慢性前立腺炎の症状#7「急性腎盂腎炎・膀胱尿管逆流症」
繰り返す急性腎盂腎炎から、あるいは慢性腎盂腎炎から発見された病気に、膀胱尿管逆流症vesico-ureter reflex VURという病気があります。
膀胱尿管逆流症の初めての報告は1952年(なんと私が生まれた年!)です。
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Pivotal discoveries occurred in 1952, when Hutch reported on a relationship between VUR and chronic pyelonephritis in paraplegic patients (Hutch, 1952), and in 1959, with Hodson's observation that urinary tract infection (UTI) and renal scarring carried a high likelihood of VUR in children (Hodson, 1959).
【直訳】
重要な発見は1952年、Hutchは対麻痺の患者について、VURと慢性腎盂腎炎の関係について報告した(Hutch1952年)。そして、1959年のホドソンの知見では、小児で尿路感染(UTI)と腎の瘢痕化がVURの高い可能性を示唆した(ホドソン1959年)。
【対麻痺とは?】
脊髄・末梢神経障害や疾患による両下肢の運動麻痺を対麻痺いいます。
1952年当時であれば、恐らく戦傷による脊髄損傷が大部分でしょう。
そのため、神経因性膀胱による排尿障害になります。当然、排尿時に膀胱出口は開きませんから膀胱内圧は上昇します。
【空想・想像】
1959年のホドソンの報告は小児に限っているので、小児の2つの尿管口の発育不全が原因で膀胱尿管逆流症になったと容易に理解・想像できます。
しかし、Hutchの報告は対麻痺患者さんの報告ですから、脊髄損傷が原因で、ほとんど患者さんは成人でしょう。尿管口の発育障害である可能性は低い訳です。また、神経因性膀胱で尿管口の逆流防止弁の作用が低下するという理論も聞いたことがありません。
私が泌尿器科医の駆け出しの頃、このHutchの報告は私の勉強不足で知らなかったこともあり、膀胱尿管逆流症の原因は、ただ単に、先天的(生まれつき)の尿管口の逆流防止弁作用の低下だけだと思い込んでいました。一般の泌尿器科医も恐らくそうでしょう。後天的に膀胱尿管逆流症を起こすのは、たまに前立腺肥大症の末期の排尿障害の著しい時だけで、そうなる根拠には何の疑問も持っていませんでした。前立腺肥大症が大きくなり過ぎると、尿管口の逆流防止弁を物理的に壊すのだろうと・・・。
しかし今思えば、前立腺肥大症で膀胱内圧が上昇するから逆流するのだと考えた方が、理由はともかく膀胱尿管逆流症という病気全体を考える上で、汎用性があるように思えます。
さてみなさん、いかがでしょうか?
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【標準泌尿器科学 第6版 医学書院 p376】
原因は、膀胱と尿管の接合部(尿管口)が不完全で逆流防止弁の機能が低下して、膀胱尿が尿管口から腎臓に逆流するという病態です。
治療としては、逆流しないように尿管を膀胱に植え替えるというものです。
【膀胱尿管逆流症の腎シンチグラム】
膀胱内のラジオアイソトープ(上から1段目)が膀胱が充満するに従い、次第に尿管が造影され(上から2段目)、遂には腎臓まで到達する(上から3段目4段目)のが観察できます。
さてさて、なぜ膀胱尿管逆流症について紹介しているのでしょうか。それは慢性前立腺炎の患者さんの過去における既往疾患に、成人になってからの急性腎盂腎炎がたまにあるからです。
急性腎盂腎炎は、何らかの原因で細菌が腎臓・腎盂に付着して増殖、炎症を起こします。病気の主は腎盂で腎臓実質は従です。
何らかの原因とされていますが、明確に分かっているのが膀胱尿管逆流症です。尿管口の逆流防止弁作用が不完全だから逆流するとされていますが、疑問があります。
逆流防止弁の作用が不完全であれば、小児の時期に腎盂腎炎を繰り返すはずで、その時点で膀胱尿管逆流症が発見されます。ところが成人になってから腎盂腎炎を発症するというのは???
小児の時期に発見される膀胱尿管逆流症は、腎シンチグラムで示したように、排尿とは無関係に、膀胱が充満していくうちに逆流現象が認められるのです。
ところが、成人の膀胱尿管逆流症は、排尿時におきる逆流現象です。膀胱が充満した程度の膀胱内圧では逆流は起こさずに、排尿時の強い膀胱内圧の時にしか逆流が起きないのです。
膀胱内圧が急激に高くなる病気に、前立腺肥大症や膀胱頚部硬化症などの膀胱出口閉塞カテゴリーの病気があります。
膀胱頚部硬化症≒慢性前立腺炎と私は考えていますから、過去の既往症に急性腎盂腎炎・膀胱尿管逆流症があれば、排尿障害を私は疑うのです。
慢性前立腺炎で過去に腎盂腎炎や膀胱尿管逆流症の既往のある方、きっと排尿障害があります。
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