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「尿線が右方向へ」 慢性前立腺炎の症状#10 尿線分裂

43歳の慢性前立腺炎症状の患者さんです。
23歳(20年前)から、排尿後に左睾丸から左大腿(太もも)にかけて不快感を感じます。
特に射精した翌日には必ず感じます。
射精後に残尿感もこみ上げてきます。しかし頻尿はなく、1日に4回の排尿回数で、本人も排尿障害を自覚していません。
尿流量測定ウロフロメトリー検査では、排尿曲線は正常に近く(絶対に悪いとはいえない程度の排尿曲線)、残尿も5ml以下でほぼ正常でした。
Bns20289m43ハルナールの処方で不快感は30%程度まで落着き患者さんは満足です。
この患者さん通院中ですが、新しい検査、3D4D超音波エコー検査を行いました。その結果が右の写真です。

Wnlmorificeなんかおかしいですね?膀胱出口が正面真ん中に存在しません。それらしい変形した隙間が右寄りに確認できます。
正常男性の正面ど真ん中に存在するべき膀胱出口と比べると、上の画像がいかに異様か判断できるでしょう。

裏側から観察すると・・・

Bns20289m432
・・・やはり、膀胱出口が真ん中にありません。この画面の中央より少し左寄りになっています。
この検査の最中に、排尿障害のなかったこの患者さんに、一つの質問をしました。
それは、「オシッコが真直ぐ正面に飛ぶかどうか?」という質問です。
予想した回答が返ってきました。彼の尿線はいつも右方向に傾いて飛翔するのだそうです。
なぜ予想できたかをお教えしましょう。

Opennormal本来、膀胱出口は正面の真ん中に存在します。なぜならば、膀胱出口を取巻く膀胱平滑筋が360度一周均等に緊張がかかっているので、膀胱出口は膀胱の真ん中に正円形状として存在する筈なのです。
右図は、フジテレビのマークではありません。赤いラインは膀胱平滑筋です。黒い●は膀胱出口です。排尿の時には、赤いラインの膀胱平滑筋が赤い矢印の方向にゆるむので、膀胱出口は開きます。

Bns20289m43ところが、この患者さんの膀胱出口は、右寄りに隙間のような形状で存在しました。ということは、膀胱出口を取り囲む膀胱平滑筋の緊張が不均衡だということです。
Opennabn右図の青く強調した部分は、膀胱平滑筋が肥大している部分です。左側の対称位置の膀胱平滑筋と比較して、明らかに肥大しています。筋肉の仕事は収縮することです。筋肉が肥大しているということは収縮力が強いということです。収縮力が強いということは、逆に弛緩(しかん=ゆるむ)することが苦手だということでもあります。

排尿の際には、膀胱出口にかかる膀胱平滑筋の緊張の不均衡はさらに強調され、膀胱出口のいびつさは増強するでしょう。すると、膀胱出口を通過した尿は、ホースの先をつぶした状態で放水しているのと同じですから、尿道内を乱流になりながら流れ、尿道口から空間へ尿が飛翔する時には正面を捉えることはできない筈です。

Openabn3この患者さんにさらに詳細に問診すると、朝一番のオシッコの時に、尿線が二つに割れるのだそうです。いわゆる尿線分裂です。また朝一番が出にくいと感じています。
では、なぜ朝一番のオシッコが出にくく、二つに尿線が割れるのかを右図を利用して解説しましょう。
朝一番の時には、1日の中で尿が一番たまっている筈です。膀胱内に「めいっぱい」尿がたまると、当然膀胱平滑筋は引き伸ばされます。図の下向きの青い矢印が、膀胱平滑筋を引張る力です。この力は膀胱平滑筋をゆるめる方向の力(赤い矢印)とはほぼ逆向きの力です。
赤いラインの部分が強く引張られる訳ですから、膀胱平滑筋がゆるもうと思ってもゆるみません。すると膀胱出口は小さいままですから、朝一番のオシッコは出が悪くなるのです。出始めたとしても、膀胱出口は普段よりも開きませんから、いつもより尿の乱流は著しくなり、尿線は割れるのです。
また、オシッコをしようと息むと、膀胱三角部を中心(青い○)に圧力がかかります。その力は、健常者であれば膀胱平滑筋を押し広げるように働きます。しかし膀胱出口がこのような位置にある場合には、膀胱出口を閉じるように(青い矢印)作用し、排尿障害を増強します。

Opennormal2では、健常者の場合、朝一番でも尿が出にくくならないのはなぜでしょう?右の図を使って解説しましょう。
尿がいっぱいにたまった圧力は、同じように膀胱平滑筋を引き伸ばし、下向きの青い矢印のように赤いラインの膀胱平滑筋に緊張を与えます。
しかし、排尿しようと膀胱平滑筋がゆるむと、青い○で囲んだ部分に膀胱の圧力が均等にかかり、膀胱平滑筋を広げる方向に押し広げます。一度開き始めると、青い○の部分は漏斗状(すり鉢状)に変形し、尿が効率的に流出しやすくなるので、排尿障害にはならないのです。

Openabn6_2【オーダーメイドの手術】
この患者さんはハルナールの服用で軽快しています。ですから手術の必要はありません。しかし、もしも手術を行なうとしたら、右の図のようになります。
手術の目的としては、ゆるまない膀胱平滑筋をゆるむようにすることです。膀胱平滑筋の緑のラインを分断するイメージで切開・切除します。そのため、まず膀胱出口の0時2時を切除します。この作業で膀胱平滑筋の緊張がゆるんで膀胱出口は中心に寄ります。
次に膀胱三角部を目標に6時を切除します。すると、さらに膀胱出口は中心によります。
Openabn5膀胱出口は粘土細工ではないので、切除・切開で刻々と形が変化していきます。最後の状態を頭にイメージしながら切除・切開していきます。最終的には、新しく形成した膀胱出口が、膀胱の中心近くに位置して直径が大きくなれば、症状は改善します。

最近の私の手術は、術前に3D4D画像で膀胱出口の形状と膀胱平滑筋の肥大を確認してから手術を行ないます。今までの手術がイージーオーダーだとすると、この手術は個人個人異なるので、オーダーメイドの手術になる訳です。

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コメント

 そちらでベタニスを処方していただいて、3か月の者です。おかげさまで症状が落ち着いてきましたが、尿線分裂が起こるようになりました。これはベタニスが原因ですか?何か尿線分裂によって悪いことはあるのでしょうか?(例えば硬化が進むとか)
【回答】
ベタニスによって膀胱出口の開き具合が変kして、尿線分裂が起きるのでしょう。
心配無用です。

投稿: 患者 | 2012/01/18 09:21

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