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慢性前立腺炎の統計学的検討#2

以前にも慢性前立腺炎の統計学的検討をしました。
今回は、「尿流量測定ウロフロメトリー検査」のテーマの際に集計した無作為(3ヶ月間に来院した順で、初診・再診の区別なく)の100名の患者さんについて検討したいと思います。
【排尿曲線の分類】
Uroflotype_41.正常型
2.前立腺肥大症型(閉塞型)
3.膀胱頚部硬化症型(慢性前立腺炎型)
4.神経因性膀胱型(無力型)
の4つのタイプに分類できます。
事前に十分尿をためた状態で検査を行っても、尿量が150ml未満の場合は判定不可能です。頻尿の患者さんや膀胱緊満感時に会陰部痛などが著しい患者さん、あるいは緊張すると排尿できなくなる患者さんの場合は、わずかしか排尿出来ないからです。さらに、4つの分類にどうしても当てはまらないような排尿曲線も存在します。そのようなタイプを
5.判定不可・混合型
として分類しました。しかし、このような判定不可・混合型も、明らかに正常型ではないので、排尿障害の排尿曲線には違いありません。
正常型の排尿曲線に似ているが、長年の医師としての勘からすれば排尿障害の排尿曲線と思われても、極力「正常型」として分類しました。なぜなら、慢性前立腺炎の原因が排尿障害だと信じている私が分類するのですから、私情が入ります。それを避けるためです。
排尿曲線分類と年齢分布
Uroflotype_1排尿曲線のタイプ別の集計結果は、上記の表の如くです。
上の表を詳しく読んでみましょう。まず表をクリックしてください。表が拡大します。
100名の患者さんのうち、正常型と分類されたのは10名(10%)です。言い換えれば、慢性前立腺炎患者さんのうち、90%の患者さんには、尿流量測定ウロフロメトリー検査で排尿障害と判定可能な事実があります。判定不可・混合型を除いても、81%と高い確率で排尿障害を認めます。
次に年齢別分布を見て見ましょう。
20歳代23名、30歳代29名、40歳代29名の合計で81名(81%)になります。慢性前立腺炎患者さんは、社会を担う年齢層と一致します。そのため、仕事場で、この病気を理解されない立場に置かれることも多く、精神的にも辛くなる年齢層です。

正常型排尿曲線と残尿量
Uroflonmlru排尿曲線の正常型に分類された患者さんも、残尿量測定検査を行なうと、厳密には正常の排尿をしていないことが分かります。
私は、少なくても10ml以上の残尿は排尿障害と信じていますが、何でもかんでも排尿障害の理由にすると思われるのもしゃくですから、100歩譲って20ml以上を異常所見とします。20mlまでを正常範囲?の残尿量とします。
残尿量の基準を緩めても、正常型排尿曲線の10人のうち、正常範囲であるのはたった3人(30%)で、残る7人(70%)は残尿量は20ml以上(最大84ml)です。
慢性前立腺炎患者さん100名のうち、排尿曲線が正常型で残尿量も正常範囲であるのは、たった3人(3%)で、残る97人(97%)の患者さんは、何らかの排尿障害を認める結果になりました。

【参考】
以前にもご説明したように、正常の排尿では残尿がゼロであるのが正しい姿です。ところが、一般の医師はともかく、泌尿器科医でさえ残尿量は50mlまで正常だと思っているのが現実です。
この残尿量50mlまでは正常だという常識は、何が根拠となったのでしょう。
泌尿器科医の常識として、前立腺肥大症の手術適応があります。手術適応とは、これこれの条件の時には手術を薦めるということです。
1.尿閉(尿がたまってパンパンなのにオシッコが出ない状態)エピソードが一度でもあった場合
2.社会的適応(自宅で安静にしてれば問題ないが)がある場合
3.夜間頻尿などで日常生活に支障がある場合
4.残尿量が常に50mlを超える場合25年以上前の泌尿器科では、前立腺肥大症の手術は、出血などのリスクの高い難しい手術でした。現在のように手術式が確立し、手術器械も安全で精度の高いものではありませんでした。
高齢の患者さんが前立腺肥大症の排尿障害で来院しても、抗男性ホルモン剤の治療で前立腺を小さくする保存的治療が主流でした。現在のようにα-ブロッカーによる排尿障害の治療と異なり、症状はなかなか改善しません。
前立腺肥大症のほとんどの患者さんが高齢者でしたから、保存的治療で経過を見ている間に寿命が尽きる自然経過のパターンでした。
しかし、男性の寿命も延び、いつまでも保存的治療ではらちが明かず、どうしても手術をしなければならない時に、前立腺肥大症による「残尿量が50ml以上であれば、手術をしましょう」と決めたのです。ですから残尿量50ml以上というのは、手術適応のための残尿量なのです。
前立腺肥大症ほどの排尿障害もないのに、残尿量50mlまでが正常ということを決めた泌尿器科医のお偉いさん達の論理の飛躍は、驚くばかりです。


前立腺結石の存在と年齢分布
Calculi_1前立腺結石の存在は、排尿障害の結果だと私は信じています。ですから、慢性前立腺炎の患者さんに前立腺結石が多く認められれば、慢性前立腺炎の原因が排尿障害だと示唆する根拠になります。
全体の46%に前立腺結石を認めました。50歳代は90%、30歳以上で2人に一人の高率で前立腺結石を確認できる結果になりました。
前立腺結石と病歴期間
Calculipiriod病歴期間が長ければ、当然、前立腺結石の患者さんが多く認められるだろうと思い、調べてみると、前立腺結石の有無と病歴期間には有意の相関関係は認められませんでした。予想外れでした。

【膀胱出口の膀胱内突出】
Bnsgrade2超音波エコー検査の膀胱・前立腺の側面像で、膀胱出口の膀胱内突出程度を私は常に観察しています。
膀胱出口の膀胱内突出が認められなくても排尿障害はありますが、経過が長ければ、その突出程度は強くなり、排尿障害の存在と経過の長さを示してしると私は考えています。

膀胱内突出の進展度分類
Bnsgrade_1

突出進展度を上図のように分けます。
平坦を0度、5mmまでの出張りをⅠ度(軽度)、10mmまでをⅡ度(中等度)、10mm以上をⅢ度(高度)として、100名の患者さんの所見から膀胱出口の膀胱内突出の傾向を見てみましょう。
ただし、この分類は私のオリジナル分類であって、泌尿器科医の常識ではありませんから念のため。

膀胱内突出進展度と年齢分布
Beaktype膀胱出口の膀胱内突出がない人は、9人(9%)でした。残りの91人(91%)は、膀胱出口の膀胱内突出が多かれ少なかれ認められました。
膀胱出口の膀胱内突出は、排尿時における膀胱出口の振動が、膀胱出口周囲を硬く変性させ内側に(膀胱側に)盛り上がるのだろうと考えています。前立腺側は密度が高く固いので、膀胱側にしか進展方向が確保できません。また、膀胱内突出の進展度が高い人は、経過が長いか、振動に対しての防御反応が強いのだろうと思っています。

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コメント

前立腺の突出しているイラストが在りますが、説明では膀胱内の壁が振動に耐えるために厚くなるとの説明だと思うのですが、どうなのでしょうか?前立腺自体が何らかの影響で大きくなって膀胱側に張り出てくるのではないということでしょうか?
先生の振動仮説では振動により膀胱出口の壁が分厚くなるとのことですが、これは膀胱三角部以外の膀胱出口の壁も同じように厚くなるのでしょうか?それとも膀胱三角部だけでしょうか?

【高橋クリニックからの回答】
正確には膀胱出口の突出ですが、前立腺の突出との区別を超音波エコー検査では出来ません。MRIでは区別がつきますが・・・
ですから、イメージ的には図のような感じです。またこの図の方が分かりやすい図になります。
さらに詳述すると、実際には違う現象が起きているのかも知れません。排尿障害で膀胱出口に負荷がかかると、膀胱出口周囲の筋肉がゆるみ始め、そのゆるんだ部分に前立腺がはまり込んで来たとも考えられます。
それが結果として、膀胱出口の肥厚として観察できるというものです。
前立腺は固い前立腺被膜や骨盤底筋肉や靭帯に覆われていて、膀胱外下部はとても圧力が高いので、膀胱側方向に圧力が逃げやすい構造になっています。
もちろん仮説の域を超えません。
しかし、女性の場合は、前立腺がないにもかかわらず、膀胱出口の膀胱内突出が観察できますから、膀胱粘膜の肥厚と考えるべきでしょう。

膀胱出口の膀胱内突出は、膀胱出口周囲の肥厚という病態から来ると考えます。したがって、膀胱三角部だけではなく、全周ぐるりにわたって、肥厚します。ちょうど、ドーナッツ型です。膀胱出口がドーナッツの中心の穴で、ケーキの部分が粘膜肥厚です。
超音波検査所見では、膀胱三角部の反対側の恥骨側の肥厚が特に目立ちます。本来ならば、膀胱三角部の肥厚も同じように厚くなるのでしょうが、膀胱三角部の構造上(恥骨側よりも粘膜が広がっている)、厚くならないのです。しかし、恥骨側の粘膜の肥厚が強い場合、たとえ膀胱三角部側の肥厚がそれ程ではなくても、潜在的に肥厚していると考えています。それは厚みではなく、硬さの代償として出てくるのです。実は、その硬さが、膀胱三角部を過敏にしている原因だと考えています。

納得できましたか?スイカさん。

投稿: スイカ | 2007/05/23 17:57

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