膀胱出口の3Dイメージ(世界初)
この画像は、27歳男性の膀胱出口の3Dイメージです。
分かりやすく言えば、膀胱の中から膀胱出口を観察した画像です。本来のありのままの姿を立体的に観察することは今までできませんでした。
軟性膀胱鏡を尿道から挿入して、180度反転しながら振り帰って観察することはできましたが、麻酔や挿入時の尿道の軽度な損傷、出血など、必ず患者さんに肉体的精神的な負担を強いることになっていました。
しかし、3Dイメージを作れる超音波エコーであれば、全くの侵襲なしに観察できるかも知れないと思い、医療器械業者に当ってみました。初めの内は、「そんな話しは聞いたことも見たこともありません、出来ません」と、取り合ってくれませんでしたが、デモ機を持って来てもらって検査したところ、見えるではありませんか!
各社の機種を選定して、早速、産科用の胎児の表情を描出するアメリカGE製の超音波エコー器械を今月導入しました。モノクロプリンター、カラープリンター、DVD記録装置、USBメモリーが装備されました。
大きな器械の方が性能が良いのは分かっていますが、何分にも診察室が狭いのとリース料の予算のこともあり、この機種に落着きました。もう少し安価な機種もあったのですが、この製品の完成度の高さやGEブランド(車でいえばベンツ)に惹かれてしまいました。
慣れるまでは器械相手に四苦八苦して、やっと観察することができました。恐らく超音波エコー世界での本邦初公開、いや世界初公開でしょう。
今これをご覧になっている方、世界で初めての画像写真です。
自宅でくつろいでいる時に、子宮羊水の中の赤ちゃんの動く表情がリアルタイムに観察できる超音波エコーのテレビ番組を見ながら、『そう、そう、確かにすごいけれど泌尿器科には無縁・・・』と思っていました。
羊水という液体の中の赤ちゃんの表情?・・・もしかして尿の中の膀胱粘膜の表情は?・・・膀胱出口の表情は?!と考え始めたら止まりません。自分の思い付きを実現すべく、担当の医療器械業者に強くプッシュしたのです。その後の経過は、「開業医こぼれ話」で紹介したとおりです。
冒頭の3D画像を見せられても、専門医でも???という印象でしょう。
コメントをつけたのが右の画像です。
画面の上は、前面の腹部に当り、恥骨に連続しています。
画面の下は、膀胱の裏側ですから、背中側で直腸が裏に存在します。
画面の右は患者さんの右であり、画面の左は患者さんの左です。
膀胱・前立腺は左右の恥骨と仙骨の間が形成する小骨盤腔に存在します。小骨盤腔は想像したよりも狭いもので、27歳男性の小さな前立腺の裏からの圧迫で隙間がないように観察できます。
中心に見える穴は膀胱出口(内尿道口)です。膀胱出口を中心として三角形に裾野が広がりが観察できますが、この部分が膀胱三角部です。
膀胱出口を取り囲むように両翼を下に向けたブーメラン形状の堤防が形成されていますが、これが膀胱下から膀胱を突き上げている前立腺の圧迫像です。
ただ、この3D画像はソフトでコンピューター処理された画像ですから、実際の肉眼的に観察された画像よりも修飾されている筈です。そのことを念頭に置きながら分析しなければなりません。
ここまでの説明では、異常が全くないように見えますが、実は異常が観察できるのです。
右の写真は、50歳代の男性の膀胱出口3D画像です。慢性前立腺炎症状が全くない方です。
冒頭の3D画像と比較して違いが分かりますか?
答えはブーメラン形状が不明瞭です。要するに堤防の部分の高さがなだらかなのです。丸くはしたが、つき立てのために軟らかくて高さが保てないお餅という印象です。前立腺の硬さからいえば、50歳男性の方が27歳男性よりも硬いはずですから、27歳男性よりもハッキリした堤防になっていなければなりません。実際はこの50歳の方の3D画像が正常に近いものです。
前立腺が大きくなく、硬くないのであれば、膀胱を下から圧迫しているように盛り上がっているのは何なのでしょう。これこそが、膀胱出口周囲の硬化像なのです。
もう一つ違いがあります。
27歳男性の膀胱出口の形状と50歳男性の膀胱出口の形状が違います。50歳男性の膀胱出口はポコッと小さな穴がただ開いているという感じですが、27歳男性の膀胱出口は2段になっていて形状が複雑です。要するにこの部分の粘膜下の組織が単純ではなく、複数の組織で形成されているということです。
さらにもう一つ違いがあります。
50歳男性の3D画像をよくご覧下さい。膀胱出口を中心に膀胱出口周囲のシワが見えるでしょう?これは膀胱平滑筋の縦走筋が作るシワです。縦走筋は膀胱出口を開くために存在します。
それと比べて27歳男性の膀胱出口周囲に縦走筋のシワがなくのっぺりしています。膀胱出口を開くために必要な縦走筋のシワが見えないということは何を意味しているか想像できるでしょう。
この3D写真は、8月23日に慢性前立腺炎(膀胱頚部機能低下症)で内視鏡手術を行い、8月25日に膀胱留置バルンカテーテルを抜いた直後の49歳患者さんの膀胱出口の所見です。
膀胱出口が開放されたイメージが分かりますか?
この3D写真は、5月に慢性前立腺炎で内視鏡手術を行った27歳患者さんの3ヵ月後の8月の膀胱出口の所見です。
膀胱出口の所見も自然な感じになっています。この患者さんの慢性前立腺炎症状スコアNIH-CPSIは、術前29点から2点に減少し、患者さんは満足しています。
この3D画像は、排尿障害で来院した62歳男性の膀胱出口の所見です。
パッと見ただけではよく分かりません。検査を行っている私も習熟していないので、ベストショットがなかなか取れません。後で写真にしてから、あれこれと反省するところです。この写真もその一つです。
写真の上部から下に向かって両翼を開げて見えるのが、前立腺肥大症のブーメラン形状だと初めは思いました。
しかし、よくよく観察すると前立腺肥大症と思っていた部分は、恥骨そのものです。その下の膀胱出口だと思っていたのが小骨盤腔の凹みです。凹みの下に突出しているのが、膀胱出口の所見です。超音波エコー器械の性能が良過ぎて、骨まで明瞭に描出できるのでこのような錯覚をしたのです。一般的に超音波エコー検査では、骨は超音波が反射されてハイ・エコーとして見えるので無視する習慣があります。このように明瞭に存在感を出されると、どこを観察しているのか一瞬戸惑います。
小骨盤腔の下から前立腺肥大症の一部が明瞭な塊として突出しています。この患者さんは夜間頻尿が5回です。日中の排尿回数が5回ですから、起きている時と就寝中の排尿回数が同じという奇妙な状態です。
このように完全に膀胱側へ突出するタイプの前立腺肥大症は、ハルナールなどのα-ブロッカーの効きが今ひとつですが、まずは保存的に治療するのが原則ですから、薬剤治療になります。
77歳の前立腺肥大症手術後5年の患者さんの写真です。
前膀胱出口が内視鏡手術により中心の穴が明瞭に確認でき、ドーナツ状あるいはカルデラ状に観察できます。
膀胱三角部が硬いイメージです。そのためか、ハルナールを1日2回服用しても夜間頻尿が3回あります。私の膀胱三角部理論が完成されていない頃に手術した患者さんで、膀胱三角部が手付かずです。
本人は、夜間頻尿3回でも以前の6回に比べて楽なので、現時点では手術を受ける気がありません。
24歳女性で1日20回の頻尿の患者さんの写真です。大学病院で「心因性頻尿」と診断されましたが、納得がいかずに当院を受診しました。
膀胱出口の後ろ側がこんもりと盛上がっていて硬くなっている所見が判別できます。
通常の超音波エコー検査の側面像では、一部突出しているようにしか見えません。
尿流量測定ウロフロメトリー検査では、チョロチョロのオシッコで明らかに排尿障害を認め、残尿は87mlです。
63歳男性で前立腺肥大症の患者さんの超音波エコー検査2D画像です。
この患者さんの症状は、息み時間が長い(なかなか尿が出て来ない)、夜間頻尿です。
膀胱出口の周囲が膀胱内に突出しているのが分かりますが、断面図(側面図)ですから実物を想像しにくいでしょう。
ところが、これを3D画像で表現すると右の図になります。
どうですか?膀胱出口周囲の複雑な地形が手に取るように分かりますね。
膀胱三角部がドーナツ状の隆起の一部になっていて、膀胱三角部が過敏になっていると想像できます。
排尿時には、膀胱出口は開かないというのもうなずけるでしょう。
2D画面では、膀胱出口の上下の隆起が気になりましたが、3D画像で観察すると、膀胱出口の左右の隆起の方が厚く排尿障害を形成していることが容易に想像できます。
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コメント
何か治療の参考になる手がかりは得られそうですか?
この状態で排尿すれば排尿状態の膀胱頚部を膀胱内から観察できるのでしょうか。もしできるなら先生の理論の裏付けがえられるかもしれませんね。たとえば、膀胱出口が振動しているかなど。一般の人と対比できれば排尿時の差異が明らかになるのではと思います。非常に興味深いです。是非頑張ってください。
【高橋クリニックからの回答】
お久しぶりです。
膀胱出口周囲の表情を観察しようとする試みは、これからです。
膀胱頚部機能低下症(機能性膀胱頚部硬化症)が進行しなければ、3D画像で描出されないでしょう。しかし、新たな器械で思いもかけない新しい発見があるかも知れません。期待でワクワクです。新しい理論展開が出来ることを祈って下さい。
投稿: スイカ | 2007/08/23 21:58