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最新の慢性前立腺炎に対する医学的動向

Timely topics in Medicineに慢性前立腺炎の最近の動向の質問・回答形式で公表されていたので、ここでお示しします。
前立腺炎
J. Curtis Nickel
Professor, Department of Urology, Queen’s University, and Staff Urologist, Department of Urology, Kingston General and Hotel Dieu Hospitals, Kingston, Ontario, Canada


質問1:下部尿路症状(LUTS),前立腺肥大症(BPH)と前立腺炎の関係に関する最新のデータについて教えてください.
BPHに伴うLUTSは高齢男性の50%以上が発症し,うち半数以上は治療が必要という非常に一般的な疾患です.慢性前立腺炎(CP)または慢性骨盤痛症候群(CPPS)の症状は疫学的研究から2~6%にみられ,また多くの臨床試験から,BPH患者の12~18%は臨床的前立腺炎の症状・徴候を併発していることが示されていますので,診察や治療の際には,それらの両方に留意する必要があります.

質問2:従来,前立腺炎の臨床像と組織学的所見には関連があるとされてきましたが,REDUCE(REduction by DUtasteride of prostate Cancer Events)試験でも同様の結果が得られているのでしょうか?
何十年もの間,前立腺炎は文字どおり前立腺に関連する炎症性疾患であると考えられてきました.しかし,REDUCE試験で得られた5,000例以上の前立腺癌ハイリスク男性の前立腺生検および前立腺炎症状スコアのデータの検討からは,炎症の重症度,頻度,広がりまたは分布と症状スコアとの間に相関は認められず,むしろ炎症はLUTSと弱い相関を示しました.CPPSの症状と前立腺の炎症は相関しないということが多くの試験から示唆されています.

質問3:慢性前立腺炎(CP)は患者の配偶者のQOLにどのような影響を及ぼすのでしょうか?
患者が深刻なQOL障害を被っていることは多くの試験から示されていますが,患者の配偶者に及ぼす影響は検討されていなかったため,カップル単位で比較を行うケースコントロール試験を実施しました.その結果,前立腺炎が及ぼす性的影響は深刻で,前立腺炎患者の配偶者には顕著な抑うつ状態がみられました.このことより,治療により前立腺炎の治癒が得られない場合は特に,カップル単位でのマネジメントを行うのが理想的であるといえましょう.

質問4:慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)に対して,現在,選択される治療は何でしょうか? また,CAMUS(NIH Complementary and Alternative Medical approaches to Urinary Symptoms) research groupでは,αブロッカーおよびその他の治療の役割についてどのように考えていますか?
これまでは,抗生物質,抗炎症薬,αブロッカーまたは5α-還元酵素阻害薬が用いられてきましたが,抗生物質の有効性は十分とはいえず,また5α-還元酵素阻害薬と抗炎症薬についてはまったく効果がないことが示されました.しかし,αブロッカーは4試験中3試験で有効性が認められ,特にαブロッカー未投与の早期例に対して有効で,最低12週間の投与の必要性が示されました.また最近,各種植物製剤の有効性について報告されていますが,さらなる研究が必要でしょう.

質問5:最近,慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)患者でallostatic overloadが生じていることが示されましたが,このような知見は,患者の治療に関してどのようなことを示唆しているとお考えでしょうか?
今年のAUAで,われわれの研究グループと他の1つの研究グループが,CP/CPPS患者で実際にallostatic overloadが生じていることを報告しました.問題は,この交感神経性の過負荷がCPにより生じているのかどうか,ということになりますが,結論を得るにはさらなる研究が必要です.それにより,これが治療の際に用いられる因子となるのか,診断におけるパラメーターとなるのかが明らかにされると思います.

質問6:Prostatitis Clinical Research Centerの活動について教えてください.
われわれの研究ユニットも同センターの臨床試験に参加しています.現在,αブロッカーであるアルフゾシンの早期投与,慢性疼痛患者に対するプレガバリン,潰瘍性疾患患者に対するグリコサミノグリカンの膀胱内注入療法,慢性疾患患者に対する種々の用量のペントサンポリサルフェート,電気・磁気刺激療法,A型ボツリヌス毒素の前立腺内注入療法などの試験が進行中です.特に重要な試験は心理社会的な疫学研究で,エビデンスに基づいて構築された認知行動療法によるQOL改善効果について検討しており,2006年秋に終了する予定です.

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コメント

興味深い内容でした。 説明にある allostatic overload とはどのような症状を言うのでしょうか?お教えいただければ幸いです。

【高橋クリニックからの回答】
確かにallostatic overloadは意味不明の言葉ですね。翻訳の方も分からないので、そのまま掲載したように思えます。
allo:他の・異形の、static:静止の・dynamicの対語、 overload:過剰負荷という意味ですから、そのまま訳すと他の静止的過剰負荷・・・なんじゃそれ?という感じです。
ただ、解説の内容から推理すると、交感神経・副交感神経の過剰の拮抗状態を意味しているのではないでしょうか?
具体的な状態をいえば、オシッコを我慢している時の状態です。尿意を強く感じている時には、副交感神経は緊張して排尿収縮させようとしています。しかし周囲がまだそのような環境ではない時(電車の中、就寝中など)には、交感神経がそれ以上に緊張して我慢をします。この状態は、交感神経も副交感神経も互いに一歩も譲らず拮抗した過緊張状態=過剰負荷の状態です。
ダイナミックに動いて拮抗している訳ではなく、電気的に相反する動きの指令を同時にしている状態でしょう。
もう少しスマートな説明ができるようならば、再度ここで説明します。

投稿: スイカ | 2006/12/22 23:21

私は18年10月からプロペシア5mg内服しています。
12月ごろから少しいいような印象でしたがその後はあまり変わりなく、いつまで内服したらいいのか、困っていました。今回、上記論文を見てショックを受けています(効果なしという)。痛みは、ロキソニンなどでは三分の一ぐらいにしかならず、2-3時間しか効きません。モルヒネ(ペインクリニック)では、ほぼ消失し6時間ぐらい効果、あります。尿症状はユリーフが比較的効きますが、鼻閉で内服困難です。

【高橋クリニックからの回答】
プロペシアは経口養毛剤ですよね?
上記の内容との関係が意味不明ですが・・・。

投稿: | 2007/02/11 00:59

プロペシアとは5αー還元酵素阻害剤のことで一時期、Nickelらが、効果を報告しており、日本では、プロペシアとして、入手出来、養毛剤としては、1mgですが、前立腺痛や前立腺肥大には5mgの報告でした。
【高橋クリニックからの回答】
プロベシアと5αー還元酵素阻害剤が同一と認識していませんでした。私の勉強不足です。
プロベシアは若返りホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)を増やす作用があると聞いてていたので、あまり興味がなかったのです。
なぜなら、数年前に排尿障害の治療を行ない治った慢性前立腺炎の患者さん数人の血中DHT測定を術前と術後に行なったのですが、その結果、有意差がでませんでした。
それで、排尿障害とDHTは無関係と信じていました。

先生は、腸球菌の慢性前立腺炎のご経験は、ありますか?種々の抗生剤の長期服用にても、除菌できず、ザイボックスの使用を考慮されていますが、バイオフィルム感染では、ザイボックスも無力では?と言われています。
【高橋クリニックからの回答】
難治性の慢性前立腺炎は排尿障害と私は信じていますから、前立腺液などから培養で検出された常在細菌に興味がありません。
本当に細菌が原因の慢性前立腺炎であれば、抗生剤・抗菌剤で容易に治癒すると思っています。
細菌が原因だと誤解しているから、難治性慢性前立腺炎は治らないのです。

先生のい外来でモルヒネまで使っている患者さんのご経験はありますか?
【高橋クリニックからの回答】
いません。

投稿: | 2007/02/17 00:35

ボツリヌス毒素の前立腺への注入は日本では受けられるのでしょうか?保険は通っていないと思います。

【高橋クリニックからの回答】
大学病院などで間質性膀胱炎の患者さんに臨床治験は行なわれている筈です。
慢性前立腺炎に関しては、行なわれていないでしょう。

投稿: | 2007/02/17 00:40

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