虫垂炎手術と慢性前立腺炎 誰も知らなかった脊椎麻酔の後遺症?
慢性前立腺炎の患者さんを何人も何人も拝見していると、フッと気がつくことがあります。
お腹に虫垂炎の手術の傷跡を見かけることが多いのです。印象としては慢性前立腺炎患者4人~5人に1人の割合です。一般的に先進国の急性虫垂炎の生涯罹患率は7%前後(15人に1人)ですから、確率的にはかなりの頻度です。この事実は慢性前立腺炎の本質を暗示しているのかも知れません。
虫垂炎の手術は、一般的に脊椎麻酔(通称:腰椎麻酔・下半身麻酔)で行います。では、「脊椎麻酔を行なうと慢性前立腺炎になりやすい」という大胆で無謀な仮説を立て、推理してみましょう。
虫垂炎手術の際の脊椎麻酔は、一般的に腰椎4番と腰椎5番の間から脊髄腔に針を穿刺して麻酔薬を注入します。麻酔薬は少量ですが強力で注入した部分の脊髄を一時的ではありますが薬理学的に完全に遮断します。痛覚・触覚・温覚・冷覚・深部知覚・運動神経・自律神経の中枢を完全に麻痺させるのです。
薬理作用は一時的ですから、麻酔薬が次第に吸収分解されて脊髄の麻痺はやがて取れます。ただし、一時的ではありますが、たまにオシッコがうまく出なくなる男性がいます。それでも1ヶ月もすれば出るようになります。この現象は脊椎麻酔による排尿神経の一時的麻痺(一過性の神経因性膀胱)とされています。実は、この現象がヒントになるのです。
排尿に関わっている神経は、骨盤神経・陰部神経・下腹神経の3つが知られています。
骨盤神経の中枢は仙髄2番~4番に存在し、膀胱の収縮に関与します。
陰部神経の中枢も仙髄2番~4番に存在し、外尿道括約筋を支配します。
下腹神経の中枢は胸髄11番~腰髄2番に存在し、膀胱の弛緩よ括約筋の収縮に関与します。
上記の脊髄中枢が三つ巴になって排尿をコントロールするのです。そしてどれか一つでも中枢が支障を来たすと排尿はうまくいきません。
虫垂炎手術に必要な麻酔の範囲は、胸髄7番~腰髄2番の間ですが、通常に脊椎麻酔をかけると胸髄7番から下の脊椎の全てが麻痺してしまいます。つまり、骨盤神経・陰部神経・下腹神経の全てが麻痺するのです。
麻酔薬が時間と共に吸収・分解されて麻痺は完全に戻る!と医師は都合よく思っていますが、本当は誰も正確には確認できません。先ほど説明した麻酔後の神経因性膀胱のようにハッキリとした症状が認められれば、一時的にしろ麻痺は残ったと判断できます。そしてタマタマだろうと思い込んでしまうのです。もしも麻痺が残っていて100%の機能が30%くらいまで落ち込んでいれば顕在症状として確認できるのですが、仮に70%~80%程度の低下では症状として現れません。そしてこの状態が回復せずに後遺症として残ってしまった場合、数年であればそれ程問題にはならないでしょう。しかし10年、20年と経過した時に積もり積もった膀胱や前立腺にかかった負荷を身体がいつまでも黙っていられるでしょうか?程度の軽い排尿障害が、排尿時の膀胱出口の振動を作り、その振動が膀胱出口・膀胱頚部を硬化させ、遂には器質性膀胱頚部硬化症となり、益々排尿障害を強くし、それが非細菌性慢性前立腺炎症状として顕在化するのではないでしょうか?
下記に、慢性前立腺炎症状、下部尿路症状があり、平成18年3月13日~4月12日までの1ヶ月間高橋クリニックに来院した患者さん(初診・再診を含めた95人中)で虫垂炎手術した方の写真(撮れなかった方もいます)を掲載します。
虫垂炎の生涯罹患率は7%(15人に1人)です。95人中22人(23%)の虫垂炎手術既往のある患者さんを集めるためには、一般的にはその15倍の315人診察をする必要がある訳です。虫垂炎手術と慢性前立腺炎の間にただならぬ関係を疑うのは不思議ではないでしょう?痔の手術を含めれば脊椎麻酔を行なったことのある患者さんは、95人中27人(28.4%)にもなります。
1.69歳男性
12歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。33歳・42歳の2回ヘルニア(脱腸)の手術を脊椎麻酔で行う。
PSA5.5とやや高値で高橋クリニックを紹介される。以前から頻尿と夜間頻尿がある。排尿障害を認める。
2.88歳男性
45歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成11年に前立腺肥大症?の診断で内視鏡手術を受けている。平成15年頃から尿線が細くなる。
3.50歳男性
17歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成14年より尿の出が悪いので泌尿器科受診、「慢性前立腺炎」の診断でクラビット処方された。
平成17年1月、3月とやはり尿が出にくいく、尿意頻拍があり国立国際医療センター受診する。やはり「慢性前立腺炎」の診断でセルニルトン・クラビットを処方される。
4.30歳男性
18歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成16年より会陰部のムズムズ感を訴える。「慢性前立腺炎」と診断されセルニルトン処方されるも改善せず。
5.49歳男性
15歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成14年より会陰部痛、左太もも内側の痛みを訴える。佐久総合病院で「慢性前立腺炎」と診断される。心療内科で脳電気通電によるECT治療なるものを全身麻酔下で計8回行われ、症状は改善せず、記憶障害の後遺症のみ残る。
6.46歳男性
16歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成12年より両鼠径部痛、会陰部痛が出現、「前立腺痛」の診断で桂枝茯苓丸を処方されるも症状は一進一退であった。
7.60歳男性
35歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
午後からの30分~1時間に1回の頻尿で苦しむ。前立腺の大きさは13cc(正常は20~25cc)なので、一般的な意味での前立腺肥大症は否定される。
8.75歳男性
20歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。25歳頃から、飲酒すると頻尿になることに気付く。最近、夜間頻尿3回で高橋クリニックを受診する。前立腺の大きさは28ccで若干大きい程度。超音波エコー検査上は膀胱頚部硬化症である。
9.70歳男性
20歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔を行なう。10年前から頻尿で悩む。前立腺の大きさは26ccでほとんど正常の大きさ。写真撮影時蕁麻疹を認める。
10.26歳男性
23歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
会陰部痛、両側睾丸痛、太もも内側しびれ、腰痛を訴える。地元のクリニックで慢性前立腺炎と診断される。
11.44歳男性
10歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成15年より3日間続く突然の尿意頻拍が年に3回起きる。平成17年8月頃より睾丸の痛みを感じる。ご自分で性行為感染症・STDを疑い病院を転々とする。排尿後の残尿が340ml認める。ハルナールの服用で症状軽快する。
12.60歳男性
20歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
20年前から頻尿(1時間半に1回)、夜間頻尿5回で悩み当院素受診する。前立腺の大きさは19ccで正常以下である。痔の手術を21歳、31歳、53歳の計3回行なっており、いずれも脊椎麻酔で手術をしている。
13.37歳男性
20歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
10年前から残尿感と頻尿を訴える。岐阜のある市民病院で「気のせい」、ターミナルビル泌尿器科で「慢性骨盤内静脈うっ滞症候群」、個人病院で「細菌性膀胱炎」と診断されるも改善せず、高橋クリニックを受診する。
14.44歳男性
5歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
10歳から頻尿で現在1時間に2回の頻尿と夜間4回~10回の頻尿である。20歳の時に前立腺生検を2回も行われ、非細菌性慢性前立腺炎と診断される。
15.45歳男性
5歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
慢性前立腺炎の診断で治療されるも軽快せず、高橋クリニックを受診する。ハルナールの服用で症状が消失する。
16.82歳男性
36歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。夜間頻尿5回を訴え来院する。前立腺の大きさは28ccで若干大きい程度。超音波エコー検査上は膀胱頚部硬化症の所見であった。ハルナール服用で夜間頻尿3回に減少する。内視鏡手術の適応であるが、患者さん本人がその気にならない。
17.77歳男性
20歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成13年、近くの泌尿器科で前立腺肥大症手術を行っている。平成17年9月から頻尿が再発し、高橋クリニックを受診する。
18.41歳男性
19歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行う。
平成11年に慢性前立腺炎の診断でクラビット・セルニルトン・八味地黄丸の処方を受けるも改善せず。症状は下腹部の痛み・全身倦怠感・手足のしびれ・頻尿(1時間1回)・夜間2回頻尿。
手術を強く希望し行なった。症状は全て消失。
19.62歳男性
20歳の時に虫垂炎手術を脊椎麻酔で行なう。
夜間頻尿5回で苦しむ。
21.90歳男性
会陰部痛を主訴に来院した患者さんです。40歳の時に十二指腸潰瘍を脊椎麻酔で手術、55歳の時に虫垂炎を脊椎麻酔で手術、65歳の時にヘルニア(脱腸)を脊椎麻酔で手術しています。何と3回も脊椎麻酔を受けているのです。
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