« メール相談 慢性前立腺炎編#16 | トップページ | 手術に関する患者さんの感想メール »

慢性前立腺炎の手術治療の変遷

性前立腺炎を手術で治すといっても、ワンパターンの内視鏡手術を行っている訳ではありません。この5年間に難治性非細菌性慢性前立腺炎といわれる病気の病態生理を解明し、私も含めた医師の慢性前立腺炎に関する常識(呪縛)の誤解を解き、毎日試行錯誤をしながら少しでも良い治療結果を出そうと研鑽しています。
慢性前立腺炎の手術治療は、日本でも恐らく私だけでしょうから、私が先頭走者だと自負しています。その内、きっと優秀な医師に次々に追い越され、私の治療が当たり前の時代になるでしょう。でも現時点でトップランナーであったことを誇りにしたいと思います。

さて、私が慢性前立腺炎を手術で治そうと思い付くには、あるエピソードがありました。
他の有名クリニックで慢性前立腺炎と診断されたタクシー運転手さんにたまたま排尿障害を見つけたのです。その排尿障害を治療するために手術を行ったら、何と慢性前立腺炎症状が消失したのです。それを機に、難治性非細菌性慢性前立腺炎は排尿障害がその本質病態と考え、内視鏡手術で排尿障害を治せばよいと思いつきました。このエピソードは、泌尿器科医の私としては「目からうろこが落ちる」的大事件でした。新興宗教でいえば、「神からの啓示」でしょうか?(チョッと大げさですが...)

【術式の変遷】
慢性前立腺炎の患者さんは若い方が多いので、手術の際に逆行性射精を作らないようにと、膀胱頚部・膀胱出口の12時方向のみを切開・切除して、排尿障害を取りました。
しかし、この方法で排尿障害を治しただけでは、慢性前立腺炎の主な症状である頻尿・残尿感・陰部痛・会陰部痛・下半身の不快感などが100%治るわけではありませんでした。症状に応じた中枢神経・脊髄神経反射回路がすでに出来上がってしまい、排尿障害を治しても手遅れ?と、手術治療での限界を感じていました。

患者さんの中には数年~10年以上経過しており、長期間の排尿障害で作られてしまった膀胱三角部の敏感さに問題があるのでは?とある時考えました。そこで、膀胱の感覚センサーが集中する膀胱三角部にYAGレーザー光線をスポット照射し、膀胱三角部の知覚感覚面積を縮小させることにしました。ある程度効果がでましたが、それでも慢性前立腺炎症状が100%治るわけではありません。

他に理由は?と考えているうちに、膀胱頚部・膀胱出口の6時方向が膀胱三角部と直結していることに注目しました。今まで手付かずであった6時方向を切開・切除すると膀胱三角部に効果が出るのでは?とその箇所の手術に心掛けました。しかし、まだ完全な結果が出せません。

そこで、今まで行ってきた膀胱三角部のレーザー光線照射は止め、電気メスで膀胱三角部の中央から膀胱出口まで一直線に正中切開を加え、膀胱三角部の緊張を一挙に解除することに心血を注いで現在に至っています。

【年齢による術式の選択】
さらに、年齢によって手術方式も分けています。20歳前後、30歳~40歳、50歳以上の3グループに分けて、手術方式を変えています。また、既婚者か独身か子供が欲しいのか、すでにいるのかでも方式が変わります。
20歳前後
膀胱出口6時の切除・膀胱出口12時の切開・膀胱三角部から膀胱出口の正中切開
30歳~40歳
膀胱出口6時の切除・膀胱出口12時の切開と一部切除・膀胱三角部から膀胱出口の正中切開
50歳以上
膀胱出口6時の切除・膀胱出口12時の切除・膀胱三角部から膀胱出口の正中切開
あるいは通常の前立腺肥大症の内視鏡手術(TUR-P)

【麻酔法の変遷】
私の得意技である仙骨神経ブロックを利用して手術を行い始めました。
仙骨神経ブロックの利点は、筋肉弛緩が少なく、手術後早い時間に歩行できます。
仙骨神経ブロックの欠点は、麻酔レベルがなかなか上昇しにくいことです。手術では膀胱まで十分に麻酔が効かなければなりません。膀胱の脊髄レベルは、胸椎9番くらいまでです。仙骨神経ブロックで胸椎9番まで上昇させるには、麻酔薬が20ml以上必要になります。
現在、脊椎麻酔を主流にしています。麻酔薬には工夫を凝らして、麻酔後4時間以内に歩けるように心掛けています。

【実際の手術の流れ】
31歳の男性患者さんの実際の手術をご覧に入れましょう。
尿道炎の診断で6ヶ月間抗生剤の投与を受けていました。改善しないために、慢性前立腺炎の診断でセルニルトンとドグマチール(抗うつ剤)の処方を受けていました。
3ヶ月前から肛門の痛みが出てきました。2時間に1回の頻尿があります。
当院で排尿障害を見つけ、エブランチル(α-ブロッカー)の治療を続けたところ、症状がわずかに軽快したのですが、手術を強く希望され、2005年5月13日、内視鏡手術を行いました。
【写真1.2.3.】
16653m31cp16653m31cp316653m31cp4
1.手術前の脊椎麻酔下で前立腺部尿道を観察すると、膀胱出口が十分に開いていません。正常であれば、手前の精丘(精液の噴出孔)から膀胱出口が十分に確認できる筈です。これは膀胱頚部硬化症の所見です。
2.直径6mmのループ型電気メスで、膀胱出口6時部分を切除します。膀胱出口とループの大きさを比較しています。
3.膀胱出口の6時の部分が開きました。切除する時の電気メスでの感触は硬い感じです。

【写真4.5.6.】
16653m31cp516653m31cp616653m31cp7
4.ループ型電気メスでこれ以上切除すると、前立腺への被害が出ることがあります。器械を長さ3mmの電極型電気メスに交換して、膀胱出口6時を注意しながら切開し膀胱出口の緊張をゆるめます。
5.筋層が出現するまで、切開面を注意しながら正中切開します。
6.膀胱出口6時に十分な縦切開が入りました。これで膀胱出口の緊張はとれました。

【写真7.8.9.】
16653m31cp816653m31cp916653m31cp2
7.膀胱出口を十分に開きましたが、膀胱知覚センサーの膀胱三角部がそのままです。膀胱三角部が硬いままだと、会陰部痛や尿道痛などの多彩な慢性前立腺炎症状が軽快しないことがあります。そこで、さらに電極型電気メスで膀胱三角部から膀胱出口にかけて一直線に正中切開をします。
8.膀胱三角部を切開して、膀胱三角部の緊張をゆるめました。
9.手術直後の前立腺部尿道の所見です。精丘から膀胱が十分にスペースとして確認できるようになりました。この時点で十分に膀胱出口が開いていますから、膀胱出口12時は切開しません。開きが不十分な場合には、膀胱出口12時を電極型電気メスで切開します。

※倉内先生!お電話ありがとうございます。こんな感じで慢性前立腺炎=機能性膀胱頚部硬化症=膀胱出口閉塞症BOO(bladder outlet obstraction)の手術を行っています。参考にして下さい。注意点として、欲を出して切り過ぎないことです。石橋をたたいて橋を渡るがごとく手術を行っています。
ご婦人のBOOも同じように行います。慢性膀胱炎の手術の変遷をご覧下さい。ご婦人の場合、膀胱出口の内尿道括約筋と尿道中間の外尿道括約筋の間隔は1cm以上離れていますから、間違って外尿道括約筋を切ることはありません。

|

« メール相談 慢性前立腺炎編#16 | トップページ | 手術に関する患者さんの感想メール »

コメント

父(65才)が過度の飲酒により尿が出ないと病院へ行き前立腺の薬をもらいました。昨日、再度病院へ行くと今月末に検査入院をすることになりました。その後手術になると思われます。父はがんなのでしょうか?そうなら、もっと早く入院すべきと思いますが、なぜ二週間後と言ってきたのでしょうか?その病院を信頼していいのかもわかりません。教えてください

【高橋クリニックからの回答】
排尿障害による尿閉ですから、まず前立腺肥大症でしょう。検査入院は、どんな場合でも前立腺肥大症に癌が隠れている可能性があるからです。
なお、このような質問は、本来、主治医にするべきものです。質問することで、医師との意志の疎通がはかれます。
病院を信頼すべきかどうかを考える以前の問題です。

投稿: | 2008/10/15 22:43

2ヶ月前に慢性前立腺炎と診断され通院しております。前立腺マッサージ後、菌の有無を調べてもらいましたが陰性でした。手術で治ると聞きましたが可能でしょうか?また、入院期間をどれくらでしょうか?宜しくお願いします。

投稿: 吉田 | 2015/07/21 11:32

慢性非細菌性前立腺炎は手術で治るのでしょうか?また、入院期間はどれくらいでしょうか?
【回答】
慢性前立腺炎は排尿障害が原因です。
炎症疾患と誤診をして、炎症の治療しかしないので治らないのです。
排尿障害の治療薬で、7割の患者さんは症状が軽快します。
軽快しない患者さんについてだけ内視鏡手術を考えます。

投稿: 吉田 | 2015/07/21 11:38

今年の1/23日に初めて先生の診察を受け、ハルナールを6月まで飲みました。しかし症状がよくならなかった為、板橋の日大病院で検査をお願いし実施しました。血液・尿・MR検査を致しました。結果気質状異常なしと言われ、ペイン科で仙骨硬膜外注射を受けましたが、良くなりません。まつたくうつてだてがありません。是非手術をお願いいたします。
【回答】
ご相談にいらしてください。

投稿: 大館 | 2015/07/30 22:00

慢性前立腺炎と診断されて9ヶ月になります。セルニルトンと鎮痛剤の処方から始まり、漢方やαブロッカーも服用しましたが、下腹部の痛み、足の付け根の痛み、臀部の鈍痛など症状が一向に改善されません。一番辛いのは長く座っていられないことです。1月からは急に何もやる気がなくなり心療内科で安定剤も服用するようになりました。しかし、根本的には何も解決せず仕事もままならない状態です。教員をしており、なかなか土日も休むことができない状況なのですが今は、休みたくて仕方がありません。早く元の体に治して元気に働きたくメールしました。手術で治るなら今すぐにでも手術を受けたいです。是非ご助言をお願いします。
【回答】
水分は1日1㍑以下に制限してください。
αブロッカーは、ハルナール・ユリーフがお勧めです。
ジェネリックは効果が薄いです。
一緒にベタニスの服用もお勧めします。

投稿: 高○哲○ | 2016/01/29 23:14

高橋先生お世話になります。
5月19日は予定通り伺います。宜しくお願いします。

このプログ記事に以下の文が有ります。
>膀胱出口を十分に開きましたが、膀胱知覚センサーの膀胱三角部がそのままです。膀胱三角部が硬いままだと、会陰部痛や尿道痛などの多彩な慢性前立腺炎症状が軽快しないことがあります。

2005年の内容なので先生の手術手法も器具も変遷し今は多少の違いが有るかもしれません。
この時期にはなかったきのこ型のメスもこの後登場してます。
二回目の私としては、この部分なのかな?と思ったり、違うのかな?と思ったり。
基本的には先生に委ねる他有りませんが。

明確なお答えはなくて構いません。診察の時に伺っても構いません。

兎にも角にも宜しくお願いします。
準備は整いました。

投稿: 31356 | 2016/05/15 16:25

慢性前立腺で肛門の違和感と鈍痛があり、10年ぐらいになります。いろいろな、抗生剤など試しましたがいっこうによくなりません😖最新式の治療法はありますか、ネットで調べたら、衝撃波治療法治療法があると、有りました⁉賛否いろいろな有りますが。最終的には手術しかありませんか。
★回答
慢性前立腺炎の原因がハッキリに分からず、前立腺を衝撃波で短絡的に傷害を与える治療することは、非科学的です。
慢性前立腺炎は、感染症ではありませんから、抗生剤が効くわけがありません。
このブログをよく読んでください。

投稿: ショウジ | 2018/05/13 17:37

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/37412/3978807

この記事へのトラックバック一覧です: 慢性前立腺炎の手術治療の変遷:

« メール相談 慢性前立腺炎編#16 | トップページ | 手術に関する患者さんの感想メール »