膀胱頚部の輪状筋切開
以前にコメントに対して回答した所、
「輪状筋の切開については知識不十分でよくわかりませんが、狭窄した場合は大変難しいことがよくわかりました。」の内容のコメントを受けました。
そこで、膀胱頚部硬化症の内視鏡手術のテクニックの一部である輪状筋の切開について解説しましょう。
【正常の膀胱出口の開口】
膀胱出口の開口時を下から覗いた模式図です。
慢性前立腺炎の原因である膀胱頚部硬化症は、膀胱出口の筋肉、すなわち膀胱輪状筋と膀胱縦走筋の働きのアンバランスのために起きます。膀胱出口が開くためには、
【輪状筋の弛緩+縦走筋の収縮】が必要です。
【正常の膀胱出口の閉鎖】
膀胱出口の閉鎖時を下から覗いた模式図です。
しかし膀胱頚部硬化症の患者さんは、どういう訳か
【輪状筋の収縮>>縦走筋の収縮】という構図のために、膀胱出口が思うように開かないのです。
「どういう訳か?」というのは正確には嘘です。膀胱は輪状筋と縦走筋とごく一部の斜走筋の筋肉集合体です。そのほとんどが輪状筋で、縦走筋はわずかです。排尿障害の患者さんの内視鏡検査で認められる肉柱の観察でその比率が想像できます。恐らく、輪状筋:縦走筋=5:1くらいの割合でしょう。つまり膀胱は縦走筋自体が少ないという構造的欠陥があります。排尿時はほとんどの輪状筋は収縮しますが、膀胱出口の輪状筋だけはゆるむという絶妙な動きをします。しかしその絶妙な動きが失敗して輪状筋がゆるまないと、縦走筋がどんなに頑張っても縦走筋は輪状筋に負けてしまう、すなわち膀胱出口が開かないことになるのです。
ですから、慢性前立腺炎=膀胱頚部硬化症の内視鏡手術の場合には、膀胱出口の輪状筋が収縮しないように、輪状筋を十分に切開してユルユルにしてあげるのがコツです。
【膀胱出口4時の切開】
長さが3mmで太さが0.3mmの針型電気メスで、膀胱出口4時の切開中のワンシーンです。ちなみに、溝の深さは3mm幅は2mmです。
電気メスで手前に引掛けているように見える白い組織が膀胱出口の輪状筋です。
膀胱出口が丸いですから、輪状筋も年輪構造でアーチを描いているのが判別できるでしょう。
【膀胱出口4時の切開中】
電気メスに電流を流すと、放電現象が起き、金属メスの周囲に細かい気泡(周囲の水が沸騰して蒸気になった状態です)が生じてプラズマ状態になります。すると金属が高温になり組織が切れるのです。
【膀胱出口4時の切開直後】
緊張がかかってアーチ状になっていた輪状筋がなくなります。針先の周囲の緊張が取れた感じが分かりますか?
この手術操作を奥の膀胱側から手前の前立腺側に、少しずつ薄く繰返し行なうのです。輪状筋は年輪構造ですから薄紙を剥がすようなイメージで切開していきます。肉眼で輪状筋の突っ張り感が取れた状態でこのテクニックを止めます。
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