メール相談 慢性前立腺炎編#4
このメール相談の方からは、回答メール後の返信メールで、この企画をお褒め頂いたので、相談内容を掲載いたします。ほぼ原文のままです。
ところが、ご自分の書いたメール内容が掲載されてから精神的に不安になったので、実例ページにしてくれと要望がありました。他人のメール相談は役に立つが自分のは勘弁という豹変には...。メール相談内容を私が要約すると、この方の悩みが伝わってこないのですが、仕方なく実例形式に内容を変えます。
「28歳の男性会社員。
女性との性的な関係後、尿道の先端に違和感(痛み、かゆみ)、会陰部の軽い痛みを感じる。一週間後に総合病院の泌尿器科を受信したところ即日の尿検査は問題なし。排尿時に関係なくじりじりとした感覚が消えないため一週間後、再度受信したが尿検査は異常なし。症状が続くため、さらに1週間後、受信したところ尿検査で白血球が認められたため、クラビットを一週間処方。再度尿を採取し、尿内に「特定はできないが雑菌らしきものが認められた」といわれた。白血球は認められなかったため、「漢方薬でも飲んで様子見てください」と107番の漢方薬を2ヵ月分まとめて処方された。
しばらくして尿道先端付近の痛みは消えたが、会陰部付近の痛みが強くなり始めた。
・車の運転中じりじりとした痛みが強くなる
・仕事中、イスに座っているとじりじりと痛みが強くなる
症状が強くなると尿意が強くなることもあるが、夜に頻尿になることは今のところ自覚しない。痛みが強いときはボルタレン座薬で何とかしのいでいる。
総合病院の対応に疑問を感じ始めたため、別の病院(少し規模が小さい)の泌尿器科を受信。
・尿検査 (培養後、大腸菌が出たとのことでしたが問題ないそうです細菌は認められないといわれました)
・前立腺を触っていただいた (そのときは特に問題なし)
・血液検査 (特に問題なし)
・仙骨ブロック注射 (その日は痛みを感じませんでした)
陰部のうずきがあるためと安定剤や痛み止めをいただくために通院したが、そのときの前立腺マッサージで痛みを感じた。(肛門に対しての痛みだったのか、正直自信がないのですが…) 「慢性前立腺炎」らしき診断をされた。処方されたのは以下。
フロモックス錠100mg、アデフロニックズポ50、ヨウフェナックス錠25mg、チワンカプセル10、メンビット錠、レキソタン錠
違和感を感じてから2ヶ月半も立つため、だんだんと精神的にまいり始め、仕事に差支えが出ている。」
【解説】
尿道の先端に違和感(痛み、かゆみ)、会陰部の軽い痛み
これらは、慢性前立腺炎で多い症状です。感覚のある部位が尿道に沿っているので、尿道炎と思い込む患者さんが多いのも事実です。全て関連痛です。
尿検査は問題なし
泌尿器科医は必ず尿検査を行います。尿検査で判断できる病気は、尿路性腫瘍(血尿)・慢性腎炎(蛋白尿)・糖尿病(糖尿)・細菌性尿路感染症(腎盂腎炎・急性膀胱炎・急性尿道炎が白血球で証明)・黄疸性疾患(胆石・胆管癌・膵臓癌がビリルビンで証明)などです。ところが泌尿器科の病気には、尿検査で異常が出ない病気がその他にもたくさんあります。尿検査は問題なしは、泌尿器科の病気がないということではありません。
尿検査で白血球、雑菌
白血球は、炎症のあるところに必ず出てきます。無菌の炎症にも出張ってきます。一般的なキズの順調な創傷治癒過程にも白血球は出てきます。ですから白血球が出ているからといって、必ずしも細菌が暴れている訳ではありません。雑菌は私たちの体には無数に存在します。尿検査で雑菌が認められても心配要りません。
漢方薬でも飲んで
治療には、必ず標的や治すべき目標がなければなりません。「漢方薬でも飲んで」という言葉には、真剣な治療の姿勢が感じられません。漢方では患者さんの体質や病気の勢いを正確に調べて(証)、それに合った漢方薬を処方するのです。「でも」といわれるほどいい加減な治療ではありません。尿検査がその根拠にもなりません。
症状が強くなると尿意が強くなる
ご本人が経験し感じているように、痛みの症状⇒尿意=膀胱刺激症状=膀胱の感覚という図式が成り立つのです。痛みの正体は、膀胱の辛さが投影されたものに他ならないのです。これも関連痛の仕組みから説明できます。
血液検査
非細菌性慢性前立腺炎と炎症という名称は付いていますが、本当の感染症ではないので血液検査で異常が出る訳がありません。
仙骨ブロック注射
仙骨神経ブロックは、仙骨脊髄中枢の神経回路反射のオーバーヒートを鎮めてくれますから、一連の慢性前立腺炎症状を治まります。でも、排尿障害を治さない限り一時的な治療でしかありません。
安定剤
脊髄中枢からのオーバーヒートは、大脳中枢にも負荷を掛けています。ですから、安定剤が効くことがあります。安定剤が効くからといって、この病気は「精神的・心因性・気のせい」の類の病気ではありませんから誤解のないように。
【2回目のメール】
「先日現病院より処方された抗生剤により、ここ二日は幾分症状が和らいでいる。
今週末に再度検査結果を聞きに現在の病院へ通院予定が、先生のご指示を参考に主治医と相談のつもり。
排尿障害、といわれてこの強い症状が現れる以前から、尿の切れが悪いときがあったことを思い出した。出すことに問題はないのですが、最後にすっきり終わらず、職場の席へ戻ったころ残っていた尿がいくらか出てきてしまう。残尿感、といえばそうかもしれません。時たまであった上、気にもしていなかった。
先生のブログで紹介されているレーザー治療以外に、投薬等での治療もあるのでしょうか?今後改善の兆しがない場合、高橋先生に診ていただくために、○○県からでも通院治療を行うことは可能でしょうか?(仕事はいまのところ幾分都合を付けることが可能です) 質問ばかりですみません。
ところで高橋先生のブログですが、大変充実しており同じような病状を抱えるさまざまな方の支えになっていると感じております。特にメール相談の内容を掲載していることに関しては大変参考になります。その方の症状の経過などもあればさらに良い情報源となるかと思いました。先生の姿勢に大変共感を覚えます。どうか先生のようなお医者様がこれからも増えていくことを願っております。」
【解説】
尿の切れが悪いときがあったことを思い出しました、気にもしていなかった
慢性前立腺炎と診断されたが、なかなか治らない患者さんにお話を聞くと、排尿障害のエピソードの経験が必ずあります。「大したことがない」あるいは「たまに」なので、患者さん本人も気にも留めないのです。また重要とも思わないのです。排尿障害が過去にあることを医師に告げれば、もう少し検査の方法もあったのでしょうが、医師の方も患者さんから聞き出しもしないからどっちもどっちもですが...。
レーザー治療以外に、投薬等での治療
治療には二つの攻め方があります。
一つ目は、膀胱刺激症状をとる方法です。敏感になった膀胱や仙骨脊髄-膀胱反射回路の沈静化を目的とした治療法です。内服薬では、頻尿改善剤(ブラダロン・ポラキス・バップフォなど)、解熱鎮痛剤の坐薬(商品名:インダシン坐薬・ボルタレン坐薬など)、IPD(抗アレルギー剤)、α-ブロッカー(ハルナール・エブランチルなど)です。仙骨神経ブロックも反射回路の沈静化に役立ちます。また、抗うつ剤や安定剤も効く場合があります。手術治療では、膀胱の三角部が一番敏感ですから、その部分をレーザー光線照射で焼いて鈍感にします。一つ目の方法はあくまでも膀胱刺激症状を除去するのが目的ですから、排尿障害を治さない限りは、繰り返し行わなければなりません。
二つ目は、排尿障害を改善させる方法です。膀胱出口が排尿時に十分広がらないので、膀胱が過敏になるのですから、その治療を行います。内服薬では、α-ブロッカー(ハルナール・エブランチルなど)です。手術治療では、内視鏡を利用した膀胱頚部切開術があります。
| 固定リンク
コメント