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前立腺結石と慢性前立腺炎

前立腺結石は前立腺内に生じる原因不明の結石です。原因不明とされていますが、恐らくは慢性の尿路感染症によるものだとされています。私も研修医の頃、泌尿器科学会で前立腺結石について発表した思い出があります。

しかし、開業医となって慢性前立腺炎とされている男性を何人も拝見していると、若い人の前立腺結石に遭遇する機会が多いのです。前立腺結石が認められる患者さんに限って、尿線が分裂したり噴水上に尿が割れる方も多いのです。
慢性前立腺炎・前立腺肥大症・下部尿路症の症状で来院される患者さんの2人に1人(正確には3月~5月までの2ヶ月間158人中74例で47%)の割合で、超音波エコー検査の前立腺像に結石もしくは石灰像を確認できます。

前立腺結石をお持ちの方は、ほとんどが「慢性前立腺炎」とすでに診断されている人たちです。そして前医に、前立腺結石が貴方の症状の原因だと通告されています。

(この記事は2006年5月に書いた記事です。その後、前立腺結石に関して2012年4月に日本泌尿器科学会で報告しました。ご興味ある方は、そちらをご覧下さい。)

【症例1】46歳男性で慢性前立腺炎と診断された患者さんです。1年前から射精直後に2分間程続く恥骨の痛みが悩みでした。
15年前に精液に血が混じっていた(血精液症)こともありました。高校生の頃から頻尿があり、1時間半に1回トイレ行っていました。
Cal17139m46bns超音波エコー検査では前立腺内に複数の結石(石灰)を認めました。

Cal17139m46bnsurof尿流量測定ウロフロメトリー検査では健常人の3分の1以下の尿の勢いで、残尿量測定検査では28mlの残尿を認めました。

17139m46bns3術中所見です。明らかな膀胱頚部硬化症の内視鏡所見です。写真手前に精丘という精液の噴出孔が見えます。正常・健常人であれば、精丘の後に膀胱出口が大きく口を開けていて暗い穴のように観察できなければなりません。ところが精丘の後は粘膜の壁になっていて膀胱出口が確認できません。精丘の右横に小さな光る点3個は、小さな結石(石灰)です。

17139m46bns4内視鏡を膀胱出口に近づけると、膀胱出口したの膀胱頚部硬化症の特徴的所見である柵形成部尿道粘膜に結石が確認できます。左右に山吹色から茶褐色の結石が確認できます。

17139m46bns5さらに近づくと結石と粘膜の関係が明確に確認できます。画面左上の結石は粘膜に付着していますが、画面右の結石が尿道粘膜の中から顔を出しているように見えます。これは、左上のように粘膜に付着した結石が、周囲の粘膜に囲まれ吸い込まれて埋没していく様のようです。要するの前立腺結石は尿道粘膜に付着した石灰・結石が前立腺に吸収されたものと考えることが出来ます。

17139m46bns6膀胱頚部硬化症の内視鏡手術を行い、その後、実際に採取した前立腺結石です。
私の自論では、前立腺結石は排尿障害で尿道内に生じたジェット流が作る渦流が、結石を作ると考えています。すなわち、前立腺結石が存在すれば、必ず排尿障害があります。もしその時点で下部尿路の症状、例えば、頻尿・残尿感・尿漏れ・睾丸痛・排尿痛・会陰部痛・射精痛・尿道違和感などがあれば、原因は前立腺肥大症・膀胱頚部硬化症・膀胱出口閉塞症などの排尿障害だと診断できる訳です。
気をつけなければならないのは、排尿障害を言及せずに原因不明の前立腺結石が下部尿路症状の原因だと誤診する医師がほとんどだということです。注意が必要です。

【症例2】57歳男性です。10年前に自治医大で慢性前立腺炎、独協医大で前立腺結石と診断された患者さんです。2時間に1回の頻尿と残尿感、夜間3回の頻尿、臀部の痛みと会陰部痛(ピリピリ感)を訴えましたが、「気のせい」と相手にしてくれません。
Cal16035m57bns超音波エコー検査では前立腺結石(石灰)を認めます。

Cal16035m57bnsurof尿流量測定ウロフロメトリー検査では、健常人の半分位の尿の勢いです。残尿量測定検査では、残尿45ml認めました。
αブロッカーを1年ほど服用したところ、頻尿は変化ありませんでしたが、会陰部痛消失、残尿感消失、臀部痛30%まで落着きました。しかし、患者さんが内視鏡手術を強く希望され手術を行いました。
16035m59bns内視鏡手術直前の膀胱出口の所見です。電気メスの直径が6mmですから、膀胱出口がたった3mm以下であることが判別できます。尿道には超音波エコー検査で確認できた結石を認めません。

16035m59bns2内視鏡手術直後の所見です。膀胱出口が6mm以上に拡大したのがわかります。

16035m59bns3手術中、膀胱出口切除面から結石を取り除いた瞬間です。この手術は膀胱出口を開放することが目的であって、結石の採取は偶然です。

16035m59bns6膀胱出口を切除したのは4箇所と偶然採取できた結石です。手術後、問題の頻尿は3時間に1回に減少しました。もちろん痛み症状は消失です。

calc17902m60bns上記の2例の患者さんではない、同じように手術した患者さんから採取した膀胱出口の組織検査の病理組織所見です。組織内に取り込まれた小結石・石灰を認めrます。結石の周囲にリンパ球が集まり、慢性の炎症を起こしているのが判別できます。

前立腺結石や前立腺石灰は、外来での超音波エコー検査で容易に発見できます。下記に実際に慢性前立腺炎症状で来院された患者さんの超音波エコー検査写真を掲載しましょう。
結石・石灰を←で示しました。
Cal17255m27bns27歳男性 前立腺側面像
残尿感と尿道ムズムズ感を主訴に来院。1年前から2軒の医療機関で慢性前立腺炎と診断される。中学3年生の時から尿道のムズムズ感は感じていた。αブロッカーの服用で、残尿感は消失、ムズムズ感は40%まで軽快した。

Cal17265m34bns34歳男性 前立腺側面像
13歳の頃から、息んでも直ぐには尿が出ない。通常、20秒~1分以上かかる。1日の排尿回数は10回以上と頻尿。内視鏡検査で膀胱頚部硬化症を確認する。

Cal17319m38bns38歳男性 前立腺側面像
2ヶ月前から1時間座ると会陰部痛が出現。近医で慢性前立腺炎と診断され、セルニルトンを処方されるも改善せず。次第に座ると直ぐに会陰部痛が出現、尿意頻拍が5分~30分毎に出現する。排尿障害を認め、αブロッカーを服用、2ヶ月の服用にて症状軽快する。

Cal17468m28bns28歳男性 前立腺側面像
1日10回以上の頻尿を主訴に来院。排尿障害を認める。αブロッカーを服用するも改善せず、本人の希望で内視鏡手術を行なう。手術後排尿回数は8回未満に減少した。

Cal17551m36bns36歳男性 前立腺側面像
会陰部痛と排尿障害で来院する。以前に○○医大で内視鏡検査を行い、粘膜麻酔剤でショック状態になった既往がある。排尿障害を認めたのでαブロッカーを処方するも、その後来院せず。薬が効いたのか?効かなかったのか?

Cal17625m17bns17歳男性 前立腺正面像
残尿感、2時間に1回の頻尿、左足の甲の痛みを主訴に来院。排尿障害を認めαブロッカーを服用するも、その後来院せず。

Cal17971m51bns51歳男性 前立腺側面像
会陰部痛と1時間に1回の頻尿を主訴に来院する。会陰部痛が著しく座って食事が出来ない。極端な排尿障害を認め本人が内視鏡手術を強く希望する。しかし手術予定日が近づくにしたがい精神的不穏状態になり手術は中止となる。

Cal18148m31bns31歳男性 前立腺側面像
会陰部痛・睾丸痛・太もも痛・腰痛を主訴に来院する。来院する1年前から症状があり、近医にて慢性前立腺炎と診断され、クラビット・セルニルトンを処方されるも改善がない。極端な排尿障害を認めたので、αブロッカーを服用、会陰部痛20%、睾丸痛20%、太もも痛50%、腰痛20%に落着いたが、内視鏡手術を強く希望し行なう。

Cal18215m38bns38歳男性 前立腺正面像
ペニスの右側の痛み・右鼠径部痛・右臀部痛・右足の外側痛を主訴に来院する。1時間に1回の頻尿も認める。排尿障害を認めたのでαブロッカーを開始する。服用1ヵ月後、痛みは30%に落着き、臀部痛に至っては5%以下にまで低下した。頻尿も2時間以上間隔が延びた。

Cal18339m28bns28歳男性 前立腺側面像
14歳から1時間に1回の頻尿で来院。極端な排尿障害を認めαブロッカーを処方する。

Cal18411m49bns27app49歳男性 前立腺側面像
1時間に1回の頻尿と尿道のムズムズ感を1ヶ月前から訴える。山口大学病院を受診、慢性前立腺炎と診断されセルニルトンとガチフロの処方を受ける。症状の改善をみないため来院する。排尿障害を認め、αブロッカーを処方し症状が軽快する。

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コメント

間もなく73歳になる男性で、50歳と60歳の時に痛みのために前立腺の内視鏡手術を受けています。会陰部の不快感は治ってはいませんでした。最近、また痛みがあり細菌によるものではないとの診断でセルニルトンをすでに4か月近く服用していますが改善しません。50歳の時の手術では小さな結石が25個も出て来ました。まともに座れないので日常生活に支障があります。夕方になると痛みが強くなります。何とかしてほしい!!
横浜市 在住です。
【回答】
お電話でお話したとおりです。

投稿: 〇〇 勝行 | 2012/02/05 09:15

施術をすると痛みは完全に取れるものなんでしょうか?
【回答】
私の行っている全ての治療が、やってみなければ分かりません。

投稿: | 2013/01/28 20:59

はじめてメールします。
メールにて失礼します。

43歳男性です。
主訴は、3年ほど前からの排尿障害です。
 痛みなどは少ないのですが、頻尿、尿勢が極端にないのが悩みです。
 アルファーブロッカーも最初は効果がありましたが、徐々に効かなくなりました。
 先生のブログにあるように、フリバスからユリーフに替えるとよくなる時期もありました。ご指摘のとおりと思います。
 近医画像検査では、CTにて前立腺石灰化(結石)、MRでは明らかな異常はありませんでした。残量は50CCほどありました。
 直接お世話になっている医師とは、気軽に相談できます環境にありますが、重篤な状態とは考えていないようです。

 一度先生にも、ご相談したいと思っておりますが、画像はCDコピーか、或いはフィルムとした方がよいでしょうか?
【回答】
必要ありません。

投稿: | 2014/07/27 08:57

高橋先生お世話になります。
このブログ記事にある文章の中に。

>結石の周囲にリンパ球が集まり、慢性の炎症を起こしているのが判別できます。

とあります。
この炎症はどう言った原理で起きるのでしょうか?組織が異物もしくは物理的刺激を感知し白血球が集まるのでしょうか?
【回答】
物理的刺激によって集まります。」

もしくはこの結石に細菌が集まっている事により炎症が起きるのでしょうか。
【回答】
結石のまわりに細菌は見えません。

投稿: | 2015/04/04 00:24

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