慢性前立腺炎の症状分類と分析
慢性前立腺炎の症状に関して、初めの頃に説明していますが、観点を変えて、改めて説明しましょう。
慢性前立腺炎の症状は大きく分けて、4つに分類することができます。
【1】排尿の症状:
例えば、頻尿・残尿感・排尿困難・切れの悪さ・しみ出し・尿漏れなど
【2】下半身の症状:
例えば、会陰部痛・尿道痛・尿道のかゆみ・尿道のシビレ・陰茎痛・亀頭痛・陰嚢のかゆみ・睾丸痛・肛門痛・恥骨部痛・下腹部痛・射精痛・太もものシビレ・足の裏痛・腰痛など(シビレ・かゆみ=軽微な痛みとして考えます)
【3】上半身の症状:
例えば、手のシビレ・首の痛み・舌の痛み・胸の痛みなど
【4】痛み以外のエッと驚くワープした症状:
血精液症・急性副睾丸炎・腎盂腎炎・尿臭・体臭・蕁麻疹・アトピー性皮膚炎・濡れない尿漏れ・尿道腺の異常分泌・全身倦怠・下痢・便秘など
【1】排尿の症状:
排尿と密接に関係しているように思われる症状は、
①排尿障害から被害を被った膀胱・前立腺の直接症状と
⑥排尿障害そのものの症状の組合せです。
残尿感や頻尿症状は、膀胱三角部が受けた情報を脊髄を介して脳に伝える本来の正規ルート①(赤い太い矢印線)の感覚です。この症状だけでしたら、膀胱・前立腺の病気だと容易に理解できます。
尿の切れが悪かったり、下着に尿のシミが付いたり、排尿の出が悪かったりするのは、明らかな排尿障害の症状⑥です。私が非細菌性慢性前立腺炎の原因が排尿障害だという事実を容易に理解していただける症状です。
【2】下半身の症状:
②膀胱・前立腺を直接支配する脊髄レベルの関連痛と
⑤同じ脊髄レベル支配の自律神経症状です。
何らかの原因で(先天性にこのルートが弱かったりなどで)正規ルート①に充分情報が伝達されないと、脊髄の処理能力を上回った、あふれた情報エネルギーがわき道ルート②へ流れ出てしまいます。それが、一次(固有)関連痛になります。わき道ルート②が足の裏の神経であれば、足の裏の痛みとして錯覚(破線矢印)しますし、睾丸の神経であれば、睾丸の痛みとして錯覚するのです。
脊髄の神経配分・分布は人によって様々ですから、一次関連痛が、肛門痛・会陰部痛・太もものシビレ・陰嚢のかゆみなど様々な症状になります。下半身の感覚でしたら何でもありの状態です。したがって一つ一つの感覚の違いに特に深い意味はありません。また、左右どちらでも構わないのです。
実際に来院された患者さんの統計では、一番多いのが会陰部痛です。次に睾丸痛・陰嚢痛・尿道痛・鼠径部痛がほぼ同数です。
生理学的には、かゆみもシビレも痛みの範疇の感覚ですから、区別はしません。
あふれた情報エネルギーが漏れ出てしまうルートが、わき道ルート②のような感覚伝達路でない場合もあります。それが、自律神経の自律神経わき道ルート⑤です。下半身の自律神経、交感神経・副交感神経に情報エネルギーが流出するのです。すると、自律神経は伝えられた情報を何の疑いもなく、そのまま受け取るので、環境や状況にそぐわない自律神経症状を発現するのです。周囲は暑いのに足元が寒かったり、逆に周囲は寒いのに足が火照ったりするのです。大腸なども自律神経支配ですから、下痢や便秘などの不規則な便通になります。慢性前立腺炎の患者さんに過敏性腸炎や潰瘍性大腸炎が比較的に多いのも理解できます。
【3】上半身の症状:
③頚椎・胸椎・腰椎の高位の脊髄レベルの関連痛と
④高位の脊髄レベル支配の自律神経症状です。
膀胱・前立腺直接支配の仙骨部脊髄の高さでニューロン(神経単位)をいったん変えて、次の脊髄上向性のニューロンにバトンタッチします。そして、そのまま1本の線維(ニューロン)で脳までひたすら走って行くのがほとんど(恐らく80%の確率で)です。しかし、中には(20%の確率で)、頚椎・胸椎・腰椎などの仙骨よりも高位の脊髄レベルで、ニューロンを再び(三度以上?)変えてバトンタッチをする場合があります。
ニューロンがバトンタッチする場合には、生理学用語でシナプス結合を形成します。シナプス結合とは、直接つながっている結合ではなく、ニューロンとニューロンの間にわずかな隙間があります。情報を渡し手のニューロンの末端では、伝達された電気エネルギーで化学物質を分泌します。この化学物質がわずかな隙間を移動して受け取り手のニューロンに届くと、電気エネルギーに変換されて受け取り手のニューロンに情報が再び流れていく仕組みです。
情報エネルギーが多くなるということは、この化学物質も大量に分泌されるということです。あふれた化学物質は近隣の膀胱・前立腺とは全く無縁の他のニューロンに流れます。これがわき道ルート③です。わき道ルート③が感覚伝達路であれば、二次関連痛になるのです。手の感覚路であれば、手にシビレになりますし、首の感覚路であれば、首の痛みになるのです。
今回は、シナプス結合の化学物質についてだけ言及しましたが、実は生体では必要に応じてシナプスを新しく形成することが知られています。私たち臨床医が考えてる以上に、シナプス結合はダイナミックに接合したり解除したりしているのかも知れません。慢性の繰返しの膀胱・前立腺からの刺激が、化学物質の大量分泌を促し、さらに化学物質が新たなシナプス形成を促進させている(文献的根拠はありませんが)のかも知れません。そう考えなければ、慢性前立腺炎のこんなにも多彩な症状を説明できません。説明できないので、安易に「気のせい」と誤診するのでしょう。
もしも、これをお読みになっている慢性前立腺炎患者さんで、主治医に「症状は気のせいだ!」と断定されている状況に置かれている方がおられれば、このブログを印刷して、主治医に読んでいただいて下さい。きっと理解してくれるでしょう。
さて、近隣のニューロンが自律神経であれば、自律神経わき道ルート④の症状が発現します。胸椎・腰椎の高さの自律神経は、発生学的に下半身の自律神経よりも発達していて、全身に多大な影響を与えます。特に消化器系を完全に掌握しているので、慢性前立腺炎の患者さんは食欲低下や消化不良顔望(私見)になります。そして自律神経症状ばかりでなく、免疫システムの臓器・腺組織にも強い影響力があるので、蕁麻疹やアトピー皮膚炎などの症状・病気と深い係わり合いが出てくるのです。
【4】痛み以外のエッと驚くワープした症状:
例えば、尿臭や体臭を訴える慢性前立腺炎の患者さんが臨床現場では比較的多くおられます。もしも嗅覚が正常で本当に尿臭や体臭が強く発散しているのであれば、このような訴えはない筈です。
なぜなら、本来嗅覚は強い臭いに対して、すぐに順応するため感覚が麻痺できるようになっています。もしも貴方がトイレで大便をしている時に、始めは「臭いな!」と感じていても、トイレから出る頃にはほとんど悪臭を感じていない筈です。これが「嗅覚の順応」という生理現象です。ところが、大便よりも臭くない尿臭が、いつまでも気になるというのは、嗅覚順応が働かない、すなわち偽りの感覚=錯覚だという証明に他なりません。
この現象は、パブロフの犬の実験で有名な条件反射の高等版と云えるでしょう。パブロフの犬の実験では、犬の食事の時にベルを鳴らし続けると、ベルを鳴らすだけで犬の唾液分泌量が顕著に増加するという実験です。「ベルの音―食事の時間」を慢性的に繰返す内に、「ベルの音=食事中=消化器機能促進」という条件反射の神経回路が形成されたのです。神経回路が形成されたということは、「ベルの音=聴覚神経中枢」と「消化機能促進=自律神経中枢」の間で神経的連絡、すなわち新たなシナプス形成がされたということです。我々日本人が梅干を見ると唾液が出るのと同じ現象を小難しく分析しただけです。
排尿時に、尿の音を聴覚で感じ、尿の臭いを嗅覚で感じながら、また排尿後に水で手を洗い皮膚の冷覚を感じ、毎日何十年も同じことを繰り返し行なっていると、「水の音=尿の音=排尿」・「尿の臭い=排尿」「水の冷たさ=排尿」という条件反射が確立します。この条件反射は健康な時点では、発現することはない、隠れた条件反射です。ところが、私が提唱する慢性前立腺炎の考え方のように、隠れ排尿障害があると、全身の感覚が「おしっこモード」にスウィッチされてしまいます。そうなると、手を水で洗っただけで尿意を感じたり、シャワーの音で尿を漏らしたり、24時間尿臭で悩まされたりするようになるのです。
実際に濡れていないリアルな尿漏れ感覚も隠れた条件反射の発現か関連痛でしょう。患者さんにインタビューすると、突然に尿が太ももの内側をたれて足元まで流れて行く感覚を感じます。あわてて拭こうとすると、実際には濡れていないのだそうです。とてもリアルな感覚なので漏れているとしか思えないそうです。
この症状は、複数の種類の違う感覚がグループとしてまとまり、一つの意味ある感覚(尿が漏れて内ももを伝わって行く)として刺激された神経回路症状です。
自律神経わき道ルート④⑤などへの刺激も、膀胱・前立腺症状として理解してもらえない症状なので、この範疇の症状として分類することができます。尿道から分泌液がたくさん出て、性病?非淋菌性非クラミジア性慢性尿道炎?と悩んで来られる患者さんも、診察・検査すると排尿障害が見つかります。これこそ、自律神経わき道ルート⑤の刺激による尿道腺過剰分泌現象です。
【補 足】
一見、支離滅裂に思われがちな慢性前立腺炎の多彩な症状も、一つ一つ系統立てて考えれば、決して理解できない症状ではありません。ただ、症状の根拠が理解できたから、即、治せるということではありませんから念のため。ひとたび形成されたシナプスを含めた複雑な神経回路の連鎖を消去したり、リセットするのは困難を極めることは想像できるでしょう。
私の治療は、排尿障害の治療と過敏になった膀胱三角部の治療の2本立てです。その治療として、薬の服用と内視鏡手術があります。しかし、経過が長く、あるいは患者さんの体質によって、神経回路の連鎖が容易にほどけない方もおられます。そういう患者さんをどのように効果的に治療していくかが、今後の問題です。
さて、ここに掲載した内容は、決して最新医学の高度な内容ではありません。30年以上も前の私が医学部3年の時に習得するべき生理学の教科書の知識を、臨床に即して配置しただけです。生理学の内容としても低レベルの知識です。いかに臨床現場の医師が生理学などの基礎医学を無視して臨床に当っているかが想像できるでしょう。そうでなければ、安易に「気のせい」などと口にできないはずです。
慢性前立腺炎の多彩な症状の根拠である神経回路連鎖の発信源は、膀胱三角部の過剰反応です。これをお読みになって気が付かれた方もおられると思いますが、この神経回路連鎖の発信源は何も膀胱三角部でなくてもいい訳です。他の臓器でも発信源になりうる訳です。現在、原因不明とされている様々病気は、慢性前立腺炎の神経回路連鎖と同じような病理システムの可能性があるのかも知れません。
【反 響】
高橋知宏 先生
お久しぶりです。カルテNO.・・・89の○○○○です。
本日先生のココログにて、慢性前立腺炎の症状分類についてがUPされていましたが、自分もやはり関連があったんだと納得しました。
>>大腸なども自律神経支配ですから、下痢や便秘などの不規則な便通になります。慢性前立腺炎の患者さんに過敏性腸炎や潰瘍性大腸炎が比較的に多いのも理解できます。
6月に貴院受診に伺った直前から過敏性腸炎を発症して、別病院に通院するようになっていたからです。
主訴は腹痛、腹鳴り、ゲップ等です。
もちろんストレス等も関係していたと思いますが、こちらにも関連があったとは・・・・・
最近はコロネル等の薬服用の成果なのか、ストレスが薄れたのかわかりませんが、かなり楽になってきました。
11月・・日に再OPを入れて頂いていますから、さらにこの症状も排尿障害も改善するだろうと思いますね。
前回のOPより半年ぐらい経ちますが、新たな症状(大腸)もでてくるのですね。
気付いた事を単純に書かせて頂きましたので、読みにくいとは思いますがお許しくださいませ。
また11月のOP宜しくお願いいたします。
お忙しいとは思いますが、慢性前立腺炎で苦しんでいる多くの人のためにもがんばってくださいね。
では
PS・ ココログのUPいつも楽しみにしています。
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宮崎県○○○○郡○○○○
○○○○
TEL:(・・・・)・・-・・・・
E-mail: ○○○○@m-link.jp
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コメント
質問です。
1日あたりの排尿回数は何回くらいがベストなのでしょうか?
【回答】
膀胱の機能に問題がなければ、7回以下です。
シビアに考えれば、5回前後です。
投稿: 葛城 | 2012/10/31 15:32
もう1つお聞きしたいのですが、排尿回数は少なければ少ないほど良いのですか?
【回答】
それはそれでおかしいです。
1日1回であれば、正常な1日の尿量からすれば、あり得ません。
尿が作られないのか、尿意を感じないのか、いずれにしても何か原因がある筈です。
投稿: 葛城 | 2012/10/31 16:34
私の場合、水分制限を一リットルにすると、朝一回、夕方くらいに一回、夜寝る前の十二時前に一回と、三回くらいになってしまいます。お昼過ぎくらいに追加で行くときもあり、合計四回になるときもありますが。これで問題ないでしょうか?
【回答】
問題ありません。』
また尿の色が濃いオレンジのような感じに濃いときがあるのですが問題ないでしょうか?尿の色が変わるのはなぜですか?経験的に排尿回数が少ないと色が濃く、染みるような排尿痛が生じるような気がします。何か関係があるのですか?
【回答】
腎臓の濃縮力が働くからです。
正常な生理的現象です。
投稿: 葛城 | 2012/11/01 13:11
勃起してセックスすると尿道の中にしこりがあって痛みを感じます。最近は、しこりと痛みが気になって勃起しなくなる時もあります。勃起していないときに手でつまむと硬いコロコロした感覚が尿道にあります。ときたまにですが、尿道が沁みた様な感じがあるときもあります。
以前(10年ほど前)尿管結石で石が出るときペニス途中で止まった時の感覚に似ているのです。
【回答】
地元の泌尿器科を受診して下さい。
投稿: | 2015/01/10 02:34