必要とするのです。「発表しろ」と言うのは容易いことです。診療しながらの発表は大変です。誰も行なっていない考え方や治療法を世に出すのですから・・・。私は良心でこのブログを書いています。素人でも理解できるであろう私の考え方や証拠や現実を読んでいるであろう医師が理解できない?あるいは私が詐欺師と思っているのでは?というのを知って悲しいです。
なにしろ、この世の中はエビデンス・エビデンス・・・ですから、そのような輩の医師に理解させるのは一苦労です。素人の方に理解していただく方が、どれだけ楽か分かりません。
そして理解したと思われるのは、聴衆の医師の1割もいないでしょう。
慢性前立腺炎に関しては、間質性膀胱炎の原因と全く同じだと考えています。しかし、男性は前立腺が存在している分、間質性膀胱炎よりも更に偏見が邪魔をするのです。
慢性前立腺炎に関して発表するためには、その下準備として、3D検査の証拠などの基本的な事実を何回かに分けて発表を重ね、数年後に本題を発表するつもりです。
待ってて下さい。

投稿: くらくら | 2008/04/28 12:05

医者とて免許取得前はただの人だ。私なんか良くならないからいろいろ質問するんだけど、話にならない。本当に殺してやろうかと思いましたよ。仕方ないから自分で勉強するわけさ。今病気は理屈とか医学用語把握の前に、どんな方法が得策か医者同士が議論すればいいのに何もやらない。ほんと人の考えることにこんなにも否定的なのは医者ぐらいだ。手術だろうが、薬だろうが、細菌だろうが、なんでもいいんだ。本当に医者はこの病気の患者には無関心すぎる。とにかく死ぬ病気でないのなら医者の
志で治してみろと言いたい。厚生省とか
学会とか関係ないんだよ。

投稿: くらくら | 2008/05/13 12:04

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 因果応報 #2:

« 膀胱の嘆き(第190話) | トップページ | 慢性前立腺炎に急性前立腺炎が併発する理由 »