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慢性前立腺炎の誤解#2

以前に「慢性前立腺炎の誤解」というテーマで述べていますが、作成してから3年を経過し、私の考えも少し変化しているので、ここで改めて作成します。

Ingaohogosin人は物事に対して表面的なことしか理解できません。それは私も含め医師もそうです。(もちろん例外的に賢い医師は存在しますが・・・)表面的な現象に目を奪われ、真実の姿が見えてこないのです。現実に人はそんなに賢くないのです。油断をすると表面的な現象にコロッとだまされるのです。分かってみると可笑しいくらいにコロッとだまされるのです。目の前で起きている現象の表面的な原因しか理解できないのです。もしも目の前の現象が多数の手順を踏んだ結果として発症しているのであれば、益々分かりません。
困難さを回避するためには、病気に関して考えられる様々なパターンの仮説と検査手順をまず立てます。検査結果を一つ一つ吟味し論理的に矛盾するのであればその仮説を排除します。論理的に矛盾しない仮説であれば、それをトコトン追求していきます。病原性の細菌が検出されないのに(常在菌は論外)、細菌性慢性前立腺炎や非細菌性慢性前立腺炎と診断しダラダラと患者さんを抗生剤やセルニルトンで引きずり回すのは、医師としてどうかと思います。ましてや精神科治療薬で治療をごまかすのは言語道断です。簡単に精神科治療薬を処方するのは外科医である泌尿器科医として、治療放棄以外の何ものでもありません。安易に「気のせい」という診断がこのような風潮を作り上げたのでしょう。泌尿器科医は外科医です。もっと論理立てて病気を攻略する方法を考えましょう。また、安易に過活動性膀胱や間質性膀胱炎などと原因不明の病名を付けて逃げないこと。「原因不明だからしょうがない!」という流れが現場の泌尿器科医にあるように思えて仕方がありません。泌尿器科学会のコンセンサスを得られる前に、現場の医師が根性を据えて治療に当たれ!と言いたい気持ちです。

さて、怒りからいくらでも文句は書き綴れるのですが、ここで本題に入りましょう。
慢性前立腺炎で悩まれる症状は、普段の外来で多くの患者さんを拝見していると、性状的に大きく4つに分類することができます。(海外の文献では、排尿症状と痛み症状の2つしか分類していませんが・・・。)この4つの症状が単独あるいは複数混在して非細菌性慢性前立腺炎の症状を形成しています。
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1つ目は、排尿症状です。頻尿・残尿感・尿意頻拍・遷延性(せんえんせい:なかなか出てこない状態)排尿・苒延性(ぜんえんせい:チョロチョロしか出ない状態)排尿・尿線分裂などです。
2つ目は、痛み症状です。排尿痛・会陰部痛・尿道痛・睾丸痛・肛門痛・恥骨痛・射精痛などです。
3つ目は、陰部を中心としたあらゆる不快感の症状です。尿道のムズムズ感・実際には濡れていない尿漏れ感覚・陰嚢の痒み・内股の痺れ・ED(インポテンツ)などです。
4つ目は、前立腺と一見無関係と思われる痛みや不快感などの症状です。極度の尿臭・首の痛み・アトピー性皮膚炎・原因不明の蕁麻疹・全身倦怠・多汗症・自律神経失調症などです。
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貴方が医師だとして、これらの症状を訴える患者さんを目の前にして、一つの病気だと言い切れるでしょうか?そして尿や前立腺液の培養検査・生化学検査を行なって異常が出なかった場合、また抗生剤や諸々の症状に対する考え付くあらゆるお薬を処方して改善がみられなかった場合、医師である貴方は、「気のせいでしょう」と患者さんに告げない自信がおありですか?
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18467m20【1つ目】の排尿症状の場合は、前立腺が原因?と素人でも因果関係が容易に思い付くでしょう。でも、前立腺肥大症の年齢でもない若い男性患者さんを、前立腺が大きくもなく、触診で圧痛もない場合、何と診断しますか?
「若い男性に排尿障害は絶対にない」と思い込んでいる多くの医師や患者さん周囲の家族・学校・社会に問題があるのです。そして家族も含め無理解な方々が患者さんを精神的に追い詰めるパターンが多いように思えます。
また泌尿器科医も含め医師の方にも「男性の排尿障害は前立腺肥大症しかない」「前立腺肥大症は前立腺が必ず大きい」という2つの非常識が存在し、この非常識に漏れた患者さんは、良くて非細菌性慢性前立腺炎、悪くて「気のせい」「年のせい」になってしまうのです。
前立腺肥大症でも中葉肥大型の場合は、膀胱出口だけが硬く拡がらないので排尿障害になりますし、若い男性の機能性膀胱頚部硬化症の場合には、前立腺の大きさは正常大です。
【写真】は20歳男性の超音波エコー検査像です。前立腺肥大症の患者さんの所見のように、膀胱出口が膀胱側にくちばしのように突出しています。

220【2つ目】の痛み症状の場合、患者さんが排尿異常に触れずに痛みの訴えしか告げない時には、炎症所見がなければ「前立腺痛・前立腺症・陰部神経症・慢性骨盤疼痛症候群」としか診断できないでしょう。
痛み症状の原因は膀胱・前立腺を中心とした臓器の関連痛です。関連痛は生理学的な常識であるにもかかわらず、臨床現場の医師が医学生時代に習得した筈のこの常識を忘却、患者さんに「気のせい」「精神的なもの」と誤診したところに誤解が生じるのです。
関連痛として表現される症状があり、その原因となる臓器の痛みが生理学的に必ず存在する筈なのに、十分調べもしないで安易に「気のせい」と診断する医師に腹が立ちませんか?
【図】生理学の教科書に掲載されている関連痛の説明図(一部改変)

【3つ目】の不快感の症状の場合、例えば尿道のムズムズ感があり尿沈渣検査や尿培養で異常がなければ、非淋菌性非クラミジア性慢性尿道炎と診断されるでしょう。実際に濡れていない尿漏れ感覚は、医師に訴えてもノイローゼと片付けられてしまいます。
尿道のムズムズ感や尿漏れ感覚は、関連痛と類似しています。私たちの感覚は痛い・熱いなどの単純な感覚と幾つかの感覚の集合体で構成された複雑な回路感覚に分けることができます。
ムズムズ感覚の本質は、非常に弱い痛み感覚が正体です。ですから、単純な感覚として分類でき関連痛と全く同じ原理で感覚が生じます。
皮膚科の専門書(実践 皮膚病変のみかた 日本医師会雑誌第134巻特別号2S48ページ)には、皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)という病気があります。皮膚にハッキリした所見がなく痒くなる皮膚の病気です。その専門書に前立腺肥大症患者さんの中に陰嚢掻痒症(いんのうそうようしょう)が見受けられるという記事があります。この知見は一般泌尿器科医の知らない常識です。前立腺肥大症という排尿障害があると、陰嚢の皮膚が痒くなるのです。何か示唆するものがあるでしょう?
尿漏れ感覚は、尿道中を尿が通過する時に捉えられる連続性の深部感覚、皮膚に液体が付着する感覚、液体が重力によって皮膚の表面を移動する際の連続性の深部感覚がワンセットで感覚を作っています。ですから回路感覚に分類されます。これらの一連の感覚は神経ネットワークの1個の回路として記録あるいは記憶され脊髄に存在します。関連痛の病態と同じく、膀胱・前立腺の刺激が脊髄でこの回路を刺激するので、実際に濡れていない尿漏れ感覚としてリアルに感じてしまうのです。感覚の性状は異なりますが、関連痛と全く同じ機序で発症します。

【4つ目】の一見前立腺とは無関係な症状の場合、それぞれの部位の診療科にかかるでしょう。そして治りの悪いノイローゼ患者さんとして烙印を押されてしまうのです。
例えば、実際の慢性前立腺炎の患者さんが治療前に、手足のしびれを訴えていました。足のしびれは関連痛で説明できますが、手のしびれは説明が困難です。なぜなら関連痛の発生機序の考え方からすると、手の神経支配の脊髄の高さ(レベル・位置)と前立腺支配の脊髄の高さが一致しなければなりません。ところが手の神経支配は頚髄の4番~8番ですが、前立腺の神経支配は仙髄の2番~4番で全く異なるからです。なのに治療を行なうと、何と!手足のしびれが同時に消失したのです。
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高橋クリニックに来院する慢性前立腺炎の患者さんの多くは、上記のエピソードのいずれかのパターンでドクターショッピングなさっています。
ここで強調したいのは、隠れた排尿障害が原因の非細菌性慢性前立腺炎の患者さんには、「排尿障害がきっとあるに違いない!」という信念で診察・検査しなければ診断できません。表面的な症状に応じた一般的な検査で診断できるほどこの病気は甘くはないのです。排尿障害を明確に証明するためには、検査のコツが必要になります。知恵を絞って検査法を考えなければ異常がでません。

漢方薬は本来急性疾患に処方すべき薬です。日本の漢方薬概念のより所である中国の古い医書「傷寒論」は、意味の通り「怪我とインフルエンザ」治療のためのバイブルです。当時の中国人庶民は怪我やインフルエンザが原因でコロコロ亡くなって行ったのです。当面の脅威である怪我やインフルエンザから逃れるために考え出された医書が「傷寒論」だったのです。
ですから「傷寒論」では慢性疾患には原則として論じていませんし、不得意の分野になります。なのに慢性の病気である慢性前立腺炎に漢方薬を処方し治療するのには無理があると思われませんか?

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コメント

2ヶ月前の性行為をきっかけに性器ヘルペスの前兆を思わせる症状から始まり、下半身に色々な違和感がありましたが、最近特に気になるのは肛門の前の痛みと足の痺れ、睾丸付近の痒み、恥骨部の痛み違和感です。
潰瘍等は発見出来ておらず、ヘルペスの血液検査は陰性、その他の代表的な性病も陰性でした。
これまで色々な医療機関に行き、陰性なのにバルトレックスを処方されたり、血液に炎症反応が無いからと精神的なものとバカにしたような扱いを受けたりしましたが、明らかに下半身がおかしいんです。

私の精神状態は普通です。

もう病院巡りも疲れて来ました。先生のところに行けば何かわかりますか?
【回答】
排尿障害による慢性前立腺炎症状でしょう。
http://hinyoukika.cocolog-nifty.com/cp/cat7049655/index.html
をご覧下さい。

投稿: 痛ててて | 2013/05/12 00:22

お世話になります。64才男性です。
身長172cmで51kgで痩せています。
2年ほど前から、両足先のシビレに悩まされています。

ネットで見ていると、先生のブログにたどり着きました。
私は今から15年ほど前に尿が全く出なくなり、入院して導尿してもらい1週間ほどで尿も出るようになり退院しました。
その時の診断は「心因性膀胱炎」でした。1年ほどは薬を服用していましたが、お医者さんとも相談して服用を止めました。
ただ以降も尿の出は良くはなく、現在も他人の倍以上の時間がかかります。
3年前に、診断で前立線は肥大傾向であるとされましたが、薬は飲んでおりません。

足のしびれは、最初は少し長く歩くと(20分から30分)足先が少し腫れてくる感じでした。最近は四六時中痺れている感じです。ただ、痛みはなく、仕事(マンション管理員)にも特に支障はありませんが、シビレ感があり、長い時間歩けない状態です。
2014年6月に、クリニックで脊柱管狭窄症かどうかをMRIやレントゲンを取り詳しく検査受けましたが異常なしでした。今年2015年、やはり気になり5月に、脳神経外科でMRIを受けましたがが、脳も異常なしで。先日、整形外科でも血流検査とか受けましたが、異常は見当たらずで、医師は「痺れは分かりづらく治りにくい」と言われました。
しかし、本人にすれば、やはり治したいのです。
その他、時々不定期に右や左の手首が猛烈に痛くなることがあります。(2から3日)

アドバイス頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
【回答】
排尿障害による慢性前立腺炎の関連痛症状の可能性があります。
水分(お茶・コーヒーを含む)を極力控えて1日1㍑以下にして下さい。
排尿障害の治療薬であるα‐ブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフ・フリバスなど)を服用してください。

投稿: はじめ | 2015/05/22 22:20

先生、質問させてください。
今、高齢社会で前立腺肥大症の為、排尿障害患者は多いと思いますが肥大症による排尿障害でも慢性前立腺炎のような病状が出るのでしょうか?
【回答】
もちろんあります。
このブログで再三述べているように、慢性前立腺炎は排尿障害の症状です。
当然、前立腺肥大症の患者さんに慢性前立腺炎の症状がある方がいます。

投稿: 患者 | 2015/05/25 10:19

先生、お返事ありがとうございました。私は今、先生のところからフリパスを処方していただいていますがザルティアに変更した場合三か月分の処方はしていただけるのでしょうか?
【回答】
可能です。

投稿: 患者 | 2015/05/26 15:06

高橋先生
初めてメールします。福岡県在住の○○○隆一(56歳)です。
今年1月に母親が倒れ、3ケ月間車で病院通いをしておりましたが、2月下旬頃から会陰部にかすかな違和感を感じ、「すわ!前立腺ガン?」と心配になり、会社近くの泌尿器科専門病院にてPSA検査を受けました。10日後位に検査結果を聞きに行ったところ、PSA値は4.1でレントゲンからも前立腺ガンの兆候はないようですが、念のためと言って、医師の触診を受けました。何やらその辺りから会陰部痛が爆発したように思われ(先生には会陰部の違和感の話はしておりませんでしたから?たまたま重なったのかも?)
翌週たまらずに同病院を受診したところ、「慢性前立腺炎」との病名を頂戴しました。それからの治療はブログにある通り、抗生剤とセルニルトンの投薬のみ。
関連症状も訴えましたが、正常ですよの一言。また、どうしようもないと逆キレされるケースもありました。
これまで3病院を受診しましたが、どこも同じ説明でした。福岡で有名な○○病院では
①一生治りませんから痛みと上手く付き合ってとか②運動して体液を上半身に上げて③クスリはセルニルトン以外ありません。との診断でした。
発病?後約4ケ月程になりますが、主症状は会陰部痛で午後からは辛くて何度も早退したりする毎日です。排尿障害は自分では余り感じませんが、メーターで計るとあるのでは?と思います。他膀胱回りの違和感や足の痺れ、食欲不振もあり約6kgも痩せてしまいました。
会社から這うように帰宅し、睡眠導入剤のゾルピデム10mgを半分に割って服用し、横になってクスリの効果がではじめてから起き出し夕食・お風呂と言った生活が続いています。
目下、ゾルピデムで就寝する時が一番の至福の時間です。
これまで、正直この病気の事を知らず、受診病院の医師の言葉を信じていましたが、何と「高橋クリニック」の存在に今頃気づき、藁をもすがる一念でメールしました。
先生、7月の初め位に出てまいりますので診察お願いします。
【回答】
はい。

投稿: ○○○隆一 | 2015/06/15 13:23

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