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骨盤内静脈うっ滞症候群と慢性前立腺炎

骨盤内の臓器周囲の静脈がうっ滞(うっ血)している所見が存在して、患者さんの苦しむ症状が付随している時に、骨盤内静脈うっ滞症候群と呼んでいます。しかし、この病名は漢方の考え方の受け売り的病名のような気がしてなりません。本来欧米医学ですは、「うっ血」なる病気の考え方は存在しない筈です。漢方では「瘀血(おけつ)」という考え方があります。瘀血(おけつ)は「血」の流れがよどんで病気を作る様を云います。この「血」は動脈血でも静脈血でも構わないのです。

先日、慢性前立腺炎と思われる患者さんで、骨盤内静脈うっ血の所見を認めた方が来院されたのでここに紹介します。
カルテ番号16114患者さんは31歳男性です。症状は尿の出始めの尿道先端の痛みと射精直後の痛みです。2ヶ月前から症状が出現しましたが、そのまま放置、治らないので高橋クリニックに初めて来院しました。
いつもの通り、尿を一杯ためていただき、超音波エコー検査・尿流量測定ウロフロメトリー検査・残尿量測定検査を行いました。

超音波エコー検査の膀胱の所見:
黒く見えるのが膀胱内の尿です。その周囲に膀胱壁が確認できます。膀胱壁に沿って外側を数珠状に静脈の拡張が認められます。
cp16114echo.jpg

上記の拡大所見:
拡大して観察した所見です。小さな↓で示すのが拡張した静脈です。この所見で「静脈うっ滞」と診断できます。
cp16114echo2.jpg

尿流量測定ウロフロメトリー検査:
尿の勢いは、右の正常のグラフ曲線と比べても明らかに悪いのが判断できます。
cp16114urf.jpg m51normal-urflw411ml.jpg

【考察】
静脈がうっ滞しているから排尿障害になっている訳ではなく、排尿障害が存在しているから静脈がうっ滞していると判断した方が論理的に矛盾がないと考えます。骨盤内静脈うっ滞症候群という病気は現時点で原因不明ですが、この患者さんのように明確な原因が特定できれば、何のことはない、排尿障害による2次的な血流障害だということが分かります。例えれば、カラオケで歌いすぎてのどから出血したのと似ています。
骨盤内静脈うっ滞症候群の「うっ血」だけを治療目標とするから治る訳がありません。「うっ血」は体の正常な生理反応です。原因を治さないで正常な生理反応を抑えることには無理が生じます。恐らく排尿障害を治せばうっ血は治るのでしょう。結果をこうご期待です。

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コメント

術後のエコー検査では骨盤の鬱血はどうなっていましたでしょうか?また、全体の感じとして、今まで手術を受けられた患者さんのその後の鬱血所見を教えてください。

【高橋クリニックからの回答】
排尿障害による骨盤内の慢性的静脈圧上昇で生じた鬱血所見は、静脈の拡張=静脈瘤ですが、手術後すぐに消失するものではありません。
なぜなら、静脈瘤は血管による器質的変化だからです。おそらく正常の血管に戻るまで1年以上かかるのではないでしょうか?ですから、内視鏡手術によって、症状が改善・軽快しても静脈瘤は当然、残ったままです。また、症状が治った患者さんは3ヶ月以降来院しなくなりますから、1年経過後の確認もできません。
このようなご質問からすると、貴方は、鬱血所見が慢性前立腺炎の症状の主原因とお考えですか?私は超音波エコー検査で判別できる鬱血所見は、排尿障害の診断に必要な検査所見だと思っているだけです。あくまでも排尿障害による2次的変化としてとらえているだけで、器質的変化が正常に戻るまで1年以上かかるのでは、治療の経過判断には価値がないと考えます。
肝硬変による食道静脈瘤はとても有名な病気ですが、静脈瘤の破裂による大出血というアクシデント以外に、本人の自覚症状はまったくありません。慢性前立腺炎や慢性骨盤疼痛症候群のようにほかに異常所見がなく、たまたま鬱血所見だけが見つかった場合、辛い症状を鬱血のせいにしたくなる気持は分かりますが・・・。
この記事は2004年11月のものです。
「結果をこうご期待」と書いたことはとうに忘れていました。思いださせていただいてありがとうございます。そういった割には、冷たい答えですみません。

投稿: スイカ | 2006/09/28 03:52

残念ながら、私は鬱血が原因とは思っていません。(笑) ただ、私自身に鬱血の所見がありましたので、手術すれば先生の理論通り鬱血が消えるかという興味からなるメールでした。なるほど3ヵ月後からは来院されなくなるのがほとんどなのですね。ということは、結構皆さん回復されているようですね。術後数年でまた再狭窄するという医師もいるようですが、術後2,3年後の膀胱頸部の画像などが見てみたいとも思っていましたが、先の説明から察するに無理なようですね。。。
患者としての私の考えでは大きく先生の理論が正しいと感じています。ですので術後の状態が気になるのです。
 そもそもの膀胱頸部硬化がなぜ起こるのかが解明できればほぼ慢性前立腺炎の理論的発症過程が確立すると思いますので是非頑張ってください。麻酔の後遺症も確かに疑わしいですが確立論的に見て少なくとも3/4の方は経験されていないのですから、その他にも要因があるはずでね。。。(ちなみにプロゴルファーの卵は無事プロに孵ったのでしょうか?)それではケイシフクリョウガンを今日も舐めながら寝たいと思います(嘘です。)

【高橋クリニックからの回答】
再狭窄は、通常、3ヶ月を経過した頃から判別できます。尿線が細くなったり、慢性前立腺炎症状がぶり返すからです。
その場合は、患者さんと相談して、2度目の手術を行ないます。
再狭窄の場合は、超音波エコー検査では通常判別できません。なぜなら、再狭窄の壁が非常に薄く、超音波エコー検査上では膀胱頚部が開いて見えるからです。
他の泌尿器科で前立腺肥大症手術をなさって、手術後再び尿の出が悪いと執刀医に訴えても、超音波エコー検査で膀胱頚部は開いているから、「年のせいだ」と云われて、泣く泣く当院に来院される患者さんが、年に数人おられます。
確かに超音波エコー検査では十分に開いているように見えますが、尿流量測定ウロフロメトリー検査では結果が非常に悪く、膀胱鏡検査を行なうと、壁の薄い膀胱頚部硬化症です。
そのうち、ブログに掲載しましょう。

投稿: スイカ | 2006/09/28 20:03

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